Butterfly

□3.別離
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「第一部、完っと……」


そこまで話すと、ナミは一気に水を流し込んだ。

しばし後、ウソップが愕然とした顔のまま口を開く。


「マ、マジかお前!? 大冒険スペクタクル!! ……じゃねぇかっ!! ……『鷹の目』? 『覇気』??」

「うん……。本人が話してくれた」


もちろんナミは、細かい所は話していない。

そこを話さずとも十分に凄惨な話ではあったが。


「おい! ルフィ起きろよ!!」


チョッパ―が隣で寝ているルフィを叩いた。


「んがっ!? ……あぁ……それで? でかいじゃがいもの話だよな……」


ほぼ話を聞いていなかったルフィはシカトして、今度はサンジが口を開いた。


「でも……それが本当なら、レインちゃんは一人ぼっちになっちまったってことか?」

「えぇ……」

「ふあ〜ぁ……。で、おれらは結局何すりゃいいんだ?」


ルフィが両腕を普通の人間ほど伸ばしながら聞くと、ナミはテ―ブルを叩いて立ち上がった。


「だ・か・ら! その『ジュ―ド』って男を捜すの!!」

「でも捜すったってお前……そんな凶悪で陰険で恐ろしく腕の立つ男なんか……どうすんだよ?」


ウソップは少々恐ろしがりながら言った。


「う〜ん……だって王族に関わってるんでしょ? そこの筋からあたってみればいいわ! とにかく捜して倒すのよ!!」


恐らくその男が生きている限り、レインに平穏は訪れないであろうとナミは思っていた。


「すまないが……その男を捜すのはやめてもらおう」


レインが入ってきた。

後ろに不機嫌そうなゾロもいる。


「レイン!! でも……!!」


ナミを制すようにレインは少し強い口調で言った。


「私の問題だ」


まだ何か言おうとするナミをそのままに、レインはすぐにデッキへと出て行った。


「ルフィ〜……」

「……」







レインは広い海を眺めてた。

この海のどこかにあの男はいる。

生きている。


(なぜだ……なぜあいつが生きて皆が……!)


レインは目を固く閉じた。

その時背後に気配を感じ、驚いた拍子に思わず剣を抜く。


「!!」


そこには両手を挙げ、降参のポーズを取るサンジがいた。


「おいおい……またかよ〜」


レインは、ハッとしてすぐに剣を納めた。


「すまん……サンジ」


レインがあまりにも辛そうな顔をしたので、慌てたのはサンジの方だった。


「あ〜いや、俺もいきなり傍に来て……悪ぃ! レインちゃん!」


レインはサンジを見上げた。


「いや……、何度も、『悪ぃ』。サンジ……」


レインが真顔でサンジの調子を真似たので、サンジは驚くも、笑った。

レインも目を細め、サンジを見詰めた。


「レインちゃんは本当に可愛いなぁ!」

「え……?」

「笑顔なんか最高だぜ!! ……いつも、笑ってろよ」

「……」


笑う事なんかしばらく忘れていた。

そして、それはいけない事のような気さえしていた。

だがレインは気付いていた。

この船の中にいると、考えるより先に笑顔が零れている自分に。


「……」


レインは隣に立つサンジをふと見詰めた。

陽に透けるその髪はレインの心を懐かしく締め付ける。


「……!」


レインは不意にサンジの髪にそっと手を差し込んだ。


「弟も……この色だった……」

「……え」


サンジには、レインが今にも泣き出しそうに映った。


「……おいッ!!」


そこにゾロが突如割って入ってくる。


「なんだてめぇ!?」


サンジはいつもの調子で怒鳴ったが、ゾロはやり合う余裕もないようにレインの手を掴んだ。


「ゾロ……!」

「ちょっと来い!!」


強引に手を引くゾロをサンジは咄嗟に止めようとした。


「おいてめぇ!! レディに……!!」


しかし、ゾロは反射的に野獣のような眼差しでサンジを射抜いた。


「――黙ってろ」

「!」


そして、レインの手を掴んだまま引きずるように中へと連れて行った。


「おいおい……。マジか……?」


サンジは二人の背中から目を離せないまま、煙草に火を点けた。
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