scar

□ 5.終わらない夢
13ページ/19ページ


ナミが次に目を覚ますと、見慣れない部屋のベッドの上だった。


「……」


上体を起こそうとすると、部屋の隅からすぐにサンジが飛んでくるのが見える。


「ナミさん! 気が付いたのか!?」


そう言うとサンジはすぐに体を支えてくれた。


「サンジくん……?」

「おう! あんた大丈夫か?」


その時、もう一人の男が近寄ってきて声をかけてきた。

それはあの設計士の弟子だった。


「ここ……あなたの家?」

「あぁ……助けてくれたんだ」


その男のかわりにサンジが答えると、


「あんたの事気になって見にきたらよ、なんと屋敷が崩れてんだもんな! ビックリしたよ。ははは!」


と笑い飛ばした。

その言葉を聞いてナミは一気に記憶が蘇った。


「そう言えば屋敷……!」


その時肩に軽い痛みが走る。


「うっ……あたし……毒を……」

「あぁ……解毒剤が効いたみたいだ……ホントによかった」


サンジは力が抜けたようにその場に座りこんだ。


(サンジくん心配してくれたんだ。……ん?)


ナミはポケットに違和感を感じ、手を差し込んだ。

すると、あの時の見取図が出てきた。


「これ……」

「! ……それちょっと見せてくれ!」


男はナミから見取図を受け取ると、唸りながらも熱心に見つめている。


「……あんた、もしかしてビリーに会ったのか?」

「ビリー?」

「ビリー・ショーン……おやっさんの一人息子だ」

「!」


ナミの頭に仮面の男がよぎった。


(ビリー・ショーン……ビショップ……?)

「ずっと行方不明だったんだが……生きてたのか……よかった」

「……その家族に何があったの?」

「あぁ……」


有名な建築家の父親はその業績を認められ、政府に迎えられるはずだった。

しかし渡航中に海賊と交戦になり、母親は父親をかばう形であっけなく命を落とした。

それ以来父親は人が変わったようになる。

屋敷の中に閉じこもり、陽気だったはずの父親は、次第に人を寄せ付けないようになった。

宝の噂を聞きつけた海賊に度々襲われるようになると、自らの屋敷に罠を仕掛け、それに掛かる人間を見ては楽しむようになっていった。

そんな父親に耐えられなくなったビリーは、ある日家を飛び出して以来、戻らなくなった、という事だった。


(だから……海賊を恨んで賞金稼ぎに?)

「でも……そうか。やはり……」


男は何度も見取図を見て頷いた。


「ちょっとこれ借りるよ。俺は屋敷を見てくる」

「えっ……でも崩れてるんじゃ……」

「いいんだ、その方が。今までは罠があると聞いて入る勇気がなかったが……。仕組みやデザインにずっと興味があってね。まぁ、片付けを兼ねて勉強してくる」


そう言うとドアを開け、


「じゃあ、行ってくる。気にせずゆっくりしといてくれ!」


そのままどこか楽しそうに出ていった。


「……」


突然二人きりになってしまい、ナミは気まずそうに沈黙した。

サンジはまだ座り込んだままだが、目だけこちらに向けると、


「ナミさん。……なんで俺に言ってくんなかったんだよ」


と、少し不機嫌な様子で言った。


「だって……」

「俺じゃなくても……他の誰かにでも言えばよかっただろ!」

「……」

(ホントにそうだ……なんであたし……)


何か思いかけて、ナミはデイジーを抱きかかえていたサンジの姿を思い出す。


「そう言えば……あの女は……?」

「あぁ……あの男が連れてったよ」


サンジはまだ不機嫌な顔を崩さず言った。


「え? ……サンジくん、それでいいの?」


ナミの口をついて出たその言葉に、サンジは目を丸くした。


「いいも何も……恋人同士だろ? あの二人」

「え……だって……」


デイジーはサンジが好きなんだろうと思ってたナミにとっては意外な事実だった。


「……寂しかったって言ってたよ」

「!」

「あの時……俺が解毒剤の居所を聞いた時に言ってたよ。最後に謝ってた……」

「……」


それを聞いてナミは合点がいった。

仮面の男がなぜサンジを狙ったのか。

あの女がナミを羨ましいと言った意味も。


(要するに、恋人同士の喧嘩に巻き込まれたって訳ね……)


ついでに、サンジが自分ではなくあの女を抱きかかえていた理由もわかった。


「はぁ……なにそれ……」


ナミは大きくため息をついた。

しかし、はた迷惑な話だったが、ナミは今回の件で大事な事がわかった。


「なんで一人で無茶すんだよ……」


サンジの説教はまだ続いていたようだ。

呆れたようにため息をつくと、ナミの髪に触れ、顔を覗き込んだ。


「まさか……俺の為?」


その瞬間、ナミは顔がかぁっと赤くなった。


「……やめてよ! 勘違いしないで!」


すぐに手を振り払い顔を背ける。


「大体、誰があんたみたいな最……!」


低なヤツ、と言おうとして、デイジーの言葉が浮かぶ。




『ね……最低でしょ……? 』




「……」

「ナミさん?」


突然黙り込んだナミを見て、サンジは心配そうにしている。

どこか痛むのかと思ったようだ。

しかし、ナミは真剣な顔でサンジに向き直った。


「サンジくん」

「ん?」

「もし……あたしが殺されかけてたらどうする?」

「もちろん、俺が守るよ」

「じゃあ……」


ナミはそこにあったペンを自分の喉に突き立てて見せる。


「あたしが、女に殺されかけてたら、どうする?」

「!」


サンジは驚いていたが、すぐにペンをナミの手ごと自分の喉に向けた。


「……もちろん、命に代えても守るよ」

「!」


その途端、ナミはペンを放りベッドから立ち上がった。


「……だから! それじゃダメなのよ!!」

「ナミさん……?」


サンジもつられてゆっくりと立ち上がる。


「あたしも! ……その女も守って自分が死ぬ気!? ばかじゃないの!」


ナミは腹立たしいような、悔しいような感情を抑えきれずに、目から涙が溢れた。


「どうしたんだよ……?」


サンジはそんなナミの様子におろおろしている。


「だから!」


そんなサンジがもどかしく、ナミは泣きながら掴みかかった。


「あたし以外の女に優しくしないで……!!」

「!!」

「あ……」


その口をついて出た言葉にナミは自分で驚き、思わず両手で口を塞いだ。

目を見開いたまま言葉も出ないサンジの様子に、


「違っ……!!」


慌てて首をぶんぶん振りながら否定しようとするが、もう遅かった。

すぐに口を塞いでいた両手をもぎ取られ、唇を奪われる。

力強く抱き締められ、サンジはまるでナミの全てを奪うように舌を絡めてきた。


「ん……!」


その時、ナミは窒息するかもしれないと思った。

それはキスではなく、想いに。

サンジの熱い想いがどうしようもなく雪崩れ込んでくる。

あの頃から変わらないサンジ。

しかし、あの頃とは変わったナミ。

ナミはサンジの首に腕を回すと、キスを受け入れ、自分でも舌を絡めた。

そのままベッドにもつれるようにして倒れたが、それでも二人は唇を離さなかった。

お互いを奪い合うように唇を貪り続ける。


「っ……!」


その時、肩に痛みが走り、ナミは体を強張らせた。


「……大丈夫?」


気付くと、唇を離してナミを心配そうに見つめるサンジと視線が交差する。

ナミは恥ずかしさに一度目をそらすと、


「苦しいよ……ばか」


と言い、顔を赤くした。

サンジはそんなナミの仕草に笑みがこぼれた。


「……すげぇ可愛い」


ナミの頬となく、額となくキスを落とす。


「サンジくん……ちょっと……」


ナミはなんだか急に恥ずかしくなった。

しかし、サンジは止まらない。

ナミの髪や耳たぶにキスしながら、


「いいだろ? ……待ったんだ俺……」


その言葉にナミはちょっとむっとすると、


「あたしだって待ったわよ!」


と言い返した。

その言葉にサンジは一瞬目を丸くしたが、


「ははっ! …………じゃあ、いいじゃねぇか」


と笑った。

ナミも、それもそうかと吹きだした。

二人はもう一度見詰めあい、ゆっくりと唇を重ねた。


「好きだよ」

「あたしの方が好きよ」

「何言ってんだ、俺だよ」

「いいえ、あたしよ」


どちらも譲り合わず、お互いの服をお互いが脱がせた。

まるで長い間会えなかった恋人同士のように、二人はゆっくりと肌の感触を確かめ合っていた。



その頃家の外では、


「気にせずゆっくりとは言ったけどよ……」


この家の持ち主は、到底中に入る事などできず、真っ暗な道中で一人、困り果てていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ