desire

□5.それぞれの想い
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あたしは風に当たりながら、自分の髪と同じ色の朝陽を見ていた。不意に、後ろにいたサンジくんに抱き締められる。


「……寒くない?」

「全然……。サンジくん、ずっと引っ付いてるんだもん!」


あたし達は顔を見合わせると、笑った。ずっと一緒に言ると、離れているよりも引っ付いている方が自然な形のように思えるんだから、不思議だ。


「でもナミさん……何でみんなに俺らの事言ったんだ? 隠してただろ、ずっと……」


あたしは彼を振り返り、じっと見詰めながら言った。


「あたしの気持ちをみんなにはっきり知ってもらいたかったの。……あたしは、サンジくんが好きって事を」

「ナミさん……」

「まぁ、薄々ばれてたのかもしんないけど。そういや……ルフィには可哀想な事したわね。ふふっ……」


朝日が映るサンジくんの目を見詰めながら、いつかゾロと夕焼けを見た事を思い出した。思えばあの時だった。自分の気持ちがはっきりとわかったのは。


「サンジくん……好きよ……」

「……その、百億倍、好きだよ」


真面目な顔でそんな事を言う彼に、つい吹き出してしまう。


「笑うなよ! これだけは譲れねェ」

「あはは! だって……」


ムキになる彼がまた可笑しかった。本気でも冗談みたいにしか取られないところが、彼の報われない点だろう。


「……ナミ」

「っ、」


さん、ではない呼び方にハッとして、あたしは笑うのをやめた。サンジくんは包み込むようにしてあたしを抱いた。


「愛してる……」

「……サンジくん」


美しく昇る朝日が抱き合うあたし達をしばらく照らしていた。そよぐ風も、彼の体温も、穏やかな波音も。何にも代え難くて、すべてが愛おしい。

どれくらいそうしていたのかわからない。静かな波音だけが響く中、ふと、遠くから叫んでくる声が聞こえる。


「……い。おーい!」


どうやらルフィ達が帰ってきたようだ。遠くからぶんぶん手を振っているのが見える。


「お……帰ってきたか」

「えェ……」


ゾロとロビンもデッキに出てきたようだ。二人の表情を見る限り、うまくいったのだろう。みんな、幸せでいて欲しい。そんな慈悲にも似た想いが胸に溢れる。


「……あ、そうだ! あたし、ルフィに謝らないと! 虫の話は嘘だったって」


ルフィはかなり上機嫌な様子だ。対して、後ろをついて歩く面々はとても疲れたような顔をしている。こちらから強制的につかせた嘘に一晩中付き合わせたのだから、当然と言えば当然だ。


「おっ! ナミ! 見てくれ!!」


あたしは咄嗟に駆け寄ろうとしたが、満面の笑みのルフィを見て、足を止めた。何かとてつもなく嫌なものを感じる。


「ヘラクレスの幼虫ーっ!! デカいだろ!? 俺こんなの見た事ねェよっ!!」


ほら! そう言って差し出されたルフィの腕の中には、酒樽ほどもあるウネウネとした生き物がしっかりと抱かれていた。


「っ……!!!」


昇る朝陽も、爽やかにそよぐ風も、穏やかな波音も。それらをすべて吹き飛ばすようなあたしの悲鳴が、しばらく響き渡っていたのは言うまでもない。








fin
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