Butterfly

□2.鷹の目の男
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バルカンはエバフォ―ル城に来ていた。

あれから三年あまりが過ぎたが、この城には人は住ませず、たまに共を連れ訪れていた。


「まったく……まだわからんのか」

「申し訳ありません」

「ふん……こうなってくると財宝の話自体、信憑性が疑われるな!」

「しかしながらジュ―ド様が……」

「うるさい! ジュ―ドなど近頃顔も見せぬではないか! ヤツの話はするな!」


バルカンは、ジュ―ドが他国と関わりを持っている事を忌々しく思っていた。


「胸くそ悪い! 帰るぞ!!」

「はっ!」


バルカンは遠のいていくクライズメインの景色を眺め、ふとレインの事を思い出した。

反乱軍と攻めてくると聞いた時には驚いたが、それも昔の話。

ジュ―ドの話を聞く限りでは生きていないだろう。


「ふん……生きていた所で小娘一人に何ができる……」


ノウマの港に入ると、兵士が一人駆け寄ってきた。


「国王様! ジュ―ド様がお見えになっております!」

「ジュ―ドだと……? 何の用だ一体!」


気の置けない輩ではあったが、昨今のノウマがあるのは間違いなくジュ―ドの功績だった。

卑劣ともいうべき策略家。

バルカンはそういう所を最も警戒し、評価していた。


「バルカン様」

「ジュ―ド……ずいぶん久しいな」


バルカンは嫌味を込めて言ったが、ジュ―ドは何食わぬ顔で近づいてきた。


「これを」

「……?」


ジュ―ドは紋章のようなものが描かれた紙を差し出した。


「何だ?」

「ベアトリー家の紋章でございます」

「……それが、何だ?」


バルカンは焦れたように紙を見詰めた。

竜のような紋章だ。


「恐らく……これが財宝の鍵ではないかと」

「!」


それを聞いた途端、バルカンは目を輝かせた。


「おぉ! そうかそうか! して……、これをどうする?」

「えぇ。エバフォ―ル城内に何かあると思われるのですが……お心当たりは?」


バルカンは顔を歪ませ考えた。

目に見える宝は全て手中に収めたが、一つ気がかりなのはあの時襲ってきた海賊だった。

城内を好き勝手に荒らしたようだが、後日来てみるとその海賊は死体となって見つかり、代わりに拘束していたレインの姿が消えていた。


「……」


しかし、今さら考えてもわからない事だらけだった。


「ええい! 明日もう一度クライズメインに出向く! お前もついてまいれ!」

「……はっ」


バルカンはもはや伝説とも言える財宝が自分の手に入るかもしれないと、その夜はジュ―ドをもてなし美酒に酔いしれた。







「あ〜ちと飲み過ぎたかのう……ションベンが近いわい」


バルカンは柔らかく歪む景色を楽しみながら気持ちよく放尿していた。

だが突然、首にひやりとした感触を感じ、出ていたものが止まる。


「――バルカン様」

「ひぃっ!」


恐る恐る振り返ると、薄明かりの中に見紛うはずない高貴な瞳が漂っていた。


「レ、レ、レイン姫……!!」

「……お久しゅうございます」

「き、き、今日はどうしたのだ……! んん……?」


恐怖におののき、つい頓珍漢な言葉が口をつく。


「あなたを……殺しに」


その途端、酔いと理性が一気に吹き飛んだ。


「ひぃぃぃ〜っ!!! だ、誰かっ! 誰か〜っ!!!」


しかし、足音どころか人の気配すらない。


「……バルカン様」

「な、な、なぜだっ!? どうして誰も来ん……!?」


恐ろしいほどの静寂に、先ほど止まっていたものが出そうになる。

その時、一層低い声でレインが囁いた。


「もう、誰もおりませぬ……」

「!!」


戦慄の表情でもう一度レインに振り返ると、その髪といわず顔といわず、体中にべっとりと血がこびり付いているのが見えた。


「ぎゃあぁぁぁぁ〜っ!!!」


バルカンの首は叫びながら、萎れきった自分のモノをぼんやりと瞳に映し、床に転がった。
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