Butterfly

□1.終わりの始まり
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「くっ……!」


ジュ―ドの剣がまたレインを捕らえた。


「甘い! そんなんじゃ国など守れませんぞ!」

「くそ……!」


レインがもう一度立ち上がろうとした時、町の方から大きな音と共に悲鳴が聞こえた。


「何事だ!?」

「レイン様! 海賊です!! 町に海賊がっ……!」

「海賊だと……!? ジュ―ド!! 城を頼む!」


レインは矢の如く飛び出していった。












「きゃあ―っ!!」

「!!」


レインは町の惨状に目を見を剥いた。

海賊は上陸はしておらず、少し離れた海上から大砲を撃ってきていた。

畑には火の手があがり、 民家は崩壊していた。


「レイン様! うえ〜ん! 僕のおうちがぁ……!」

「……!!」


レインは5年前の惨状を思い出し、恐怖と怒りで打ち震えた。


「レイン様!」


そこに騎士団が現れた。


「……船を出せっ!!」


船を出した途端に、なぜか海賊船は砲撃をやめた。

レインは船を捕らえようとしたが、まるで嘲笑うように海の向こうへと姿を消していく。


(……何か、おかしい………)

「レイン様……! あれを!!」

「!?」


海賊船は去ったというのに、城から狼煙があがっていた。


(父上……母上……!)


急いで引き返す船の中で、レインは自分の心を埋め尽くす嫌な予感が、どうか当たらないで欲しいと願っていた。







「なっ……!?」


町の惨状は変わらないのに、先程とはうってかわり、町は静寂に包まれていた。


「人が……いない? なぜだ!? ……子供達は!?」


悲鳴や泣き声も聞こえない。

聞こえるのは民家が燃えるパチパチという音だけだった。

するとレインの目に、倒れている人影が映った。


「……マ―ガレットおばさん!」


急いで抱き上げたが、傷は深いようだ。

すでに意識は朦朧としている。


「……レイン様……子供……城に……」

「しっかりして! おばさん!」


何とかそれだけ伝えると、おばさんはがっくりと息を引き取った。


「……おばさ……ん……」

「レイン様! 城へ向かいます!」


騎士団は城へと一直線に駆け出し、レインもなんとか立ち上がると、その後を追った。

その道中で倒れている人影を見かける度に、レインの胸中に雷雲のような黒いものが広がっていく。


(おばさん……なんだ? 何が起こっている……。ジュ―ド……無事なのか?)


頭の中をぐるぐると不安が駆け巡った。

城に着くと門は開いており、狼煙があがっている事以外は普段と変わりないようにすら見えた。

しかし、ほんの少しの希望も打ち砕くような、むせ返る程の血の匂いが強烈にレインの鼻をつく。


「……大臣!」


もう息はない。


「みんな……」


先に入ったはずの騎士団の死体がそこらに散乱している。


「く……!」


レインは父の寝室に向かった。


「父上……!」


そこには父や母どころか、誰一人としていなかった。


(どこだ? どこにいる……!?)


レインは見えない敵に翻弄され、焦りと恐怖に心を掻き乱された。

城内の死体の山に何度も足をとられそうになる。

従者や、側係りや、知っている者全ての目が虚しく宙を見つめていた。

レインの瞳からは、いつの間にか涙がぼろぼろとこぼれていた。


「はぁ……はぁ……」


ここが最後の部屋だった。

レインは王座の間の扉をゆっくりと開けた。

その途端、気分が悪くなる程の陽気な声がレインを包む。


「よ・う・こ・そ〜姫! ……我が城へ!!」

「!!」


バルカンだった。

いつものように口元にはいやらしい笑いを携えている。


「はっ! 父上……母上!!」


奥には拘束された父と母の姿があった。

ノウマ国の兵士が両脇から二人の首の上に剣を交差させている。

二人ともレインの声に反応できないほど衰弱しきっているようだ。


「昔の英雄もこうなっては見る影もないのう……」


バルカンは哀れむように首を振った。


「貴様っ……!!」


レインはバルカンめがけて斬りかかった。

しかし、寸での所でレインの動きは封じられた。


「!?」


交わった剣には見覚えがある。

レインは恐る恐る剣の先を見上げた。


「言ったでしょう……?」

「!!」

「そんな甘い剣では……国を守れぬと」


そこには、涼しい顔でレインを見下ろす、傷一つすらないジュ―ドがいた。
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