Butterfly

□1.終わりの始まり
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レインがろくに食べずラウンジを出て行って直ぐ、未だ混乱しているようなウソップが口を開いた。


「なぁ、私の家臣て……あいつ、王女様かなんかか……!?」

「……多分ね。でも裏切られて国も……親も失くすなんて……ひどい」


ナミは自分の過去と照らし合わせていた。

レインを見た時に感じた親近感はこういう所から来ているのかもしれない。

そして、なんとか力になってやりたいという想いが溢れていた。











(この海も……繋がっているのか………)


レインはデッキに出て風にあたりながら、今はもうない祖国に思いを馳せていた。

その時、背後の扉からゾロが出てきた。


「……」


ほんの一瞬だけ視線が交差するが、お互い眉一つすら動かさないままだった。

ゾロは無言で少し離れた所に座りながら、欠伸をしている。


「何を求めて航海をしている……?」


不意にレインが口を開いた。

ゾロは面倒臭そうに片目だけ開けてみせる。


「……さぁな。ルフィは海賊王になるっつってるが、俺は……強さを極める。この刀でな」

「……」


レインは海を見詰めたまま少し黙っていた。


「そうか……。では、ジュラキュ―ル・ミホ―クという男を知っているか?」

「!?」


思いがけずその名を聞いて、ゾロの表情は一変した。


「鷹の目だと……何か知ってんのか、てめぇ!?」


レインはゆっくりと振り向いたが、その質問には答えず、ゾロの様子を眺めている。


「おい……!」

「レインちゅわ〜ん! ここにいたんだ?」


その時、サンジがいつもの調子で近づいて来たので、レインはまた前を向いて口を噤んだ。


「む!? てめぇ何してやがんだ!?」

「……てめぇが何してくれてんだぁ!? こらぁ!!」

「……」


一気に騒々しくなった為か、レインは怒鳴りあう二人を尻目にその場を立ち去ろうとした。


「待て! 話はまだ終わっちゃいねぇ!!」


その時、サンジを押し退けてゾロが立ち上がった。


「てめぇが待て! 何二人っきりで話してやがんだこのクソマリモ!!」


しかし、すかさずサンジも割って入る。


「さぁ、こんな野蛮なヤツは放っといて、おいしいお茶でも淹れましょうか? レディ……」

「結構だ」


レインは肩を抱こうとしたサンジの手をするりとかわした。


「はぁ〜そんな冷たい態度も素敵だ!!」


サンジはいつものように締りのない顔を晒している。


「悪いが……私を女扱いするのはやめてもらいたい」


レインは至って静かな口調で言ったが、その言葉にサンジは憤慨した。


「……いや、それは無理だ! レインちゃんの頼みでも聞けねぇ! 聞きたいが聞けねぇ! そう、それほどに君は、美しい〜っ!!」


しかし、そのサンジの台詞にレインはぴたりと立ち止まった。


「美しい……?」

「あぁ! 君は美しい!!」

「……」


まだ愛の言葉を並べ続けているサンジに背を向けたまま、レインはシャツのボタンを外すと、二人に振り返った。


「……これでも?」

「!?」


レインのはだけた胸元には、大きな傷痕があった。

右胸から左の腹部まで斜めに斬りつけられたようなその傷は、きめ細かな白い肌にピンク色の筋を痛々しく残している。


「……!」

「だから、女とは見ないで……ッ!?」


二人の反応を見て、もう一度同じ事を言おうとしたレインをサンジが突如、抱き締めた。


「!?」

「おい……!」


やべぇこいつ興奮したか、と、ゾロが止めようとした瞬間、


「バカヤロウ……! 早くボタンを留めろ!」


とサンジが叫んだ。


「!」

「誰かに見られたらどうすんだ!? ……レディがこんな風に肌を晒すもんじゃねぇ……」


そう言いながら、サンジの腕にはつい力が籠った。


「……」


レインはふと、こんな風に誰かに抱き締められたのはいつ以来だろうか、と考えた。


「ハァ……」


ゾロは安心したように息をつくと、再度腰を下ろした。


「見られて危険なのはてめぇだけだろうが……」

「うるっせぇっ! てめぇオロすぞ!!」


今度は呆れたように息をつきながら、サンジに抱き締められたままのレインをゾロは見上げた。


「大体なぁ……そんな傷自慢してんじゃねぇ。そんなもん、俺にだってあるぞ」


ほれ、とシャツをめくり上げ、自分の胸の傷を見せる。


「……ッ」

「てめぇ〜の傷と一緒にしてんじゃねぇ〜!!」

「うるせぇっ! 大体いつまでくっついてやがんだ! 阿呆!!」

「……」


レインは黙ってボタンを留め、サンジの腕からそっと離れると、この船に乗ってから初めて笑みを見せた。


「本当にお前らは……変わっている」

「!」


普段大人びて見えるが、レインは笑うとまるで可憐な少女のようだった。

二人には、平和な国の王女だった頃のレインが垣間見えた気がした。


(これはきっと……運命の恋だ!)


サンジはまたしてもだらしない顔になりながら、張り裂けそうな胸の鼓動を抑えきれず、身を捩じらせていた。

レインはそのまま中に戻ろうとしてドアに手を伸ばす。


「おい!」


しかし、ゾロはもう一度呼び止めた。


「ヤツとは……知り合いか?」


レインは今度は振り向かないままで、


「いや。……昔、寝た事があるだけだ」

「!?」


そう言って中に戻った。
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