Stalk

□2.そして、真実へ
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気が付くと、見慣れた天井がそこにあった。

あたしは仰向けになったまま、自分の両手を顔の上にかざす。

手首に痣は残っているものの、この手はきちんと動くようだ。

そのまま自分の顔をゆっくりとなぞり、あるべきものがそこにある事にほっと胸を撫で下ろす。

静かに上体を起こすと、窓の外ではいつものように遊泳している魚が見える。

今は、海の中のようだ。

気だるさが残る体から足を投げ出し、ベッドから這い出た途端に寒さを感じる。

どうやらあたしは、下着も着けていない上から、薄いローブを羽織っているだけのようだ。



いまだぼんやりとした頭を巡らすが、今までの事が全て夢であったかのような淡い期待は持てなかった。

消えていない手首の痣と、麻酔後特有の気分の悪さに、あたしはすっかり項垂れた。

まったく、馬鹿な女だ。

いつもの事だが、呆れ返ってしまう。

臆病者で弱いくせに時に妙な正義感を振りかざそうとして失敗し、その上に、男の見る目もないとは。

あたしは溜息をつきながら扉の方へと歩いた。

船内は静かなようだが、今は夜なのだろうか。

しかし、今はまだ誰にも会いたくはない。

あたしは扉に鍵をかけ、いつもの仲間の無作法を阻止するように心がけた。

その時、鍵を閉めたばかりの扉からノック音が聞こえ、あたしは小さく息を呑む。


「トゥルー、開けろ」

「……!」


あたしは扉を見つめたままで、すぐに動く事ができなかった。


「開けろ……蹴破るぞ」

「……」


決して脅しではなさそうなその言葉の響きに、あたしは慌てて鍵を開けた。

それとほぼ同時に扉は開かれ、どこか不機嫌そうなローが即座に入ってきた。


「キャプテン……もしかして、ずっとそこにいたんですか……?」

「……」


驚くあたしに構わず、ローは後ろ向きのままドアを蹴り閉めると、ずかずかとあたしに近づいた。


「あの……」


あたしは戸惑いながらも、有無を言わせないローの勢いに後ずさる事しかできなかった。

やはり、怒っているのだろうか。

自分を疑い、別の男を愛した挙句に殺されそうになった馬鹿な女の事を。

尚もローはあたしに詰め寄ってくる。

いつの間にか踵が壁に辿り着き、あたしはもう下がる事ができなくなった。


「キャプテン……」

「……」


その時、ローがあたしのローブを掴んだので、もしや殴られるのかと、あたしは目を閉じた。

しかし、布が擦れる音がしたと思った途端に、あたしの肌は一層の寒さを感じる事になった。

あたしのローブは大きく開かれていて、何も着けていない肌が彼の眼前で露わになっている。

静かにそれを見つめるローと視線が交差すると、あたしは自分の姿にあらためて恥ずかしさを覚えた。


「やっ……!」


あたしは何とかそれを隠そうと、開いたローブを戻そうとした。

しかし、その両手は即座に掴まれ、壁に強く押し付けられる。


「あっ……!」


じっとあたしを見つめるその暗い瞳は、今まで見た事がないほどの艶を放っていた。

あたしは、その瞳に吸い込まれるように、その視線を受け止める事しかできない。


「んっ……」


そして、ローは食らいつくように唇を重ねると、そのまま激しく貪った。

あたしは顔を背ける事もできずに、何とか合間に酸素を取り込む。

なんて、熱いキスなんだろう。

いつも冷めた表情からは少しも想像できない。

勿論、『治療』などと称して行ったものとはまるで違う。

ずっと奥歯で噛み締めていた想いを発するように、ローはあたしの口腔を支配する。

その繊細かつ強引な舌の動きに、あたしの性感は徐々に奮い立たされた。


「んっ……んっ……」


あたしの抵抗が弱まったと知ってか、押さえつけていたローの力もにわかに緩んだ。

ローは一度唇を離すと、潤んだ瞳で熱っぽい視線を投げかける。


「はぁ……はぁ……」


きっと、何とか酸素を貪りながら、それを見つめ返すあたしの瞳の方が潤んでいたに違いないが。


「……」


永遠とも思えるほど見詰め合ったあたし達に、もう言葉などいらなかった。

もう一度ゆっくりと唇を重ねると、今度はお互いに舌を絡める。

ローは露わになったままのあたしの胸を手で包むと、味わうようにじっくりと揉みだした。


「はっ……あ……」


揉まれながら親指で乳首を刺激されただけで、ローに絡めていた舌はもう動かす事ができなくなる。

ローは首筋から鎖骨の辺りまでを丹念に愛撫すると、時折強く吸って赤い跡を幾つかつけた。

それは、もう誰の事も気にしなくてもいい、という印のようにも思えた。

もう、あたしはこの人の事だけを考えていればいいのだ、と。

乳首に絡めていた舌が脇腹を擽りながら、ローの繊細な指先が滑るようにあたしの体を弄ると、やがて体を支えている脚が細かく震えてくるのがわかる。


「あっ……あっ……」


いつの間にかはだけたローブは肘の辺りまで落ち、あたしは壁に後頭部を何度も擦り付ける。

ベッドの上じゃないってだけで、なぜこんなにも恥ずかしいのだろう。

あたしは自分の頬がずっと熱を放ち続けている事に、更に恥ずかしさを覚えた。

その時、ついに下腹部まで到達したローの舌があたしの熱くぬめった秘裂を割った。


「あぁっ……!」


あたしは大きく顔を捩り、その反動で肘で止まっていたローブが床にするりと落ちた。

衣服を身に着けたままのローに翻弄されている事に、あたしはますますの恥辱を感じ、つい彼の方に目をやった。

すると、それを待ち構えていたかのように、ローは暗く光る眼差しを絡めながら、指を差し入れ、舌の動きを一層速める。


「あんっ……! あ、あ、はぁっ……!」


どうしようもなく這い上がってくる快感に、次第にあたしの頭は何も考えられなくなっていく。

いや、もう考えなくていいのだ。

あたしは以前とは違う。

体の感じるままに、この男を受け入れればいい。

もう支配される事を恐れなくてもいいのだ。

ローの指はまるで知り尽くしているかのように、あたしの弱い部分を何度も責めてくる。

しかし、追い立てられる快感の波が一際大きくなってきた時、ローは指を抜き取った。


「あっ……! はぁ……はぁ……」


一瞬戸惑ったあたしにその返答をするように、ローは立ち上がり、がくがくと震えている膝裏を抱えた。

あたしはきっと訪れるであろう痛みに備え、つい体を強張らせる。


「あっ……! あぁぁーっ!」


しかし、訪れたのは痛みではなく、激しい快感であった。

抑える事ができなかった愉悦の声に、自分自身でぎょっとする。

すぐ近くにあるローの眼差しを感じながら、あたしは脳髄が痺れるような快楽に溺れていた。


「あぁっ! あっはぁ……んん……あっ……!」


しかし、そこでわかったのだ。

やはり、自分が望んでいたものはこれなのだと。

無駄な遠回りをさせられていたが、やっと待ち焦がれた瞬間に出会えたのだと。

あたしは激しく乱され、喘ぎながらも、自分自身を征服できた喜びに満たされていた。
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