白黒あわあわ
□黒さに鈍感
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「真城さん、働いて下さい」
『働いてるよ!働いてるじゃん!』
今は7月。
かれこれ私がバイトを初めてもう2ヶ月がたった。もう普通に馴染めて、家族みたいなものになった。
「それのどこが働いてるんですか。逆に散らかしてますよ!」
さっきからガミガミ怒ってくるのは小鳥遊くん。
『知らない!私だって一生懸命やってるんだよ、たまには褒めてよ!』
「どこも褒めるところがありません!」
「山田も褒めて下さい!」
『真城も!』
「…同レベだ」
葵と喜んでいたら追い出された。くっそーメガネめ!ミニコン!いつかぎゃふんと言わせてやる!
とりあえず誰かに話を聞いてもらいたい。このイライラした気持ちを分かち合ってもらわなければ!
今休憩に入ってるのは……
「あ、真城さんだ〜」
『…チッ』
相馬さん。
この人には分かち合ってもらえないだろう。「舌打ち!?酷いな〜」なんて笑ってるおかしな人だ。
に、しても、さっきから部屋に入らずにいる様子の相馬さん。コソコソしてるようにも見える。…何をコソコソやってるんだろう。
『何してるんですか』
「真城さんも聞く?面白いよー」
ほら、と移動させられたのは相馬さんと扉の間。微かに開いた扉の向こうには佐藤さんと八千代さんが座っていた。
『まさか盗み聞き?』
「正解!」
『趣味わる』
「でも真城さん、顔が楽しんでるよ」
『お互い様』
「それもそーだね」
相馬さんと息を殺して盗み聞きに専念する。
相馬さんは佐藤さんをイジるのを面白がっている。勿論、私も(実際あまりイジれてはいないけど)楽しい!
「それでねっ。杏子さんが杏子さんで私のパフェを杏子さんも杏子さんがねっ、…佐藤くん聞いてる?」
「…………、あぁ」
「だけど杏子さん、最近ちょっと冷たいと思うの。…どうしてかしら?」
「………、…さぁ」
「ねぇ。佐藤くんはどんな女の人がタイプ?」
「……………」
どうやら八千代さんの相談を聞かされてるらしい佐藤さん。
佐藤さん可哀想!だけど面白い!
笑いを堪える私と相馬さん。駄目だ!楽しすぎる!
「……女らしい人、じゃねぇの」
必死に答えたであろう佐藤さん。
「ぷはっ。可哀想に、佐藤くん」
とうとう笑ってしまった相馬さん。
「はー面白かったー。…あれ、真城さん?どうかした?」
『相馬さんがキモチワルイです』
「うわぁ唐突に酷いねー」
いつもこんな事やってるんだ。それを考えたら相馬さんがキモチワルくて仕方なくなった。(確かに面白かったけど!)
「佐藤くんも頑張るよねー。弱味握れるネタが多すぎるよ」
「何が多いって?」
楽しげに笑う相馬さんの背後には、いつの間にか佐藤さんが立っていた。どす黒いオーラを漂わせて、相馬さんと私を睨んでいる。
「ちょっ、佐藤くん…?超怖い!フライパンはやめて!」
フライパンを握る佐藤さんは怖い。相馬さんもビビるのが分かる。
『はい!全ては相馬さんの責任っす』
「真城さん!?」
『弱味握られて強制で聞かされました』
「おれ真城さんの弱味握ってないよ!」
「よし、いっていいぞ」
『あざまーす』
「うっそ、真城さん!?」
そう、私は相馬さんに何故か弱味を握られてないのだ。
だけど嘘をつき佐藤さんに許してもらえた。やったー!
私の名前を呼ぶ、怯えてる相馬さん。
『相馬さん、頑張って下さーい!』
私は振り返って思いっきり笑顔でかえした。その数秒後、後ろから叫び声が聞こえてきた。
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