エア・ギア
□いつの日か
1ページ/6ページ
いつだってお前の背中を見ていた。
いつの日か追いついて、そして追い越すと決めた背中――
お前にとって俺は、数多い仲間の1人……その程度の存在だろうけど。
そう、思っていたのに。
オレンジ色の光が差し込む、放課後の教室。まっすぐな黒い瞳で俺を見つめているのは――イッキ。
両手首は掴まれて黒板に押さえつけられ、俺はただ困惑しながらイッキを見つめ返すしかできない。
「イッ……キ……?」
か細い、自分でも情けない声で名を呼ぶと、イッキはその体を近づけてきた。そして、耳に口を寄せて――
「……カズ」
びくん、と勝手に体が震える。鼓動が早まり、体が火照りだす。
特別距離が近い訳でもない。確かに密着しているが、このくらい男どうしならしょっちゅうだ。
なのに、なんで……こんなに――!
「……っ」
イッキの吐息が耳にかかるたびに体が震える。ふとした拍子にヘンな声が出てしまいそうで、俺はきつく唇を噛んだ。
こいつはからかってるだけだ。きっとすぐに、いつもみたいに笑うんだ。
そうだろう?
なんでそんな目で見てるんだ。
そんな、切なげな目で。
「好き、だ……カズ。お前が」
「……!」
耳元で告げられた言葉は、確かな重みを持っていた。触れ合う体温は、とろけてしまいそうな程熱くて――イッキの言葉に嘘はないのだと否応なく思い知らされる。
「俺、カズが好きだ。リンゴより、シムカさんより……カズが好きだ」
「……イッキ……」
本気だ。
イッキは、本気で俺のことを。
「……」
何を言えばいいのか――それどころか、自分が何を思っているのかすら分からなくて。
俺はただ、黙って俯いた。