カタルシス
□1.溺欲
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「何の、匂いだ……?」
「……石鹸……かしら」
ゾロはナミの鎖骨に唇を這わせながら、ふと考えていた。
きっと、この匂いを身近に感じる度に、今夜の事を思い出すに違いない、と。
ナミの事を女として意識する事は今までなかった。
いや、ただ意識しないようにしていただけかもしれないが。
しかし今、自分の腕の中で小さく息を漏らすこの女に、愛情とも呼べるほどの想いが込み上げてくるのを感じずにはいられない。
ストイックなまでに剣一筋で生きてきた自分に、考えられないような優しい気持ちが溢れてくる。
果たして、溺れるのはどっちなのか。
「あっ……」
ゾロはもどかしそうにキャミソールを一気に脱がせると、大きな乳房を愛撫した。
白くきめ細かい肌は、その弾力で何度もゾロの唇を押し返してくる。
熱のこもった唇はそれに負けじと、時に強く吸い付いては、ナミの肌に赤い花を咲かせた。
「あっ……あぁ……」
ナミは、次第に体を支配してくる劣情に、うっかり過去の闇がまた顔を出さないかと気をもんでいた。
なぜだろう。
今は違うというのに。
押さえ付けられている訳でも、陵辱されている訳でも、ない。
ましてや、今自分を抱いているのは窮地を救ってくれた、愛すべき仲間の一人だ。
なのに、なぜ我を忘れて掻き乱れられないのか。
どこかで、抑えている。
どこかで、自分を罰している。
きっと自分を軽蔑しているのは他の誰でもない、自分自身なのだ。
「おい……何考えてる?」
「え……」
その時、ゾロの怪訝な視線とぶつかった。
しかし言い訳さえも見当たらない様子のナミにゾロはそれ以上何か言う事はなく、かわりにその視線を投げかけたままナミの乳首を口に含んだ。
「んっ……!」
反射的にナミは顎を反らせ、その視線からは逃れた。
しかし、執拗なまでに舌先で弄ばれながらも、変わらず見つめるゾロの視線を感じずにはいられなかった。
威圧にも似たそれは、今お前を抱いているのは俺だ、と言わんばかりにナミを無言で追い立てる。
「あっあ、んあっあぁ……」
それは徐々に、ナミの心と体を柔らかく濡らしていった。
いつの間にか下半身に身につけていた物は剥ぎ取られ、ゾロの唇は脇腹を通り、下腹部へと向かっていた。
ゾロの舌がナミの陰部に割り入ってくると、水気のある音が耳に届き、ナミは喘ぎながらも安堵の溜息を漏らした。
自分は普通に抱かれても濡れている。
感じる事が出来るのだ。
しかし、激しく乱れる呼吸とは裏腹に、頭では冷静に自己分析を繰り返している。
そんな自分はやはり、どこかおかしいのかもしれない。
「……」
くだらない考えがどこか払拭できないままのナミに構わず、ゾロはその奥に遠慮なく指をずぶずぶと差し入れた。
「あぁっ……!」
急激に這い上がってきた快感に、ナミは思考を止めざるを得なかった。
「あ、あ、んん……はぁっあっ!」
あれ以来、二度と男に抱かれたくない、と思いつつ、誰かに思い切り抱いて欲しいとも思っていた。
その相反する思いはナミを長きに渡って苦しめた。
激しく求められたい。
いや、求めたい、と。
こんな体なら誰かに壊されてしまいたい、とまで。
しかし、それは誰にも決して悟られたくはないと思っていた。
仲間になど、もってのほかだと。
ゾロは愛液をたっぷりと纏った指を抜き、ナミの両脚を抱え込んだ。
まるで、ゾロという人間そのものを表すような、熱い塊がナミの体内と結合する。
「はぁっ……! あぁっ!」
ゾロは一度奥まで挿入すると、ゆっくりと抽迭を開始した。
それは未だに消化できない怒りを露わにするように、それでいて闇を浄化するような優しさをも秘めていた。
何度も何度も、這い上がってくるどうしようもない快感。
今まではそれが嫌で嫌で堪らなかった。
自分はいやらしい女なのだと、自分の体が訴えてくる感覚。
しかし、今は違う。
繋がってみてあらためて感じるゾロの想いはきっと、自分を貶める事なんかではない。
「あっあっ……! ゾロ……!」
ナミはついゾロの体を抱き締めた。
するとゾロはすぐにぎゅっと抱き返しながら囁いた。
「もっと呼べ……俺の名を」
「っ……ゾロ……」
「もう……抑えるな」
「……!」
ナミは激しく喘ぎながらも、何度もゾロの名前を口にした。
すると、不思議な事にやっと理解できたのだ。
今自分を抱いているのは、親の仇ではなく、自分を蔑むものではなく、間違いなく、ゾロという男なのだという事が。