Butterfly

□2.鷹の目の男
8ページ/10ページ



一度でいい。

愛される記憶が欲しかった。

狂気に包まれるような愛ではなく。

ジュ―ドに付けられた傷は呪縛となってレインを締め付ける。

常にあの男の舐めるような視線を感じ、吐息を吹きかけられているような、そんな感覚が時に自分を狂わせた。

激しく男を求めても足りない何かは埋まらない。

なのに、どうにかそれを埋めたくて何度も何度も肌を重ねた。

ミホ―クにはそれがわかっているようだった。


「あっ……!」


レインは耐え切れず、ミホ―クの体にしがみつき、うわ言のように何度も何度も名を呼んだ。


「……ミホ……ク……!!」


幸福感に体を仰け反らせるレインを、血ではなく、涙が伝った。











「これを持っていけ」


ミホ―クの手には一つの剣が握られていた。


「これは……」


レインは恐る恐る柄から刃を覗いた。


「!」


そこには、竜の紋章が施されていた。

代々受け継がれたベアトリー家の紋章だった。


「父上の……!? ……どうして……?」

「癖でな……よい剣を見るとつい持ち帰りたくなる」


これは、十八になったらレインが正式に授かるはずだった物だ。


「……」


レインは剣を握りしめる手にぐっと力を込めた。


「ミホ―ク……行ってくる!」

「あぁ。二度と来るな……」


ミホ―クはいつもの調子だったか、その口端は緩く上がっていた。

船に乗り込むと、すぐにスタンレ―が飛んできた。


「レイン様!!」

(少し見ない間にまた一段と美しく、精悍となられた……!)


スタンレ―は感慨深い思いで一杯だった。


「スタンレ―! よく無事だった!」


レインはミホ―クの姿を最後に焼き付けると、手を振り上げ迎える同志に剣をかざした。


「これからは私が直接指揮をとる! 皆の者……行くぞっ!!」


大気を揺るがすような歓声に包まれ、レインは大きな海へと旅立った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ