Butterfly

□After-3
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葉巻の煙に晒されながら、もう一度女の方を振り返った。

やはり、その顔には見覚えがある気がした。


「……」


その時、女がこちらの視線に気付き不意に笑みを返す。

美しい女だ。

こんな女を忘れるだろうか。

新世界から来たというが、どこの島かと訪ねても何も言わない。

恐怖で記憶が曖昧になっているというが、その言い草はどこか怪しいものだった。


「大佐! ヒナ大佐からお電話です!」

「ヒナ〜? ……まぁいい。お前ら、あの女を見張っとけ!」

「はっ!」


スモ―カ―はもう一度女の方をちらと見ると、船内へと入った。


「もしもし、スモ―カ―君?」

「あぁ……何の用だ」

「例の女がまた姿を消したらしいの。もし海賊と接触したら……危険だわ!」

「おい、落ち着け……例の女ってのは……」

「もう! 覚えてないの!? 『麦わらの一味』の船に乗っていた女よ! 他の王族の手前、手配はされてないけど……だからこそ厄介だわ」

「!」


その時、スモ―カ―に鮮烈な記憶が蘇った。

以前、行方不明の王女の写真を見た事がある。

その写真には花のように微笑む少女が写っていた。

それは先ほど見たのと、まったく一緒の微笑みだった。


「……ッ」


スモーカーは受話器に向かって何かを言おうとしたが、すでにそれは切れていた。

いや、強制的に切られていたのだった。


「もうばれたか……」

「!?」


スモ―カ―が通信が途絶えている受話器を持ったままで振り向くと、そこには何食わぬ顔をした先ほどの女が立っていた。


「貴様……ベアトリー・レインだな……」

「……」


スモ―カ―は、未だに信じられない気持ちだった。

今目の前に立っているこの女が、我らの軍艦三隻を沈め、国を二つ潰したというのか。

あらゆる海賊と関わっている疑いもある。

なのに、なぜ首に懸賞金がかかっていないのか。


「色々、聞きたい事があるようだな……」

「俺の部下はどうした……?」

「殺してはいない」

「貴様の本当の目的はなんだ?」

「同じだ。新世界に連れて行ってもらいたいだけ……」

「そこで何をする?」

「別に。……ただのお礼参りだ」

「……」


本部に連絡を入れるべきか。

しかし、この女がどんなに危険でも今の所一般市民に変わりはない。


「……煙いよ」


絶えず舞う葉巻の煙に、レインは顔をしかめ、手で払った。

そんな仕草は、ただの普通の女にしか見えない。

スモ―カ―は溜め息をついた。


「海軍をアシにしようってのか……」

「あぁ。困らなければ送ってくれ」


レインは、警戒を解かないスモーカーを尻目に、写真の少女と同じ微笑みを見せた。
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