Butterfly
□1.終わりの始まり
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「ジュ―ド……? な……ッ!?」
レインは激しく混乱した。
「……」
いや、目の前の事実をどうにか否定したかった。
レインの目に映るのは普段と変わらないジュ―ドだ。
剣を教え、時には叱り、そして愛してくれた。
「ふふ……姫よ。この男は実に使えるな! 腕も立つが、悪知恵がよく働く……」
「なに……?」
未だ信じがたい事にレインは頭がついていかない。
だがそんなレインにジュ―ドは冷たく、かつ静かな声で言った。
「――海賊に町を襲わせたのは私だ」
「!!」
レインは剣を持つ手が震えるのを、もう一つの手で抑えた。
その時、騎士団の死体が鮮明に思い出される。
屈強な騎士団相手にあのような事ができるのは、考えてみればこの男だけであった。
「いやぁ、実に簡単であった! 頭に血が昇ったお前達が海に出た後、密かに上陸していた我らが城を占拠するのは!」
バルカンは実に楽しそうに高笑いをした。
「くぅっ……!」
レインは自分の浅はかさに絶望し、その場に膝をついた。
「ふふふ……」
そんなレインの様子に満足したのか、バルカンは高笑いをやめた。
「だが姫よ。私は慈悲深い。愛するお前に一つチャンスをやろう……。この男に打ち勝てば、その二人の命は助けてやろうじゃないか!」
(父上……母上………)
「……どうだ?」
レインは剣を握り締め立ち上がった。
半ば朦朧とする意識の中で、かつて愛した男に向かっていく。
「はぁ……はぁ……」
さっきから何度立ち上がっただろう。
体が痛いのか心が痛いのかわからない。
父と母は動かない。
生きているのか、死んでいるのか。
いや、最初から息はしていなかったのかもしれない。
この男を倒して一体何が残るのだろう。
この男を殺したいのか。
この男に殺されたいのか。
その時、レインの剣が宙を舞い、赤い絨毯に吸い込まれていった。
レインの眼前にジュ―ドの鋭い切っ先が突き出される。
「剣が……乱れているぞ」
レインは床に両手をついてがっくりと項垂れた。
「く……はぁ……はぁ……」
「くくくっ! 残念だったなぁ〜姫よ」
勝負とは程遠いというような二人の斬りあいを楽しんでいたバルカンがレインの傍にするりとまわった。
それを合図に、ノウマ国の兵士がレインの両手を捻り上げ、錠をかける。
バルカンはレインの髪の毛を掴むと、床に押し付けた。
「お前は今、父と母の命を諦めたのだ!」
「……!」
バルカンは兵士にやれ、と命令した。
ノウマ国の兵士が三人がかりでレインの鎧を剥ぎ取り、そしてその下の衣服を引き裂いた。
「!?」
バルカンは薄笑いを浮かべ、丸出しになったレインの秘裂を無理矢理指で押し広げると、自分のモノをねじ込んできた。
「……ぐ! ……うぅ……!」
体を真っ二つに千切られるような痛みがレインを貫く。
「はぁ……素直に……はぁ……私の妃になっていれば……はぁ……よかったものを……! くくっ!」
先ほどから黙って見ていたジュ―ドは苦痛に顔を歪めるレインの髪の毛を掴み上げると、前を向かせた。
「見ろ……お前に何が守れる?」
その時、前方で交わっていた兵士の剣は一度天を仰ぐと、躊躇することなく振り下ろされた。
「!!」
レインの目の前で愛しい父と母の首は、まるでジャガイモか何かのようにごろんと床を転がっていった。