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□2.サンジ×ナミ
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サンジは夢を見ていた。
アーロンがニヤリと笑いながら、ナミを連れ去っていく。
懸命に追いかけるが距離は縮まらない。
ふと、自分の体に目をやると、気味の悪いものが巻きついている。
自分の体の自由は、全てウロヤの触手に絡め取られていた。
「…………はっ!!!」
サンジは飛び起きた。ぐっしょりと汗をかき、息も乱れている。
(ちっ……何て夢だ)
いまだはっきりとしない意識の中で目を凝らす。
そこは何の変哲も無い民家のようだった。
「あ、気が付いた?」
そこには少しほっとしたような顔のナミがいた。
「オカマ……いや、ナミさん!! 無事だったのか!」
寝ぼけてる様子が可笑しかったのか、ナミはふふっと笑うと、
「大変だったんだから! ここまで運んでくるの〜。どう? 体?」
と言い、サンジを覗き込んだ。
そう言われてみると、嫌な痺れは嘘のようにすっかり消えていた。
「楽に……なってる」
サンジはにわかに信じられず、自分の両手を見つめていた。
「クリマ・タクトを探した時に一緒に解毒剤を見つけてたんだけど……」
その言葉を聞いて、サンジの頭は次第にはっきりとしてきた。
「一体どこに……倉庫にはなかっただろ?」
「えぇ。それが、あの時縛られたあたしの横のロッカーにあったみたいで、壊したときに飛んでったのね。ここの民家にロッカーごと刺さってたわ」
ナミは目線をドアの方にやる。
よく見ると、隣の部屋は半壊していた。
サンジがドアの方から自分の体に視線を戻すと、手当てのあとがあるのに気付く。
「これ……ナミさんが? ……ありがとう」
「あぁ。今回は……助けてもらったしね。だから気にしないで! (お金の事は)」
ナミは改めて笑顔を作ると、サンジにスープを運んできた。
「これ……」
「たまにはいいでしょ?」
ナミはそれだけ言うとキッチンに戻り、片付けを始める。
(ナミさんが……優しい……)
サンジはいつもとは違うナミに少々怯えながら、毒が抜けたはずの手を震わせてスープに口をつける。
「……う、うまい。うますぎるよ! ナミさん!!」
それはナミの気持ちが伝わるような、どこか懐かしいような味だった。
ナミは背中を向けたままだったが、笑っているのがわかった。
片付ける動作を少し緩めながら、
「ここ……きっと、人がいなくなって間もないのね。食料や衣服や……全てがそのままだったわ」
そう言うと、突然手を止めた。
「きっと……アーロン達が攻めてきて何もできずとっさに逃げ出したのよ。あたしの……村のように……」
「……」
サンジも手を止め、ナミの背中を見つめた。
「あたし……どっかでずっと怖かったんだと思う。もうあの頃とは違うってわかってるんだけど、でも……」
「ナミさん……」
ナミの背中は小さく震えていた。
一体ナミの8年間はどれほど辛い年月だったのか。
ナミの胸中を想い、サンジは心を痛めた。
「でも今回……自分の手でアーロンを倒す事ができて……、なんかすっきりしてんの!」
ナミは滲んだ涙をぐいっと拭ってサンジの方を振り返る。
「だから……ありがとう! サンジくん!」
その表情は一片の曇りもない、清々しい笑顔だった。
涙の跡がさらにそれを美しくしているようだ。
「……」
(きっとあたし一人じゃ……殺されてた)
ナミは、サンジが何度も自分をかばってくれた事を思い出していた。
それだけ言うと、また背中を向け、何もなかったかのように片づけを再開する。
よく見ると、その左腕には包帯が巻かれていた。
(! あの時の……まったく……どっちが助けられてるんだか)
サンジはそれを見て、一層胸が締め付けられた。
「それでさぁ、これからどうしよう……」
ナミが言いかけた時、突然サンジに遮られる。
「ナミさん!」
「んん?」
「好きだ」
「……あぁ、はいはい」
それはいつものやり取りで、もちろんナミもいつも通りに言葉を返す。
だが、ナミが背後に気配を感じ振り向くと、途端にサンジに抱きすくめられる。
「!」
「好きだよ……」
強い腕の力にナミは驚いたが、すぐに冷静になろうとした。
(なんか……いつもと違う……)
すぐに振り向き、サンジを少し押し戻すと、普段通りの声でなだめようとする。
「サンジくん離して。あたし達……仲間でしょ?」
しかし、そんなナミの言葉には動じず、サンジは口調を強くして言い放った。
「でも……男と女だ!」
「!」
ナミはサンジの真剣な瞳にはっとし、一瞬押さえていた手が緩んだ。
そしてそのまま強引に唇を奪われる。
「んん……!」
抵抗しようにも、手は壁に押し付けられていた。
ナミはなんとか顔を背けようとしたが、すぐにサンジの舌が強引に割って入ってくる。
それでも思い通りにはなりたくない、という思いから尚ももがく。
「……」
しかし、ナミはどうしようもない力に、抵抗することをやめた。
しばらく、静かな部屋に口付けを交わす音だけが響く。
「……」
サンジは、ふとナミの様子に変化を感じ、名残惜しそうに唇を離した。
「!」
ナミの瞳は涙で濡れていた。
それを目にした途端、サンジの頭から熱が一気に引いていった。
「……痛い……離して」
ナミは顔を背け、うつむいた。
「はっ……!」
サンジは慌てて押さえつけた手を離すと、
「ご、ごめん! ナミさん! ……俺……」
申し訳ない気持ちに急激に支配されそうになった。
「……っ!」
だがナミはそんなサンジを睨みつけると、渾身の力を込め、平手打ちをお見舞いした。
「はぐっ……!」
サンジは体制を崩して床に倒れこんだが、ナミは容赦なく声を荒げた。
「無理矢理キスしたんでしょ!? ……無理矢理したんなら、謝らないでよ!!」
ナミは傷ついて涙を流したまま、怒りをぶちまけた。
「……ナミさん……」
二人しかいない部屋の中に、ただ静寂が流れた。
その時、
「じりりりりりり!」
と、けたたましくベルが響いた。
2.ゾロ×ロビン or 4.はじまりは突然に