Butterfly

□Last−After
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「……あれから、一年か……」


ナミは海を見ながら小さく息をついた。

ちょうど一年ほど前に、あのままレインと別れたっきりだ。

あれからこの一味にも色々な事があった。

仲間は増えたし、船は大きくなったし、何より、一味全員の首に懸賞金がかけられた。


「……」


懸賞金といえば、以前レインの手配書を見た時のゾロの表情が忘れられない。

それまで一切引きずっているような所は見せなかったが、レインの懸賞金にまつわる噂を聞いてからというもの、どうも不機嫌な態度が続いている。

――生きてるのだろうか。

新世界に入ったとか、どこかの海賊船に乗っているとか、彼女についての噂はつきない。

ナミは新聞に載っている事柄をいちいち仲間に報告するような事はしなかったが、ちょうど半年ほど前にレインの懸賞金が上がった時は隠しようがなかった。

もちろん皆喜んでいたが、やはりゾロだけはそれとは違ったように見えた。


「どうしたの? ナミ……」

「ロビン……。ううん、別に!」


階下には、いつものように寝ているゾロが見える。

ナミが海を再度見つめた時、視界の端に小さな黒い点を捉えた。


「……?」


上空にあるその点は見る見るうちに大きくなり、急速に人の姿を成していく。


「え!? ……ちょっと……!!」


それは、ゾロに真っ直ぐ降下してきた。


「お! なんだ!? ……UFO?」

「バカっ!! ゾロ! 危ない……!!」

「!」


その時、寝ていると思われたゾロが素早く立ち上がり刀を抜いた。

船内には耳を劈くような金属音が響き、辺りの空気を震わせた。

その振動で、船体がミシミシと揺れる。


「うわっ!! なんだ!?」

「やめろ! 船が揺れる……!!」


ゾロの刀には煌く剣が重なっており、その先には、見覚えのある女がいた。


「あ……! あれは!?」

「レイン……!!」


レインはゾロから剣を離しひらりと着地すると、腰にそれを納めた。


「……また、腕を上げたな」


レインは嬉しそうに微笑んだが、ゾロは刀を納めながら不機嫌そうに呟いた。


「言いてぇ事は、それだけか……?」

「……」


レインは何かを口にしようとゾロに歩み寄ったが、それはすぐに掻き消された。


「レインーッ!!」

「レイン!! お前、生きてたのか!!」


ナミとチョッパ―が抱きついてきて、他の皆もすぐに周りに集まってきた。


「レイン! お前、新世界にいたって本当かよ!?」

「あぁ……」

「てか、お前懸賞金がかけられたなっ! ……やっぱ俺が見込んだだけの事はあるよ! うん!」

「ウソップ……そうなのか!?」

「あぁ! もちろんだ!! 何を隠そう、俺が薦めたのよ! お前も海賊になれってな!」


ウソップの嘘のような話は続く。


「……仲間、増えたんだな」

「あ! そうなの! ロビンよ! あとはこの、ロボと骨ね!!」

「ナミ……その説明、ス―パ―な差がないか?」

「ナミさん、手厳しいぃ―ッ!!」

「うふふ……あなたの事は聞いてるわ。よろしくね」

「……船も大きくなって、本当に立派な海賊団だな」


レインは、相変わらず賑やかな一味に微笑んだ。

しかし、ゾロだけはその輪に加わらず、一人船内へと入っていった。


「……」


まぁ、仕方ない。

理由はわかっている。


「おい、飯できたぞ! ったく、何騒いでやがんだお前ら……って、はあぁぁぁぁぁ―ッ!?」


その時、ゾロと入れ替わりに船内からサンジが出てきた。


「レインちゃ―んっ!!!」


サンジは物凄い勢いで抱きつこうとしたが、ナミが咄嗟にレインの腕を引いた。


「さっ、行きましょ! レイン!」

「飯だ! 飯!!」

「おい! 一緒に食うぞ!! 色々面白ぇ話聞かせてくれ!」

「あ、あぁ……」

「おい、サンジ! 船壊すなよ!」


皆は倒れこんだサンジをそのままに、船内へと入った。







「でも、よく無事だったな! 一人だったんだろ?」

「いや、そんなに無事でもないぞ? 何度も死にかけた。……この指二本はしばらく感覚がないし、左の耳は聞こえにくいし、毒で失明しかけた事もある。空から大きな氷塊が降って来た時には肩の骨が砕けたし。今だって右半分の骨は折れまくってる……ハッ!」


すらすらと述べるレインに対して皆は黙りかけたが、チョッパ―だけは目を剥いた。


「折れてる!? レイン! 診せろ! すぐ治療だっ!!」

「……しまった」

「チョッパ―……まぁ、いいじゃない。食べてからでも!」

「じゃあ食べたらすぐ医療室に来いよ!!」

「あ、あぁ……」

(はぁ……またあの動きにくい布でぐるぐる巻きに……)


その時、しばらく静観していたロビンが口を開いた。


「ねぇ……。あなたは本当にあの『赤髪』と関係があるの?」

「!!!」

「……」

「ロ、ロビンさん……? その話題はちょっと……」


その時、ずっと黙りこくっていたゾロが立ち上がり、その場を離れた。


「あら……いけなかったかしら?」

「……」

(ゾロ……)
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