小  説

□始まりの刻
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流竜馬は空手道場の主である。
山奥の、荒れ果て朽ちかけた、寺なのか道場なのかよく分からないところに住んでいる。
数人の弟子が住み込みでいるが、その他の人気はほとんどない。
たまに道場破りや公共料金の集金が来るくらいである。

いかにも貧乏道場だったが、竜馬には別段不満はなかった。
住む所など雨風が防げれば十分だし、別に食うにも困っていない。
山には自然の恵みが沢山あり、そこで生きるすべは、幼い頃から父親に叩き込まれていた。
米と僅かな調味料さえ買えば、案外贅沢な食生活を送っている。

生活自体に不満はない。
不満はないのだが決定的に足りないものはあった。
朝起きて、飯を食い、身体を鍛えて眠る。
ただそれだけを繰り返す毎日に、竜馬は退屈していた。

とはいえ竜馬は隠居した身だ。
降り掛かる火の粉こそ払えど、自ら荒ら事に飛び込む事はない。
今は、との注釈は付くが。

そもそも、その強さや外見から誤解を受けやすいだけで、竜馬は周りが思う程好戦的ではないし血の気も多くない。
自らを鍛えて、その技で強い相手を倒す。
純粋な武道家であり、情に厚い青年なのだ。
ただその強さと戦いに対する情熱が人並み外れていた為に、ゲッター線という強大なエネルギーに纏わる争いに関わる事になってしまったが。

基本的に竜馬は物事を深くは考えない。
だから目の前に泣いている人がいれば助けたいと思う。
困っている人がいれば助けたいと思う。
そうして戦って、戦って、戦った末に、地球の平和なんて守ってしまって、命懸けの毎日でも、とても充実していた。
共に戦ってきた大切な仲間達を一気に亡くす、あの時までは。

竜馬は野に下り、失われた戦友達を想いながら考える。
自身の行くべき道を、歩むべき未来を考える。
けれど、決して短くはない年月が流れても答えは見つからない。
失われたものと、進むことで失われるであろうものに、竜馬は縛られ続けていた。
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