Butterfly

□1.終わりの始まり
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「ところで、無茶な要求とは何だったのです?」


ジュ―ドはまだ少し虚ろなレインを抱き寄せた。


「ふん……。私をバルカンの妃にと。馬鹿げている……」


レインはジュ―ドの胸に不機嫌な顔を埋めた。

ジュ―ドは少し笑っていた。

そんなジュ―ドを見詰め、レインは前から気になっていた事を聞いた。


「……ジュ―ド」

「はい?」

「お前は……どこから来た?」

「……」


約5年前に平和協定が結ばれる前までは、この辺りは戦争が盛んだった。

皆傷つき、倒れ、町は戦禍の渦に巻き込まれた。

レインはまだ幼かったが、父に内緒で戦争に参加していた。

しかし、未熟な剣ではみすみす殺されに行くようなものであった。


「……うっ!」


レインは突如斬りつけられ、地面に倒れた。


「あれ〜? こいつ見た事あるなぁ〜……」


レインは肩を押さえ体を硬くした。

その男達はニヤニヤといやらしい笑いを浮かべながら近づいてくる。


「おやおや……誰かと思えばベアトリー家のお姫様じゃねぇか」


レインは痛みと恐怖で震えが止まらなかった。


「俺おもしれぇ事考えた! こいつ人質にとってこの国降伏させようぜ!」

「ははっ! そりゃいいな! ほ〜ら、こっちにおい……」


その時、手を差し伸べた男の顔はレインの目の前で真っ二つになった。


「!?」

「うわぁ!! なん……!?」


突然の事に男達は肝を潰したが、その顔が恐怖に染まることはなかった。

その前に絶命していたからだ。

男達は驚いた顔のままぐしゃりと倒れた。


「……レイン!」


その時、父が駆け寄ってきた。

父は、レインの無事を確認するなりその幼い頬を打った。


「この、馬鹿者がぁっ!!」

「父上……」

「どなたか知らぬが助かった! 城に案内しよう。どうか、礼をさせてくれ!」


レインが恐怖で震えている間に、どうやら敵陣は去ったようだった。

まだ震える手で頬を押さえると、命を救ってくれた男の名を聞いた。


「私は……ジュ―ド」


ジュ―ドはレインの命を救った腕をかわれて王宮に仕えるようになった。

だが、今まで自分の事について一切誰にも語ろうとはしなかったのだ。







「私の話はいいでしょう……」


ジュ―ドはそう言うと、レインの肌を見詰めた。

染み一つない陶器のような白い肌。

ジュ―ドはそれを強く吸った。


「……あっ……」


レインの肌に印を付けるように、幾つも赤い跡をつけていく。


「ジュ―ド……ッ」

「綺麗すぎるものは……壊してしまいたくなる……」

「え……?」


レインの耳に届かないほど小さく呟くと、ジュ―ドはまた覆い被さった。
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