Stalk

□2.そして、真実へ
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広い町中には警備の者らしき男達が立っていて、あたしを一様にちらりと見る。

まったく、こんな早朝からご苦労な事だ。

しかし、島の人の姿はあまり見ない。

まだ時間が早いのか、あるいは昨夜の事があるから警戒して外に出ないのか。

こんな状態でローが何かするとは思えなかったが、しかし、彼がいつからいないのかはわからない。

もしかしたら、昨夜の時点で宿を出たのかもしれない。

とにかく、一度船に寄ってみようと、あたしは港に走った。

しかし、もう少しで港に着く、という所で、あたしは不意に声をかけられ立ち止まる。


「ルー!」

「!」


それはゼルだった。

彼の無事な姿を見てほっと胸を撫で下ろすも、その顔にいつもの笑顔がないので、あたしは推し量るような視線を投げかける。


「どうしたの? キャプテンは……船?」


彼が何も言わないので、あたしはすぐそこにある船へと一歩踏み出そうとした。


「……行くな!」

「!?」


するとゼルはそんなあたしを制し、自分の方へと引き寄せた。


「ゼル……?」


その時、船から出てくる人影が二つ見えた。

それはローともう一人、少し離れていてもわかるほどの美しい女だった。


「……!」

「じゃあね、楽しかったわ」

「あぁ……」


ローは女を見送るとその先にいるこちらに気づき、視線を伸ばした。


「なんだ、お前ら……」

「いえ……俺等はただの散歩です!」


ゼルは沈黙したままのあたしに代わって、その場を取り繕うように笑った。


「そうか。……朝から楽しそうでなによりだ」


ローはそれだけ言うと、特にいつもと変わらぬ様子で船に引っ込んだ。

船から下りた美しい女は、あたし達をちらとだけ見ると、軽やかに横を通り過ぎて行く。

辺りにはその女の沸き立つような香りだけが残った。


「……」


ローは宿には帰らず、あの女と船内で一晩楽しんでいただけだった。

途端に、宿から息を切らせて飛び出してきた自分が滑稽に思え、あたしは無言のまま俯いた。

ゼルはそんなあたしを更に引き寄せると、気遣うような視線を投げかける。


「なぁ、ルー……。お前、キャプテンの事が好きなんだろ?」

「……え?」


思いがけない彼の言葉に、あたしは咄嗟に顔を上げた。


「だから、気づいたんだろ? 立て続けに起きてる事件にキャプテンが関わってるかもしれないって……」

「……」


再び俯いたあたしに、ゼルはまるで諭すかのように優しい口調で続けた。


「わかるよ……。俺だってキャプテンの事は好きだからな」

「ゼル……」


ゼルは一度宿に戻ろう、と肩を抱き寄せたまま歩き出した。


「あれ……もう町中に知れ渡ったのか?」


ゼルは立っている警備の男を見て、少し驚いたような顔をしている。


「うん。昨日の夜……知らないの?」

「あぁ、実はあれからずっとキャプテンを監視しててさ……」

「あれからずっと!? あははっ! ホント、真面目だよね」

「……」


ゼルはふと立ち止まり、あたしの顔を見つめた。


「ん?」

「いや……やっと笑ったな」


そういうゼルもいつもの笑顔になっていた。

あたしはやはり、この笑顔は好きだな、と思った。

ローに惹かれていたのは事実だが、今のあたしにはゼルのこの笑顔がかけがえのないものへとなっていた。

そして、彼の存在そのものが自分の心の中で大きくなっている事にも気が付いていた。

いっそ、全て忘れられたらいい。

彼と二人でいれば、その内に他の何も気にならなくなるのかもしれない。


「しかし……すごい警備の数だな〜」

「ホント。ここまでくるとちょっと大袈裟よね」

「まぁ、仕方ないよ。今回は……」

「え?」


ぽろりと言った彼の言葉にあたしは足を止め、すぐに顔を見つめた。


「今回の被害者は……海兵だから……仕方ないって事? ……どうして知ってるの?」

「……」


ゼルも、前を向いたまま足を止めた。


「……これだけ騒ぎになってるんだ。俺がその事を知っててもおかしくないだろ?」

「昨日公になった事も知らないあなたが、どうしてその事を……? あたし、殺されたのは男だって事すら言ってない……!」

「ルー……落ち着けよ。……あの後見に行ったんだ、あの家を……」


あたしはゼルから離れ、後ずさった。


「違う……あの家は廃屋だったのよ……そして死体は衣服を剥ぎ取られていた……! ……あれを見ただけじゃ、海兵だったって事はわからない……!」

「……」


ずっと前を向いていたゼルがゆっくりと振り返った。

その時、あたしは見たのだ。

あたしが何度も救われてきた、好きだと思っていた笑顔がすっかり崩れ、まるで別人のように歪んだ笑みを注いでくるゼルを。
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