Butterfly

□3.別離
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「レインはハタチ? だよね」


相変わらず食の進まないレインに、わざと取り留めのない会話をしようとナミが口を開く。


「あぁ、そうだな。……今日で」


その時全員の食事をとる手が止まった。


「!」

「え!?」

「お前今日が誕生日かよっ!?」

「おいサンジ! 酒持って来い!! 宴すんぞっ!!」

「ば〜か。先にケ―キだろうがっ!! 待っててレインちゃん!!」


一斉に騒ぐルフィ達を見回し、レインは微笑むどころか一層辛そうな顔をした。


「……」

「レイン?」


レインは俯いたまま静かに立ち上がると皆に一言謝り、出て行った。


「レイン……」

「まぁ……、お祝いできる状況じゃねぇって事か……」

「……」

「サンジ! ケ―キは?」

「うっせぇ! お前黙ってろ!!」







レインは一人夜の海を眺めていた。

いつの間にかそこはレインの指定席のようになっていた。

一人になりたい時はいつも船尾で海を眺める。


「もう三年か……」


ノウマが攻めてきたのは、レインが十七になって間もない時の事だった。

三年前は大勢の人間から祝福され、父も母も笑っていた。

色んな事があり、色んな人が死んだ。


「……」


深く息をつくと、もう一度うねる波に想いを馳せる。

その時。


「……痛っ! お前押すなって……」

「馬鹿! 声がでかい……!」

「?」


レインが驚いて振り向くと、夜の闇の中に、ぼんやりとだが一際辺りを明るく照らすものが浮いて見えた。


「レイン〜!」

「!」

「ハッピバ―スデ―っ!!!」


そこには、蝋燭に火を灯した巨大なケ―キを持つ笑顔の一味がいた。


「……!!」

「レイン! あたし達が勝手に祝いたいだけなんだから、断るのは無しよ!」

「お前、誕生日だってのに暗い顔すんなよ!」

「お〜し! ケ―キ喰うぞ〜!!」

「待て! レインちゃんが火消してからだろうが! アホ!!」


驚きのあまり言葉も出ないレインの傍に、ゾロが近づいてぽつりと言った。


「少なくともこん中には……お前が生まれてきて嬉しくないヤツは、いねぇ」

「!」


「うまそうだな〜! 甘いのか?」

「おらっ!! つまみ食いすんなチョッパ―!!」

「レイン! 早くこれ消して!」

「え〜と、願い事すんだっけ? 『勇敢な海の戦士』になれますよう……」

「おれは『海賊王』になるぞ―っ!!」

「横から割って入ってんじゃねぇよ! てか、宣言しただけだろそれ!」

「いや、あんたらの願い事関係ないから」


みんなが笑っていた。

三年前と同じだった。


「もう、出ないと思ってた……」

「あ?」


レインがまるで普通の娘のような口調で言ったので、ゾロは振り返った。


「嬉し涙……」


レインはその夜涙を流しながら、しかし笑顔で、願い事を一つした。
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