Butterfly
□After-2
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いつもの古びた城が聳え立っているのが見える。
ここに帰ってくるのはとても久しい感じがした。
この場所を恐れる人間は多いだろうが、自分にとっては落ち着く住み処だ。
しかし、大地に足を踏み入れた瞬間、その空間に違和感を感じた。
何かいるようだが、その気配は立ち所に消え、なかなか尻尾を掴ませない。
「……」
ミホ―クが何も気付かない振りをして城に入ろうとした矢先、背後から、たった今生まれたばかりのような殺気を感じた。
「!」
素早く背にある剣を抜くと、見覚えのある剣とぶつかりすぐに耳障りな音が辺りに響き渡る。
「ふ……やはり、だめか」
「!」
見紛うはずもないその高貴な目は、ミホ―クを見て微笑んだ。
「本気で殺すつもりで斬りかかったんだがな……」
レインは残念そうに剣を納めた。
(背後に来るまで気配を完全に消していたとは……)
「……何の用だ」
ミホ―クも剣を背に納めた。
ぶっきら棒な言い方だったが、レインの成長ぶりに少し驚いていたのは事実だった。
「あぁ……。まずは、礼を。バナロ島やラボルディ―では世話になった」
「……そんなくだらん事を言いにわざわざ来たのか?」
「いいや……。聞きたい事がある」
レインはそう言って自分の剣を差し出した。
「……入れ」
ミホ―クはレインをちらと振り返り、城の中へと促した。
「飲むか?」
ミホ―クはグラスを差し出したが、レインはもちろん断った。
この悪魔の飲み物には二度と口をつけまい、と心に固く誓っていたのだ。
ワインをじっと睨みつけているレインを見て、ミホ―クはふふん、と笑った。
(そういう所が、ガキなのだ……)
ミホ―クは酒以外の飲み物をレインに渡すと、ワインを一つだけグラスに注いだ。
「……で?」
「これだ。……この剣は本当はどこにあった?」
レインは自分の剣をテ―ブルに置いた。
それからはもう、禍々しい気は放たれておらず、ただの美しい剣に戻っていた。
「……」
ミホ―クはワインに口をつけると、グラスを置いた。
「その剣は……昔お前の父から預かっていた。……平和協定が結ばれる前にな」
「!」
レインは思いがけない言葉に驚きを隠せなかった。
「父を……知っていたのか……?」
「昔、一度剣を交えた事があるだけだ」
ミホ―クと父が知り合っていたとは。
どれだけジュ―ドがこの剣を探しても見つからないはずだ。
ジュ―ドは平和協定が結ばれる直前に城へとやってきたのだから。
「しかし、なぜ父は剣を……?」
「お前の父は、噂に違わぬ素晴らしい剣士だった。しかし、日に日に老いていく自分にこの剣が扱えぬようになるかもしれん、とも嘆いておった」
「……」
この剣は間違いなく聖剣だったのだろう。
しかし、もしかしたら父は老いて心が弱くなり、闇に支配されるようになるのを恐れたのかもしれない。
だとしたら、ミホ―クに預けたのは正解だ。
この人の心が剣に支配されるなんて事は、例え世界がひっくり返っても起こらない事のように思えた。
「あの頃のお前の剣は、真っ直ぐな心で突き動かされていた。だからお前に託したが……。あの男の方が一枚上手だったという訳か」
「……」
(ジュ―ド………)
レインは、自分の表情が少し曇るのを感じた。
「それで? これからどうする気だ……」
ミホ―クは飲み干したグラスを置き、小さく息をついた。
「……会いたい人がいる」
レインはその人物の名を上げたが、途端にミホ―クは呆れた顔つきになった。
「そんな所までどうやって行くつもりだ?」
「あぁ、それが問題だな」
レインはため息をついたミホ―クに、悪戯な笑みを見せた。