desire
□5.それぞれの想い
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「あいつら……うまくやってっかな?」
「みんな子供じゃねェんだ。何とかすんだろ」
巨大な虫を捕まえるという名目で、俺らは木が生い茂った森の中にいた。夕暮れは過ぎ、辺りはすでに薄暗くなっている。先ほどからコソコソと話している俺とフランキーの元に、ひょいとチョッパーが割り込んだ。
「おい、何の話だ?」
「あァ、いや、実はナミに頼まれたんだけどよ……」
空気を読む事に関して得意な方の俺は、なんとなく最近の船内の様子に不穏なものを感じていた。ナミとゾロとサンジとロビン。この四人の関係性が明らかに変わったのを薄々感じながら、それでも幸せならいんじゃね? と思っていたのに。なんだか、どいつもこいつもギクシャクしてやがる。
そこにきて、ナミからのお願い(絶対命令とも言う)だ。俺様が一肌脱ぐっきゃねェなと張り切ったものの、なんとなくルフィには言えずじまいにだった。
「私達はお邪魔虫ですね……虫だけに」
話す俺らの少し先で、虫取り網を握ったルフィが首をぶんぶんと振りながら、辺りを見回している。ルフィの目の輝きが失われていないのを見て、俺は息を一つ落とした。
俺は酒を注ぐと、ロビンにグラスを一つ渡した。
「……ナミがここに入ってくるかもしれないわよ?」
ロビンは相変わらず不機嫌なようだ。ずっとそっぽを向いている。デッキで言い合って以来、二人で話すのは初めてだった。俺は特に何も言わず、グラスに口をあてた。
「もう遅いし……部屋に戻ってくれない?」
ロビンは憎まれ口を叩いてはいるが、俺にはなんとなくこの女の考えそうな事がわかっていた。今二人でいる所をナミに見られたら、きっとまた俺が傷付く事になるとか、そこらへんだろう。
「――部屋に戻りたいのはやまやまだが、今はとても戻れねェんだ」
「え……?」
その時、ロビンが初めて俺を見た。こんな毒気の抜かれた表情は初めて見る。俺は少し面白くなってきて、以前ロビンに言われたのと、同じセリフを続けた。
「……お邪魔だろ?」
俺はそう言って、悪戯が成功した時のように笑った。
あたしは、サンジくんのシャツのボタンに手を掛け、一つ外すごとにキスをした。サンジくんはいまだ困惑するような顔をしている。もしかしたら、別れでも告げられると思っていたのかもしれない。
「……ナミさん、」
「黙って」
あたしはそのままサンジくんをソファーに倒すと、一番下のボタンを外し、その下のファスナーに手を掛けた。彼はあたしが何をしようとしてるのかわかったようで、驚いたようにそれを止める。
「それはだめだ……っ」
「黙ってったら! 動かないで!!」
あたしは半ば勃ち上がったそれを取り出すと、ゆっくりと舌を這わした。彼の事を想いながら懸命に舌を絡め、そして口いっぱいに含んだ。
「……っ」
彼は耐え切れないように目を閉じる。あたしはそれを一旦口から離して彼を見た。
「だめ……あたしを見て。……サンジくん……大好きよ」
あたしは、今まで濁していたサンジくんに対する想いを、どうしても伝えたかった。いつも欲しい時に欲しいものをくれる彼に。あたしも何か返したかったのだ。
「ナミさん……」
あたしは彼に跨ると、もう十分に硬くなっているそれを、ゆっくりと自分の中に沈めた。
「っ……」
その時、あたし達は同時に身体を震わせた。なんだか、いつもより感覚が研ぎ澄まされている気がする。
「く……」
やがてそれが全て沈みきると、あたしは膝で立ち、身体を少しずつ上下させた。まだ幾らも動いていないのに過敏に反応する自分に驚きながら、一人納得する。あたしはこの人の事が本当に好きなんだ。
「……あっ……」
彼はそんなあたしを熱っぽい目で見詰めている。その潤んだ視線に絡めとられるだけで、自分の身体がより一層熱くなるのを感じた。
「奇麗だ……」
彼が囁く言葉も、自分を見詰める彼の目も、快感を底上げする要因になっているのかもしれない。いつもは笑い飛ばせるような彼のセリフが、今は愛おしくて堪らない。優しい目の中に燻ってる情欲を見付ければ、とてつもなく安堵した。自分は求めている人に求められている。
「もういい……わかったから」
しばらくあたしの好きにさせていた彼が、堪えられないように急に上体を起こした。そして、あたしを一度抱き締めると、そのまま体重をかけてきた。気付けば、さっきとは逆の態勢になっている。
「あっ……! だめ……あたしが……、」
「もう止まんねェって……っ」
「……あァっ……!」
いつもより激しく貫かれ、あたしは少しも抵抗できなくなった。
「ああっ……! アっ……好きよ……好き……!」
「その百倍好きだよ……」
とてつもなく求めているのが互いにわかるほど、あたし達は夢中で繋がっていた。彼を愛して愛されている。それだけでよかったのだ。色んな想いや、すれ違いや、わだかまり。あたし達の中にあったそれらが、この瞬間にすべて散っていくのを感じた。
「ゾロ……いいの?」
「あ?」
ナミの事は、と言いたかったが、ゾロはさっきから平気な顔をして飲んでいる。わたしは、質問を変える事にした。
「……どうして、あなたはみんなと行かなかったの?」
その質問には、ゾロは少し考えるような素振りをした。何か面白い事でも思い出したのか、一人で、く、と笑ったりしている。
「……ゾロ?」
笑いを少し収めると、ゾロはわたしの顔をまじまじと覗き込んできた。どういうつもりなのだろう。この人がここに来た理由も、やたら楽しそうなのも、まったく理解不能だ。わたしは少し不機嫌な顔をした。
「一体何なの?」
相手にはわかっていて自分にはわからない。こんな状態が続くのは嫌いだ。経験や知識で物事を考える自分に対して、ゾロは勘で動くような男だから、こちらから理解するのは難しい。今も、人の顔を無遠慮に見た挙句にゾロは笑った。
「お前……今日は何だか普通の女に見えるな」
「え?」
思いもよらない言葉に驚き、わたしはつい顔を背けた。この人に見られていると思っただけで、とても居心地が悪くなる。ゾロはそんな様子を楽しむように、わたしの肩に腕を回してきた。
「で、どんだけ俺に惚れてんだ?」
「な……!?」
笑ったままそんな事を言われて、わたしは頬が急に熱くなるのを感じた。今日はすっかりゾロのペースのようだ。
「勘違いしないで! わたしは……っ、」
いつものような顔を作って、すぐに否定しようとした。だけど、肩を強引に引き寄せられたので、わたしは言葉を詰まらせる。いつの間にか笑いを消し去ったゾロの顔が、すぐにでも触れられそうな位置にあるのだ。
「なんでもいいから、俺の傍にいろよ」
「……え?」
戸惑うわたしに、ゾロはもう一つの腕も回すと、そのままゆっくり抱き締めてきた。
「ダメとは言わせねェ……」
少し切なげに囁かれれば、胸がぎゅっと締め付けられる。わたしは逸る気持ちを懸命に抑えながら、声を絞りだした。
「だって……わたしでいいの……?」
ゾロは少し身体を離すと、呆れたようにため息を一つ落とした。手でそっと頬を包まれ、しばらく見詰められる。こんな穏やかなゾロの目は初めて見た。戸惑うわたしをその目に映したまま、ゾロは何も言わない。その言葉のなさが逆に、千の言葉よりも真実を語っている気がした。
「たまには普通に抱かせろ」
ようやく動いたと思った唇で、ゾロはわたしの唇を塞いだ。とても、優しいキスだった。