desire

□4.ジェラシー
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わたしは酒とグラスを二つ、片手で抱き込むようにして持っていた。この状態で梯子を登るという動作には慣れが必要だなと考える。頭の上が明るくなってくると、微かに耳に届いていた息遣いがはっきりと聞こえた。そこには、いつもと変わりなく鍛錬に励むゾロがいる。

わたしが顔を出しても、ちらとも見ない。これも、いつもと変わりない事だった。彼の近くのベンチに腰掛け、黙って見詰めていると、ゾロは息をついてようやくこちらに目をやった。


「……なんだ?」


今日も機嫌が悪いようだ。


「ねェ、一緒に飲まない?」


不機嫌な顔を崩さない彼に、酒瓶を揺らして微笑んで見せる。とても強いはずのゾロがわたしなんかを警戒している様子は、なんだか可笑しかった。


「ふふっ……別に何もしないわよ?」

「ち……」


ゾロは小さく舌打ちをすると、面倒くさそうにわたしの隣に腰を下ろした。


「それとも……した方がいいかしら?」


囁きながら、ゾロを覗き込んだ。どんな反応をするだろう。そんな期待が、わたしに悪戯な笑顔を作らせている。


「……貸せ。飲むんだろ?」


わたしから酒を取り上げると、ゾロはグラスに酒を注いだ。律儀にわたしの分まで注いでくれている。この人はなんだかんだ言って優しいのだ。こめかみの辺りに滲んだ汗が光って、精悍な顔を縁取るように流れていった。


「朝まで付き合ってね」


グラスを受け取りながらわたしが言うと、ゾロはさらに不機嫌な顔付きになった。


「断る。……さっさと寝ろ」


こんなに傍にいるのに、ニコリともせず、わたしの方をちらとも見ない。ゾロは一貫してこんな態度を貫いている。あの夜、深い関係になった後でも、彼は少しも変わらなった。だから、わたしは少し意地悪をしたくなったのだと思う。


「部屋に戻りたいのはやまやまだけど、今はとても戻れないのよ」

「……どういう意味だ?」

「だって――、お邪魔でしょう?」


グラスを口に運ぼうとしていたゾロの動きが止まった。わたしの言葉ですべてを察したのが、僅かに目を見開いている様子からわかる。わたしはそんなゾロの顔を肴に、酒をゆっくりと飲み下した。







ずっと険しい顔のままで、ゾロはグラスを口に運び続けている。わたしはしばらくその様子を眺めていたが、思い立ったようにグラスを置くと、上着のファスナーを下げ始めた。すると、彼はようやくこちらを見て口を開いた。


「……おい」

「今日の服は破って欲しくないの」


座っているゾロに跨ると、手を取り、はだけている自分の胸を触らせる。


「……何もしねェんじゃなかったのかよ?」

「ふふっ……ただの暇つぶしよ……」


わたしはそのままゾロに唇を重ねると、ゆっくりと壁に押し付けた。ゾロは抵抗する気はないようで、素直に背を壁に預ける。こちらを見ているようで、その瞳はどこか虚ろだ。少し意地悪が過ぎたかと思い、その分丁寧にキスをした。

抵抗する気も、かといって受け入れる気もなさそうな彼の手からいつしかグラスが離れる。それは一度ベンチに落ちると、そのうち床を転がっていった。
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