短編

□あたためる
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「あれ?咲良ちゃん、来てたんだ?」


「総司が呼んだんじゃん、だから寒い中わざわざ来てあげたんだし、」


「え、そうだっけ?」


「……帰る」



ほかほかと湯気を立てて出てきた総司は上半身裸にスエットという格好でタオルで頭拭きながらすっとぼけた声でふざけたこと抜かしやがった。


人がわざわざ寒い中来たのに、自分はほかほかのお風呂でぬくぬくとしてたあげく、自分が呼んだこと忘れるなんて怒らないはずがない。


「うそうそ、冗談だよ、来てくれてありがと」


にっこりと笑う総司にむうっとむくれるものの、もう心の中では半分くらい許してしまっている。

なんだかんだで私は総司に甘いと思う。
総司の笑顔を見たら大抵のことは許してしまうようなきがする。



「咲良ちゃんほっぺ真っ赤」


そう言って総司の両手が頬を包む。
風呂上がりのせいで体温の高い総司の掌は暖かくて心地いい。


「総司、髪…水落ちてきて冷たい」


ちゃんと拭いて居なかったのか総司の髪からはポタポタと水滴の粒が落ちてきて冷たい。


「咲良ちゃん拭いてよ」


はい、と肩に掛かってたタオルを渡して、総司は私の座っているソファの前の床にこちらに背を向けて座った。


「もう、仕方ないなー」


さっきの仕返しのつもりでゴシゴシとちょっと強めに拭いてやった。


「いたいっ、もうちょっと優しく拭いてよ!キューティクル剥がれる!」


「総司のキューティクルなんて絶滅してしまえ!」


ふざけあいながら総司の髪をふき終わり役目を終えたタオルを洗濯カゴに放り込みまたソファに戻ると、総司は準備していたのか次は私にドライヤーを渡してきた。


「ドライヤーくらい自分でやってよ」


「いいじゃんたまには」


「てゆうか、普通逆じゃない?彼女の髪を彼氏が乾かしたりしない?」


「いいじゃんたまには」


「お前はそれしか言えないのか!」


「そうでも無いよ」


「………」


カチッとドライヤーのスイッチを押すと同時にブォーと温風が総司の髪を揺らした。


細くてちょっと癖のある綺麗な茶髪。
特に対した手入れもしていないくせに総司の髪はその辺の女の子よりもサラサラつやつやだ。
ちくしょう、憎らし…じゃない、羨ましい。


「はい、完了」


カチリと電源を切るとさっきまでうるさかった室内が一気に静かになった。


「うん、ありがと」


総司は手櫛で髪の毛を適当に整えると顔だけこちらに向けて礼を言った。
さっきまで濡れてぺちゃんとしていた髪が今ではふわりといつものボリュームを取り戻している。


総司はストンと隣に座り直し、咲良ちゃん、と一言。


「なに?ていうか早く服着なさ…んむっ」

総司の方に顔向けた瞬間、素早く後頭部掴まれて気付けば目の前は総司の顔。


うっすらと目を開けた総司と超至近距離で目が合って思わず逸らしてしまった。


「色気の無い声」


くすりと唇を離して笑う総司に今更ながら顔に熱が集まるのを感じた。


「、…とかいいつつ、この手は何よ?」


もぞり、と服の隙間から侵入して来た総司の左手を服越しに捕まえる。


「ん?お礼?」


首を傾げてにやりと笑いながら更に手を奥に進めようと動かしてくる。


「ちょ、総司っ、くすぐった…んんっ」


また口付けられる。今度は何度も口内を荒らすような深いキス。




「咲良ちゃん身体も冷たい。僕があっためてあげるよ」





あたためる




(お礼とか言ってただ総司がシたいだけ、んむっ)
(…色気ない声)

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