Butterfly
□After-5
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「はぁ……はぁ……」
レインは追っ手から逃れるべく、ひたすら走っていた。
(まいったな……。目が合った瞬間発砲してくるとは……)
ここに来るまで、数々の賞金稼ぎや、名をあげようとする海賊に襲われたが、どうも最後に受けた傷がまずかったらしい。
恐らく、毒だ。
肩口からゆっくりと痺れてきているのがわかる。
これじゃ満足に剣は振れないだろう。
ユキリュウ島に彼等はいなかった。
レインは白ひげに言われた通り、南西の島へとようやく辿り着いた所だった。
「!」
そこへ、また銃弾が飛んできた。
レインは身を捩りどうにか避けたが、すでに脚の方の感覚も薄れてきているようだ。
バランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
「へへっ……もうおしまいか?」
「……」
その海賊達は、レインを容易く取り囲んだ。
もう逃げ出せないとわかっているレインに、一人の男が悠々と近付き、髪を掴み引き上げた。
「手配書よりいい女だなぁ……。おい、お前が奴の女ってのは本当かい?」
「や、つ? 誰だ……」
その時、ニヤついていた男の顔が一変した。
「とぼけてんじゃねぇぞ!! こらぁっ!!!」
「!?」
男は、レインの右肩に剣を突き立てた。
「うぐっ……!」
苦痛に歪むレインの顔に、男は更に顔を寄せてきた。
「『赤髪』だ。『赤髪のシャンクス』……。だから、お前には高額の賞金がついている。そうだろうがっ!?」
「な……に……?」
「俺は奴に以前の仲間達を皆殺しにされた! それからもう一度この海に来て奴を捜している所……幸運な事にお前に会ったのさ」
「……」
「さぁて……お前を使って奴を呼び出すか。それとも……」
「うっ!」
男はレインの肩から剣を抜くと、今度は胸から腹にかけて軽く振り下ろした。
「!」
「噂によると、その腹には奴の子が入ってるらしいが、本当か? ……まぁ、そんな事でもねぇと、お前にあんな金額がつく訳がねぇ!」
「……」
なんと、世間ではそんな噂がたっているのか。
男は、シャンクスへの恨みや、レインに対して今からどんな恐ろしい事をするのかを詳細に説明してきた。
レインはしばらく黙って聞いていたが、耐えきれなくなってついに吹き出した。
「ふっ……あはは!」
「なんだ!? 何笑ってやがる……!?」
この状況で突然笑い出したレインを、恐怖で頭がおかしくなったのかと、男達は一歩退いてから見つめた。
「はは……安心しろ。あんたはシャンクスには勝てない……」
「なんだと!?」
「はぁ……少なくとも、あの人はこんな姑息な真似はしないからな……」
レインの視界は、毒と出血で薄れてきたが、その顔はまだ笑っていた。
狭まる視界の先に、殺意で朱に染まる男の顔が映る。
「計画変更だ……。奴には、この女の切り刻んだ死体を届ける事にする!」
男は再び刃先をレインに向けた。
「ふぅ……」
レインは自分はこんな所で死ぬのか、と、溜め息をついた。
まだあの人に会ってないというのに。
まだ、やらなければならない事は山ほどあるというのに。
まぁ、仕方ない。
最後に賞金首になって、海賊の気持ちが少しわかってよかった。
レインは目を閉じると、すぐに暗い意識の海へと身を委ねた。
その後すぐ、剣を振り上げた男の首が飛んだ事など、知らずに。