□3 小悪魔な彼
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「こんなふうに沖田くんと話してるなんて夢みたい」


ふふ、と柔らかく微笑む彼女は僕から視線を逸らして空を見上げた。


うん、今日は雲一つ無い快晴だ。


「何で?クラスメイトなんだし話そうとすればいつだって話せるじゃん」


「うーん、そうなんだけど…私学校では誰かと喋ったりしないし、」


再び僕に視線を戻した彼女は困ったように笑った。
そうだ、確か彼女には友達と呼べる人はほぼ0だった。


「それに、沖田くんの周りにはいつも可愛い子いっぱい居て近寄りがたいし」


ああ、確かに休み時間になると毎時間、毎時間色んな女の子が僕の周りに来てるっけ、正直あれはちょっと鬱陶しい。


「じゃあ僕が斎藤さんに話しかける」


そう言うと彼女は手と頭をぶんぶんと取れちゃいそうなくらい勢い良く横に振る。


「そ、それはやめてっ」


「…そこまで拒否されると何か傷付くなあ」


「拒否とかじゃなくて、またこういう風になったら嫌だし…」


そう言って彼女は腫れが引いて大分落ち着いた自分の頬を左手で包む。


「沖田くんモテるし、今度は沖田くんの彼女に平手打ちされちゃう」


彼女はそう言って赤い舌をチロリと出して、おどけたような表情をすると、だから遠慮しとく、と続けた。


僕もそう、とだけ呟くとその話はそこで終わった。






それからも特に中身のない、たわいない会話を繰り返して、授業終了のチャイムが鳴ったので教室に戻ることにした。


断られるだろうと分かっていたが、教室まで一緒に行こうと誘ってみた。




(ありがとう、でも寄るとこあるから)
(そっか、じゃあまたね斎藤さん)
(うんまた、…あ、茉莉でいいよ)
(は?)(なーまーえ!!)(…ああ、うん)
(、じゃあね!“総司くん”っ)




――別れ際見せた彼女の艶っぽい表情と名前を呼ばれたことに不覚にもときめいてしまった。
というのは内緒のはなしだ。




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