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□ 5.終わらない夢
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一同は出かける気にもならず、部屋に戻っていたが、その中でも喋る者は少なかった。
ゾロは隅の方でしばらく押し黙っている。
はたから見たら眠っているように見えるかもしれない。
そこに、通話を終えたルフィが戻ってきた。
「ルフィ……向こうはなんだって?」
「あぁ。とりあえずこの島で合流する事になった」
「そうか……」
「おいゾロ! ちょっと来い……」
「あ、あぁ……」
急にルフィに声を掛けられゾロは慄然としたが、すぐに立ちあがると部屋を出て行った。
「女ヶ島までどんだけあるんだろうな……」
皆はまた悄然と話し始めた。
二人は終始無言だったが、デッキに出るとルフィが振り返った。
「お前、何か知ってるか?」
「……」
その言葉に、ずっと押し黙っていたゾロは、突如芝生に両手をついた。
「すまねぇっ……!」
「……」
「あいつの……腹の子は……!」
「そうか……」
ルフィは前を向いて遠くの海を眺めたまま言
った。
「で、お前はどうする?」
「……!」
ゾロは何も答えられなかった。
・
ナミは、ロビンが眠るのを見届けてからデッキに出てきた。
ふいに、肩に何かが触れる感触がして振り返る。
「……サンジくん」
サンジが自分の上着をかけてくれたようだ。
「ここにいたのか……ロビンちゃんは?」
「……寝てる……」
「そうか……」
今日の船内は特別静かだった。
いつもの喧騒とは打って変わって、波の音だけが響いていた。
こんな風に二人で話すのは、あれ以来初めてだった。
ナミが明らかにサンジを避けていた為だ。
「ナミさん……大丈夫?」
「……え?」
「寂しいんだろ? ロビンちゃんがいなくなる事考えて……」
「……」
皆気持ちは一緒だと思うが、サンジはナミの心配をしてくれていたようだ。
ナミは胸が熱くなるのを堪えて、静かに語り出した。
「寂しいのも……そうだけど、あたし、ロビンが妊娠したって聞いて……ショックだった」
「え……?」
「結婚とか出産とか……まだまだ先の事って思ってたのに……何だか現実を突きつけられたような気がしたの」
「……」
「でもよく考えたら……ロビン、あの時のベルメールさんと同じくらいの歳なのよね……。ふふっ……」
ナミは、宝物のような思い出を噛み締め、悲しく笑った。
「……ナミさん……」
「あたしにもいつかこんな時がくるのかなって……。その時あたしはどうするんだろう……?」
静かに打ちつける波のしぶきが太陽の光を受けて反射する。
それは、滲む涙でもっとキラキラしたものに見えた。
「不公平だよね……女は自由に冒険ができないなんて。……もしかしたらみんなそう思ってるのかな……」
「……?」
「あたしもいつか船を降りるかもしれないって……」
「!!」
その時、ずっと黙って聞いていたサンジがナミを後ろから抱き締めた。
「ちょっと……!」
ナミは咄嗟に抵抗したが、
「そんな事言うなよ!!」
サンジは腕に一層力を込めた。
「あいつらも……俺もそんな事思ってねぇ!! そんな風に……寂しそうに言うなよ!!」
「サンジくん……」
「頼むから……ナミさん……」
「……」
背中から伝わる熱にナミは心が震えた。
しかし、サンジを振り返ろうとしたナミの鼻先に、先ほどの甘い匂いが漂った。
「!」
「……ナミさん?」
「離して……!」
ナミは目を硬く閉じ、耐えられないようにサンジを突き飛ばした。
「ナミさん! 俺は……!」
その言葉を、ナミの目から溢れた涙が制す。
「あたしを……あんたが遊んでる女と一緒にしないでよ!!」
「!!」
そう言うとナミは走り去っていった。
「ナミさん……」