Butterfly

□2.鷹の目の男
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城の中はすでにもぬけの殻だった。

広場を抜け町に出ると、前見た時よりもひどい荒れようにレインは驚いた。

住む人間がいない上に、ノウマの兵士と海賊が戦った為だろう。


「……ッ」


レインは歯痒い思いをぐっと堪えて町を走り抜けた。


(とにかく、バルカンとジュ―ドを捜さなければ……!)


その時、港にノウマの船が無い事に気が付いた。


「おい! お前!」


前を行く男に叫ぶと、またもや面倒臭そうに振り向いた。


「なんだ……キャンキャンと」

「お前が来た時に大きい船はあったか?」

「あぁ、海賊船が一つ。目障りだから俺が斬ったが」


よく見ると船の残骸らしき物が漂っている。

だがレインはもう驚かなかった。

この男の凄さはもう十分わかっている。

男はレインに構うことなく自分の物であろう、少し小さな船に乗り込もうとしている。


「待て! 私も乗せてくれ!」

「嫌だ……」

「どうしても追わなければならない男がいる!」

「追って、どうする?」

「……!」


確かに、今ジュ―ドと戦っても勝てる見込みなど全くなかった。

あの時の屈辱と敗北感がレインの胸を包む。


「では、私に剣を教えてくれ!」

「い・や・だ」

「頼む! 何でもする!!」


男はレインを馬鹿にするように笑った。


「何でも……? 何も持たないお前がか」

「……」


確かに、その通りだった。

言い返す事などできないレインは奥歯を強く噛み締めると、自分のドレスの前を引きちぎった。

その途端、白い肌が陽の光りを受け美しい光沢を纏って現れた。


「好きにしろ……。どうせ汚れた体だ」

「……」


しかし、男はその肌ではなく、まだ血が乾ききっていない生々しい傷痕の方を興味深げに見詰めていた。


「その傷は?」


レインは傷に手を添えると、決意を宿した目で男を見据えた。


「私はこの傷をつけた男を追い……必ず殺す!!」

「……」


その時、海の向こうに海賊船が見えた。

先ほどの奴等の仲間だろうか。


「……お前に教える剣などない」

「!」


男は背中から大きな刀剣を抜き、


「学びたければ……盗め!!」


海に向かって一気に振り下ろした。


「!!」


すると、海が割れた。いや、斬れたのだろうか。

その斬撃は海を裂きながら、まるで巨大な蛇のように獲物に向かっていくと、そのまま海賊船を真っ二つにした。

それを涼しい顔で眺めながら、男は剣を鞘に納めた。


「女……名は?」

「……」


レインは男に名前だけを名乗った。

もうベアトリー家はない。

自分はもう、レインという、ただの女でしかなかった。
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