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□ 5.終わらない夢
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「キスして……今ここで」

「デイジー……弱ったな。いい子だからナミさんの居場所を教えてくれ……」

「ふふ……じゃあキスしたら教えてあげる」


デイジーは横目で映像電伝虫が作動しているのをちらりと確認した。

サンジは困ったように小さく息を漏らすと、軽く唇を合わそうとした。

しかし、デイジーは首に回した腕に力を入れてサンジを強引に引き寄せた。

合わせたサンジの唇にデイジーの舌が割り入ってくる。






モニターで見ていたナミの目に、重なる二人が映った。


「なっ……!」


自分が大変な思いでこの屋敷を駆けずり回っている時にこの男は、と沸々と怒りが沸き上がってくる。


(しかも……あたしはあんたの為に……!)


怒りが頂点に達した時、ナミは部屋を出ていこうとした。

だが、


「……やはり、あの男だけは殺す!!」

「え!? ちょ、ちよっと!」


そう言うとナミより先に仮面の男は出ていった。






「おい……デイジー……!」


サンジはデイジーを引き剥がした。


「あん……どうして? 昨日はあんなに激しかったのに」

「約束だろ……ナミさんの居場所を教えてくれ」


再度絡みついてくるデイジーの腕を優しく振り解くと、サンジはふいっと横を向いた。


「……なによ。そんなにあの女が大事なの? ホントに……あたしの事なんて誰も……!」


デイジーは目を潤ませると、怒りを露わにした。


「え……?」


その時、ドアが破壊されんばかりに開くと、二人を突如巨大な槍が襲う。


「……危ねぇっ!」

「きゃあっ!」


サンジはデイジーの上に覆い被さった。

槍は間一髪よけれたが、ドアの向こうに異様な殺気を感じてすぐに目をやる。


「誰だてめっ……! はっ……!!」


ふうふう言って殺意をあらわにする仮面の男と、その後ろに一際恐ろしい殺気を漲らせた、ナミの姿がそこにあった。


「ナ、ナミすぁん……!」


ガタガタ震えるサンジに弁解の余地はなく、さらに休憩の余地もなく、巨大な槍が襲ってきた。


「うおっ!」

「予定外だが……お前は自ら殺してやる!!」


二人はもつれ合うようにドアの外に出ていった。


「あら……。また来たの?」


デイジーは髪を掻きあげると、いかにも面倒臭そうな感じで言った。


「……どうだった? 綺麗に映ってたかしら?」


そう言うとちらりと電伝虫に目をやった。


「!」

(こいつ! やっぱりわざと!!)


その瞬間、チャージしていたクリマ・タクトに電撃が迸る。


「……はっ!」


しかし、デイジーは黒雲からクリマ・タクトに戻っていく稲妻を素早くかわした。


「危ない武器持ってるのね!」

(この女……意外にすばしっこいわ)


さすが賞金稼ぎだけあるわね、とナミは妙に感心した。


「でも……あたしのも捨てたもんじゃないわよ……ふふ」


そう言ったデイジーの背中から一本の刀が出てきた。

その刀はみるみる大蛇へと変わっていく。


「蛇!? ……何それ! ずるいわよ!」

「これは以前捕らえた賞金首からの戦利品! ヘビヘビの実を食べた刀……勿論、斬られても咬まれても毒がまわるわよ? ふふっ」

「毒……っ」


毒と聞いて、ナミは恐怖を感じるどころか吹き出してしまった。


「何が可笑しいの!?」

「別に……またかって思っただけ」


ナミは前にウロヤに襲われた事を思い出していた。

あの時はサンジが何度もかばってくれた。

しかし、目の前にいるこの女も、サンジは当然のように助けた。


(サンジくんはきっと、女なら誰にでも優しいんだわ。そんなの、とっくにわかってたけど……)


ナミはデイジーの攻撃を懸命に避けながらも考えずにはいられなかった。


なんでそんな男を助けたいんだろう。

なんで朝から駆けずり回ってるんだろう。

なんでこんなに腹が立つんだろう。



なんで。

なんで。

なんで――。



ナミは自分が情けなくて泣きたくなってきた。

いつも愛を語るのはサンジで。

いつも尽くすのもサンジで。

いつも一生懸命なのもサンジで。


(なのに、なんであたし……こんなに頑張ってんの!?)

「……くっ……!」


ナミは自分の肩を押さえて膝をついた。


「あ〜あ。ついに毒受けちゃったわね。……あら、泣いてるの?」


ナミの目からはもはや理由のわからない涙が溢れていた。


「そんなに痛いのね……。かわいそうだからすぐに止めを刺してあげるわ」


デイジーは、あたしそんなに意地悪じゃないのよ、と付け加えた。

そして、微笑みながら、ナミの頭上に刀をゆっくり振り上げた。


「おとなしく死になさい!!!」


その瞬間、デイジーにナミの手元から迸る閃光が映った。


「はっ……! また! こんなもの……!!」


そう言って振り返ったデイジーの後方一面は、小さな黒雲が所狭しと埋め尽くされていた。


「な……っ! い、いつの間に! これじゃ避けれな……!」


無数の黒雲から凄まじい雷鳴と共に閃光が迸る。


「ぎ、ぎゃあぁーーーっ!!!」


避ける所が見つからず、デイジーに全ての雷撃が注がれた。

デイジーはブスブスと煙を上げながら、ナミの目の前に倒れ込んだ。


「はぁ……あたしも、はぁ……そんなに意地悪じゃないのよ」
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