□7 欲求不満?な彼女
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「総司、くん」
制服のボタンに指をかけたままの格好でこちらを見ている茉莉ちゃんの表情は、後ろから差し込む夕日のせいでよく分からない。
けれど笑っているような気がした。
「こんなところで、茉莉ちゃんはなにし、てるの?」
もう一度問うと、茉莉ちゃんは外れていたボタンを第二あたりまで締めてから
「なにしてたと、思う?」
妖艶に、笑った。
僕はこんな顔で笑う茉莉ちゃんなんて、知らない。
屋上で話したときも、否、それ以前のただのクラスメイトだったときだって、彼女のこんな表情見たことなかった。
こんな、“オンナ”の顔をした彼女を。
「総司くんの、思ってる通りだよ」
立ち上がった茉莉ちゃんがゆっくりとこちらに近寄ってくる。
「ここで、原田先生と、」
目の前に来た茉莉ちゃんはじっと僕の目を見つめながら顔をそっと近づけてきた。
何故か僕はその瞳を逸らすことが出来なかった。
「いやらしーことしてたの」
ギリギリで僕の顔を余けた彼女は耳許でそう、囁いた。
「いやらしー、こと?」
「そ、原田先生とヤってた、って言ったほうが分かりやすい?」
「はは、そうだね、凄く理解しやすいや」
よかった、などと言って目の前の彼女は今度は無邪気に笑った。
なんだか、脳みそが付いていかない。
これでも僕は、頭の回転が早いほうだと自分でも思っていたのに。
「ねえ茉莉ちゃん、一つ聞いていい?」
「なあに?」
「今の光景からすると、茉莉ちゃんの“噂”は本当なの?」
「あー、うーん…どうだろうなぁ…」
そう言うと、茉莉ちゃん宙を見つめて考えるような素振りを見せる。
その時、偶然にも見えてしまった。
顔を上げた茉莉ちゃんの首にある鬱血の跡が
首筋からきっとシャツで隠れてしまった胸元まで続いて居るであろう、真新しいものから、消えかかっているものまで様々な、所謂“キスマーク”というやつが。
いつも彼女はきちんと第一ボタンまで占めていて気付かなかったが、あの屋上で話したときももう“ソレ”はあったのだろう。
「総司くんは、どういう風に聞いてるの?」
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