desire

□2.サンジ×ナミ
1ページ/1ページ


俺は買い出しを手早く済ませて、いち早く船に戻ってきていた。新しい食材に心躍らせても、その後にはすぐ別の事が頭を占めたからだ。忘れ物をしたと言って船に戻ったナミさんの背中が、目に張り付いて離れない。


「これでよしっと……」


冷蔵庫の中に食材を詰め込みながら、なんとなく、見えないはずの場所を見上げる。気にしたってしょうがない。そう思いなおし、今度は船室に荷物を下ろしに行く事にした。

俺は船室に荷物を降ろし、ある程度片付けると息をついた。あいつらには、整理整頓という概念がないのか。男部屋ならではの雑多な室内が片付ける手を止める。また時期を見て誰かに掃除させるか。そんな事を考えながら、出ていこうとドアノブに手を掛ける。すると、なぜか勝手にノブが回ってドアが開いた。


「うお!」


何かがすごい勢いで飛び込んできて、俺はそれを受け止めた。


「サンジくん……っ!!」


それは、泣きじゃくるナミさんだった。


「ナミさん……! どうした!? 何があったんだ……?」


何があったと聞きながら、嫌な予感が当たったと思った。船を降りる前のゾロの苛立った様子を思い出し、ナミさんに酷い事をしたのではないかと考える。沈めていた怒りが膨らんでいくのを感じながら、同時に、何をされたのかと心配になった。ナミさんはしっかりしているし、気が強い女だ。泣きながら俺のところに来るなんて、普段なら考えられない。

俺は優しく抱き締めると、震える彼女の背をさすった。なんて細いんだろう。いつも元気で頼りになる航海士の彼女だけど、抱き締めたら自分の中にすっぽりと埋まるほどだ。ナミさんは次第に落ち着きを取り戻したが、それでも涙は止まらないようだった。俺を見上げ、食い入るように見詰めてくる。


「サンジくん……あたしを抱いて」

「……え?」


突然の事に、俺はさぞかし間抜けな顔をしただろう。


「なに言ってんだ、落ち着けよ……」


言いながら、自分の方がとても落ち着いてはいられなかった。そんな俺の言葉を遮るように、ナミさんはさらに続ける。


「お願い……何も聞かないで抱いて!」


涙が溢れるのも構わず、必死に見詰めてくる彼女を見て、俺の中で何かが弾けた。ナミさんは明らかに様子がおかしかったが、そんな疑問を吹き飛ばすほどの何かを、その目が訴えかけてきた。俺は彼女の頬をそっと包み、涙を拭うと、静かに唇を重ねた。








荒々しくて熱いゾロのキスとは対照的に、とても優しくて丁寧なキスだった。


「ん……」


とても自然に、自分の舌を絡める。心地いいと思った。サンジくんとキスするのは初めてだったけど、こうしているとすごく落ち着く。サンジくんて、上手いんだ。この人はコックとして優秀で、いつだって欲しいものを欲しいタイミングでくれる。だからか、あたしが今どうして欲しいのかわかっているみたいだ。そのままゆっくりソファーに倒れ込む。女部屋のとは違って、しっかりした硬い感触だった。

柔らかいキスを受けながら、ここに来て急に不安になる。さっきは勢いとゾロへのあてつけの気持ちがあって、まったく冷静になれなかった。けれど、落ち着いて考えてみると、サンジに対してあまりに身勝手な事をしてるのではないか。

そんな自分をサンジくんはずっと優しく見詰めている。なんだか、顔が見れない。あたしは気まずくなって視線を逸らした。


「あの、サンジくん……あたし……」


あたしの言葉を遮るように、サンジくんは頬にそっと触れてきて、また唇を重ねた。今度のはもっと、甘いキスだった。











俺は邪念を振り払うように夢中でトレーニングを続けていた。


「……ゥ、」


その時足に痛みを感じた。あのジジイから受けた傷が開いたようだ。まったく煩わしい傷だ。俺は大きく息をつくと、器材を投げ出しベンチに座り込んだ。先ほど、ナミを抱いたベンチだ。最後に俺を睨みつけたナミの顔が不意に浮かぶ。涙を流していたのも思い出し、胸が重くなった。酷い事をした自覚はあった。ナミには、こちらの事情はまったく関係なかったというのに。

いつでも元気で笑っているナミを見て、なんとなく腹が立ったのだ。つまりはただの八つ当たりだったが、ナミに甘えがあったのも事実だ。ナミはなんだかんだ言って俺を許してくれる女だと、いつもどこかで甘えていた。

その時、ふとベンチの下に視線を落とすと、小さな赤い染みがついているのが見えて、俺は立ち上がった。









俺はたっぷりと解した唇を離すと、ナミさんを見詰めた。いつもに増して奇麗だ。溢れ出しそうな思いが、口をついて出る。


「好きだよ。ナミさん……」


それは毎日のように言っている言葉だったが、今は少し違った。それはナミさんも同じようで、いつもは軽く流すそれを真面目に受け止めてくれたようだ。


「サンジくん……」


細い首元に顔を埋め、そっと唇を這わす。なんだか甘い匂いがする。ナミさんの匂いだ。


「好きだ……」

「あ……」


俺の髪が彼女の肌を滑る。ただそれだけの事が、なんだか夢のようだった。ハ、と漏れる吐息を感じて、なにか熱いものが込み上げる。やばい。この段階ですでに、めちゃくちゃ幸せだ。俺がナミさんを感じさせている。この現実が、自分をのめり込ませようとしていた。


「あんっ……あっ……んん……」


ナミさんの身体はもう十分に熱くなっていたが、俺は焦らすように太ももを愛撫する。たっぷりと時間を掛けて可愛がってやりたかった。

すると、もう待ちきれないのか、ナミさんは自ら脚を開き始めた。俺はそれをどこかぼんやりと眺める。旨い酒をたんまり飲んだ時のような
高揚感だった。

しかし、開かれたそこを見て、俺は息を飲んだ。赤く腫れたようになっていて、少し出血までしている。ゾロだ。ここに来て、彼女の身に何があったのか知る事になる。俺の心に静かな怒りが沸いた。


「可哀想に……」


俺はそこに優しく舌を乗せる。僅かでも、傷が癒えればいいと思った。その途端、ナミさんはびくっと身体を揺らし、慌てたように俺を見る。


「あっ! ……ダメ……そんな……っ」

「力抜いて……」


恥ずかしがる彼女に構わず、じっくりと舐め続けた。抵抗されてもやめる気はなかったが、次第にそこは柔らかく濡れていく。


「あっ! ……あぁん……あっ! ……」


耐えられずに身を震わせる彼女が愛おしかった。もっと感じさせてやりたい。何度もイかせてやりたい。もっと、もっとと。自分の中の激する想いが這い上がってきそうになる度、抑えつけた。ナミさんを甘やかして優しくしてやりたい。それがずっと前からの自分の願いだったから。

だから、俺は気付かなかった。その時、ドアの外にゾロが立っていた事なんて。









あたしは目を覚ました。どうやら少し眠っていたらしい。自分の肩の辺りからサンジくんの腕が見えた。どうやらあたしを後ろから抱き締めたまま眠っているようだ。ソファーの上なのに二人して器用に眠っていたのかと思うと、なんだか笑いが出た。あたしはサンジくんの方を向いて、そっと髪の毛を撫でながらその寝顔を見詰める。自分の心がとても穏やかなのを感じた。先ほどの事がまだ現実ではなかったようにさえ思えるというのに。


「ん……」


その時、サンジくんが薄く目を開けた。


「……ナミさん……」


夢の中半分、という感じなのに、あたしをすぐに抱き締めてくる。彼の体温を全身で感じ、これはやはり夢じゃない事を知った。


「好きだよ……」


サンジくんはじっとあたしを見詰め、顔を寄せると、優しく唇を重ねてくる。


「ん……」


ゾロとの間にこんな安らぎはなかった。それはきっと、サンジくんが自分の事を好きでいてくれるからだ。愛されているという安心感。自分はずっと、これを求めていたのかもしれない。

何度も角度を変えて、唇を重ねる。性的な感じよりも、愛を確かめるようなキスだった。互いに何度も見詰めては、キスをする。とても幸せだった。この人は、自分の中で足りないところを優しく埋めてくれる人だ。

ぎゅっと抱き締め合って、また安堵の息を吐き出した時、急に聞き慣れた声が近くに聞こえた。


「いやァ、喰った喰った!!」

「ルフィ、ホントお前喰ってばっかだなァ。もっと他にやることねェのかよ?」

「ロビン、なんか面白そうな本あったか?」

「えェ。今度貸してあげましょうか?」


町の方からみんなの声が聞こえてくる。どうやら船に戻ってきたようだ。


「やばっ……」


あたし達は何も身に着けてないことを思い出し、慌てて服を探した。


「お。お前ら! 先に戻ってたのか?」

「う、うん……」

「ははは……」


あたし達は戻ってきたみんなを見下ろして、ぎこちなく笑った。着替えが間に合って本当に良かったと、密かに胸を撫で下ろす。船はすっかりいつもの様子に戻ったけど、あたしとサンジくんはみんなに見えないように手を繋ぎ、顔を見合わせて微笑んだ。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ