短編

□恋愛 Agogik
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トキヤはいつもカッコイイ。これでもかっていうくらいカッコ良くて、たまにあたしなんかが恋人でいいのかなって思う。

そんな彼と付き合い始めたものの、友達の延長線みたいな感じで未だに甘い雰囲気なんてない。
別にそれに不満があるわけじゃないけどね。

初めは人との関わりを最小限に留めているトキヤに、興味を持ったあたしから話し掛けた。

当時から芸能界でアイドルをしていたらしいけど、興味なかったから知らなかったんだよね。そのことにすごくビックリされたっけ。
あたしはむしろ、クラスにそんな人がいたことの方が驚きだったけど。

それからはどんどん親しくなって、軽口叩いたりふざけあったり(あ、もちろんあたしが一方的に構うんだけど)、仕事がない時は遊んだりすることもあった。

もちろん相手は芸能人だから外ではおおっぴらに遊べないし、トキヤは人込みとか出ることほとんどないから、遊ぶっていうか図書館で勉強とかなんだけどね。

そんな彼が大切な友達から、大好きな人になったのはいつだったっけ?


アイドルだから当然のことなのかもしれないけど、トキヤは本当に綺麗で、歌声もすっごく素敵で。

ああ、なんであたしこんな言葉でしか表現出来ないんだろう。

あたしが隣に並んでるとトキヤの品格が落ちてしまうような、そんな気さえしてくる。

だけどトキヤはそんなあたしの心は知ったことないっていう風に、今だって隣で完璧で居続けて、あたしに疎外感を感じさせる。

付き合うことになったのもあたしが告白したからだし、こうして二人でいてもお互い好きなことをやってることの方が多くて、実はトキヤって、あたしのこと友達以上には思ってないんじゃないのかなと思ったりすることもしょっちゅうだ。

ほら、その乱れない髪だって、まるで『私とあなたは違うのですよ』って言われてるような気分になっちゃうあたしってちょっと卑屈?

女の子だからそれなりに手入れはしてるけど、トキヤはそれとは比べ物にならないくらいに艶のある髪してる。

それを見てたらなんだかムカムカしてきて、でもトキヤのことはやっぱり好きで。

そんな感情のまま、こっちを見ようともしないで読書に集中している彼の髪をわしゃわしゃと掻き回してやった。


「!! いきなり何をするんですっ!?」

「別になにもー? ただ、トキヤ、可愛いなぁって」

「はぁ? 意味が解りませんっ。ちょ、やめなさい、未来っ」


ただちょっとした八つ当たりなんですー、なんて言ったら後が怖い。

ほんと、完璧過ぎて憎らしいくらいだよ。
だけど……その裏に隠されたトキヤの努力を知っている、そう在り続けようと頑張っている彼が好き。

なんだかんだと言いつつも結局助けてくれたり構ってくれたり、優しいところも全部が好きなんだ。


「はははー、髪の乱れたトキヤもかわいー」

「私が可愛いとかっ、意味不明なことを言ってないで、いい加減その手を退けなさいっ」


ぱっと両手を掴まれて降ろされる。

そのままあたしを睨んでくるんだけど、乱れた髪がすごいことになってて、自分でやったことなのにおかしくなっちゃった。


「ぷっ、あはははは! トキヤっ、すっ、ごく可愛い」


途端に私の手を放り出し、不機嫌そうな顔をして髪を直し始める彼はテレビの中とは違って等身大で、あたしの知ってるいつも通りのトキヤ。

それが嬉しくてついつい笑いをおさめずにいたらパシッと頭を叩かれた。


「あたっ」


叩かれた箇所を抱えて唸るあたしを他所に、トキヤはきっちり髪をセットし直してた。
ああ、またどこから見ても隙のないテレビの中のトキヤに戻っちゃった。

結構痛かったし、なんだか無性に悲しくなって涙まで出てきた。

ジトっと今度はあたしがトキヤを睨むと、はぁ。と溜息をついて頭をぽんぽんと軽く叩いた後、くしゃりと髪を撫でてくる。


「上目遣いはやめなさい……。まったく、こっちの気も知らないで。可愛いのは君の方でしょうに……」

「ん? なんか言った? トキヤ」

「何でもありません」


そう言ってちょっとそっぽを向きながら雑に、わしゃわしゃとさっきの仕返しのように髪を掻き回すトキヤの横顔がなんだか赤い。

あれ、もしかしてトキヤ、照れてる? なんで照れてるかはわかんないけど、でもほっぺちょっと赤いよね?

テレビで見てるだけの人は知らないだろうその顔。
仕事に真摯に向き合っている顔でも、無表情に近い通常の顔でも、自信満々の笑みでもない、プライベートでだけの顔。

素直じゃないトキヤが、あたしに気を許してくれている証拠なんだって思ったら自然と身体が動いてた。


「っ!?」


気付いたらすごく近くにトキヤの顔がある。しかもさっきより赤い。そんなトキヤが驚いた表情を浮かべてあたしを見ている。


「未来、」


あれ、あたし今何したんだっ、け……ぇえええええ!!?


「あああ、違うっ! 別に照れてるトキヤが可愛いなーとか、好きだなーとか、そう思ったら身体が勝手に動いてたとかっ、」


何言ってるんだろ、あたしっ! 全部言っちゃってるじゃんっ。
しかも無意識でほっぺにチューとか、なんてことを……!


「だから、えーと。っ、すいませんでしたぁ!」


恥ずかしくて顔なんて見てらんない。
だからとりあえず一旦避難しようと立ち上がったのに、後ろから手を引かれて倒れそうになる……んだけど、そこはこの事件の首謀者の手によって事なきを得る。めでたし、めでたし。

ってそうじゃなくてっ。


「謝って逃げるだなんて、そんなんじゃ許しませんよ? せっかく君のことを思って堪えていたのに……。
私を煽った責任はきっちり取っていただきますから」


そう言って浮かべた笑みはテレビで見るアイドルスマイル……のはずなんだけど、あたしには悪魔の微笑みに見えるのは、気のせいでしょうか……!


「あおっ、煽ってなんかっ!」

「これからは遠慮しませんので覚悟してくださいね、未来」


遠慮はしていただいて結構ですー!
むしろしてほしいっ、そんな顔で迫られたら、あたしの心臓がもたないよっ。










(本当は君が自覚するよりずっと前から、私は君のことを友達以上に思ってたんですよ)

(えっ!? だってトキヤいっつも迷惑そうな顔してたのに……)

(それは……照れ隠し、みたいなものです……)

(それって俗に言うツンデr、痛っ!!)

(その口、塞いであげましょうか)

(わー、ごめんごめん、ごめんなさいっ! ……んっ)











ツイッターでのやり取りから。ありがちネタですけども……。
トキヤくん、普通学校に通いながらのアイドル設定。

セリフやり取りとかだとすぐに浮かぶんだけど、文にすると全然別物になるという良い(悪い?)例。

黒ごまちゃんに捧ぐ!

 

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