scar
□ 5.終わらない夢
19ページ/19ページ
「ねぇ? サンジくん……」
「んん……?」
サンジは泡のついたスポンジで、傷に触れないように優しくナミの体を洗っていた。
「ロビンの子の父親って……」
「……」
その時、サンジの手が一瞬止まったのをナミは見逃さなかった。
(やっぱり……)
「……それが誰にせよ、これからの事はロビンちゃんが決めることだ」
サンジはそれだけ言うと、そっと湯をかけて泡を流した。
「……」
サンジはロビンが攫われた一件を思い出していた。
今までは気にも止めていなかったが、ロビンの妊娠がわかってから、ちょくちょくその時の事が頭の隅で引っかかるようになっている。
(あの時何があってヤツとそうなったのかはわからねぇが……)
「……」
そして、あの時初めてキスして、泣きながら怒っていたナミの顔も思い出した。
「ナミさん……」
「ん?」
サンジはナミを抱き締めた。
「好きだよ……」
ナミもゆっくり腕を回すと、
「あたしもよ……。だからね、サンジくん……」
思い切りサンジの背中に爪を立てた。
「浮気、したら、100億、ベリー、だからね……!」
「う・ぎ・ぎぃぃ〜……!!」
サンジは痛みに仰け反った。
「ふふふっ!」
「は……はは……」
ひとしきり笑った後、今度はそっと抱き合い、二人は唇を重ねた。
・
「よっし! じゃあ女ヶ島に向けて出航〜!!」
翌日、それぞれの想いを抱えて船は出航した。
船が安定したのを確認すると、ナミはデッキで寝ているゾロにそっと近づいた。
「ねぇゾロ?」
「あぁ……? なんだ。俺は今眠ぃ……」
ゾロはかなり眠そうだったが、ナミはお構いなしに続けた。
「ロビンの子の父親って一体誰なのかしらねぇ?」
「っ……!」
「だってさぁ、ひどいと思わない!? ロビン一人放ったらかしてさ。きっと自分は好きな事やるのよ?」
「……」
ゾロの顔つきが神妙になった。
その顔をちらりと見ると、ナミは声の調子を変えずにさらに続けた。
「まぁ、ロビンが納得してるみたいだし……。なんか幸せそうだからいいけど!」
「……あ……あぁ」
そして、歩きながらゾロに振り返ると、
「あ! そうそう。この前貸した一万ベリーだけど……」
飛びきりの悪い笑顔でこう言った。
「……十倍返しでよろしく」
「なっ……!?」
そして、口元に指を立てて微笑んだ。
(口止め料よ! ふふ……)
ゾロは呆然としながら、
(ナミ金融……恐るべし……)
と、恐怖に身を硬くした。
空は青く、昨日の出来事はまるで夢のようであった。
→6.エピローグ