Butterfly

□3.別離
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一味は久し振りに大地の感触を噛み締めた。


「ここ、町あんのか?」


しかしどうやら町は無く、雄大な大地とうっそうと茂る森があるのみだった。


「ショッピングしたかったのに……」

「まぁ、たまにはこういうのもいいじゃねぇか。ルフィ! 森行ってみようぜ!」

「おぉ! でかいイモムシとかいねぇかな!?」

「……気味悪い事言ってんじゃねぇ。さっ、ナミさんとレインちゃんはおいしいお茶だよ〜!」

「お? イモムシにびびってんのか?」

「うるっせ! マリモ!! てめぇは一人で出歩くんじゃねぇ!!」


どこでも賑やかな一味に目を細めると、レインは最近気になっている事をふと考えた。


(軍艦が沈められた事を伏せるのはともかく、なぜ何の反応もない……?)


レインに懸賞金がかけられる訳でもなく、また一味の仕業にする訳でもなく。

嵐の前の静けさのように沈黙を貫く政府に、レインは何か不気味さを感じずにはいられなかった。


「レイン?」


物思いにふけるレインをナミが心配そうな顔で覗き込む。


「――なんでもない」


レインは微笑んだ。

最近は昔のようにすぐ笑顔が作れるようになっていた。

しかし、レインのその笑顔はまたすぐに崩れる事になるのだった。












突然、森の方からズドンという音と共に閃光が走る。


「!」

「なに今の!?」


ルフィとウソップが走って帰ってくるのが見えた。


「お〜い……! おまえら〜!!」


そして二人の後方からは夥しい数の海兵が追ってきていた。


「逃〜げ〜ろ〜っ!!!」

「!」

「なんだ!」


その時、対岸から島全体に響き渡るような拡声器の音が聞こえる。


「あ〜、海賊『麦わらの一味』に告ぐ!! マスタ王国ビリア王より、今はなき王国、クライズメインのレイン王女を貴様等に誘拐されたとの連絡を受けた!!」

「!」

「誘拐!?」

「したがって、早急に我らに身柄を渡すべし!! 以上!!」

「……なに〜!?」

「……!」


ゾロは表情を硬くしているレインに振り向いた。


「おい、今の……!?」

「叔父だ……。なぜ今更……!」

(我が国が攻められた時も素知らぬ顔をしていたというのに……なぜ!?)

「とりあえず船に乗り込むわよ……ッ!?」


ナミが船に振り返ったが、それは既に出航できない状態になっていた。

いつの間にか鉄のようなもので雁字搦めにされている。

まるで檻にでも入れられているようだ。


「あっ……!?」

「裏方なんて、ヒナ心外」


船の側には美しい女海軍大佐の姿があった。


「あれ? あいつ見た事あるな〜……っと危ねぇ!!」


一味は次々と集まってくる海兵にぐるりと囲まれた。

対岸には軍艦が五隻も見える。

そしてそれに見合う無数の海兵。

しかし、皆はそれを簡単に蹴散らしている。

普通の海兵が何人いようと今の一味の相手にはならないようだ。

だが、一筋の閃光によって、戦況は一気に崩された。


「ぐわっ……!」


肩を押さえながらサンジが倒れ込む。


「サンジ!?」


それは、乱闘から生み出される砂ぼこりの中からゆっくりと姿を現した。


「なんだこりゃあ!?」

「で、でけぇ!!」


その姿は人間のようだが、ゆうに六メ―タ―は越える大きさで一味を無表情に見下ろしている。


(これは!?)

「ふぅ……これはパシフィスタ。まだ試作品の段階だが、貴様らのような小物海賊団の相手には勿体無い位の代物だ。ありがたく死んでもらおう!」


大佐らしき者が、埒の明かない海兵達を後ろに退かせながら叫んだ。


「パシフィスタ……! 聞いた事がある……。政府が密かに開発した『人間兵器』……!!」


レインはそう言いながら、頭の中で響くジュードの笑い声に苦痛の表情を浮かべていた。


(『脳をいじった』、『時限爆弾』……なぜ、ヤツにそんな事ができるのかと思っていたが……)

「人間……!? これが?」


痛みに呻きながら驚くサンジを尻目に、ルフィの目が輝いた。


「これ……ロボじゃ―んっ!!」

「いや、言ってる場合じゃね―っ!!」


そのパシフィスタの手や口から光が迸る。


「うお〜っ! かっくいい〜!!」


ルフィだけは喜んでいたが、その光線の威力は絶大だった。

剣で斬るのとはまた違い、触れた所を粉微塵に分解しているといった具合だ。

大地が綺麗に切り取られた後、そこは独りでに爆発を起こした。

今確かにあったはずの島の端部分は、一瞬で無くなった。


「すごい……。こんなの食らったらいくらあいつらだって無事じゃいられない!」

「ナミ……」


逃げられなくなった事で焦燥に駆られている様子のナミに、レインはそっと囁いた。


「私が今から船を動くようにする……。皆を急いで乗せ、逃げろ!」

「え!? レインは!?」

「大丈夫。ちゃんと行くから……」


レインはナミに微笑んで見せると、船に向かって走った。


「――させない!!」

「!」


待ち構えていたその女の手から檻のようなものが伸び、レインを捕らえようとする。

しかしレインはそれをするりとかわし、飛び上がった。


「何!?」


檻だったものはいつの間にかバラバラに斬られ、その女の足元へと落ちていった。


(見えなかった……!?)


そしてレインは上空から船を縛っていた鉄の錠を素早く斬りつける。

しかし、鋼鉄のそれが全て取り除かれると、すぐさま女大佐が身構えた。


「ふん! 何度でもやってやる……!!」


しかし、その手はすぐに止まった。

首の一ミリ先にはギラリと光る剣があったからだ。


「……動いたら、殺す」

「……!!」


見上げたその瞳には少しの迷いもない。

迸る殺気と重い威圧感に、金縛りにあったようにその女は動けなくなった。


「ナミ!!」

「……わかった!!」


ゆっくり歩きながら名残惜しそうに剣を離すと、その女は腰が抜けたようにその場に座り込んだ。


(これが、一国の王女の目なの……!?)


一方、ゾロはパシフィスタに斬りかかり、その身の硬さに舌を巻いていた。


「なんだこりゃ!? 鉄じゃねぇ……!!」


パシフィスタは再度口を開け、眩い光を覗かせる。


「やべぇ……!」


その時、後方からナミが叫んだ。


「みんな!! 船に走って!!!」
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