□6 バッドタイミングな
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総司くんが屋上を去って5分程過ぎただろうか。


もうそろそろ戻っても総司くんには追い付く心配はないだろう。
それに早く戻らないと休み時間が終わってしまう。

授業間の休み時間はそう長くないのだ。



屋上から出て階段を降りて教室のある階に着いたとき、不意に横から声を掛けられた。


「おい、斎藤」


その声には聞き覚えがあった。
この声は、


「…なんですか?原田先生、」


そこに居たのは、原田左之助先生。
整った容姿に、優しい性格で女生徒に大好評な先生だ。
そんな先生に話しかけられるなんて、……何かしたっけ?


「お前、この間出した課題まだ提出して無いよな?」


「……あ、」


すっかり忘れていた。
そういえば、この間の授業でそんなような課題が出たっけ、


「その顔はやっぱ忘れてたみたいだな」


「あ、はははは…」


原田先生は大袈裟に溜め息を吐くとこちらをじとりと見つめてきた。


「まだ出してないのお前だけだぞ…あれ、期限今日までだから、放課後までには提出しろよ?」


「えっ、今日!?」


やばい、課題なんてものすっかり頭から抜け落ちてたから、保健体育の授業が無い今日、そんなもの持ってきているはずがない。

でもサボリだったり色々で保健体育の単位はもうギリギリだ。

――――どうしたものか。


「は、原田先生…その、ちょっとご相談が…」


「だめだ」


「ちょ、まだ何も言ってないじゃないですか!」


「どうせ忘れたから期限延ばしてとかそんなんだろ?だめだ」


「ば、バレてる……」


「顔に出てたからな、じゃ、放課後までに出せよー」


そう言って原田先生はひらひら後ろ手に手を振りながら背を向けた。


「待って!原田先生ストップ!!」


とっさに原田先生のシャツの裾を掴んでしまった。
そのせいでズボンの中に仕舞ってあったはずのシャツの裾がずるりと引っ張り出される。


いきなり引っ張ったせいでうおっ、とか間抜けな声を上げる原田先生とか、
いきなり廊下で大声出したからチラチラと感じる数名の視線とか、

今はそんなのどうでもいい。
課題だ。単位が危ないのだ。だからといって家に取りに帰るのは凄く面倒だ。

自分でも我儘なのは分かってる。


「お願い!お願いしますー!!掃除でも雑用でも何でもやるから!!」


「おいっ、ちょ、落ち着けって」


「おーねーがーいーしーまー、ん゛ー!?」


「あーもう、ちょっとこっち来い!」


駄々っ子みたいに駄々をこねた結果、原田先生に荒々しく口抑えられた。

手がおっきいせいで鼻まで塞がれて息ができない。苦しい。


顔の半分抑えられたまま引きずられるような体制で原田先生にどこかへ連れてかれた。




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