== 4:00 pm == なんで今日に限ってこんなに忙しいんだよっ! 仕事と仕事の合間がほとんどないなんて、どんなイジメだっ。 忙しいのは嫌いじゃないしそれだけ必要とされてるっつーか、人気のバロメーターだからさ、俺だって嬉しいんだぜ? だけど今日だけは喜べねー!! せっかく朔夜の誕生日だっていうのに、朝から全っ然あいつの顔見てないんだもんな。 まぁ、俺が朝からずっと仕事だからっていうのもあるんだけど、それにしても電話やメールする暇さえもないってどんだけだよっ!? やっと余裕が出来たのがドラマの現場だ。 本当なら快晴の空の下撮るはずだったシーンが俺様の祈りが天に通じたのか、昼を少し過ぎてから曇り始めた。 しばらく天候待ちだったんだけど一向に晴れる気配なしってことでバラシになったんだ。 CGなんかで、ちょちょっと加工すればいい時代だけどさ、その監督は生の風景に拘ってたからそういうことになった。 いつもならそんくらい良いんじゃねーの? なんて思う俺だけど、この日ばっかりは監督の考え方に心底感謝したぜ。 とは言ってもその日の俺の撮りは少しだったからさ、そのシーンさえ撮り終われば次の現場だったから、あんまり時間はねーんだよな。 歩いてる時間ももったいなくて、足使うとこは全部走った。昔の俺からしたら考えらんねーくらい心臓が丈夫になったよな。 寮の階段も勢いのまま駆け上がって、朔夜の部屋の前にとーちゃくっ! そのまま息も整えずにインターホンを押した。 ちょっと待て俺、来たは良いけど部屋にプレゼント置きっぱなしじゃね? うわー、どうしよう! 部屋に引き返してもいーけど、これじゃピンポンダッシュになるよな? 「はーい!」 ガチャってドアを開けた##NAME2#が驚いた顔をして俺を見てる。 そうだよなぁ、ずっと走ってたからはぁはぁ言ってるし、汗掻いてるし、 しかもついさっき思い出したプレゼントのことでわたわたしてんだもんな。俺だったら『なんだこいつ?』って思う。 「あっ、えと、朔夜、ちょっと……」 「何かあったんですかっ? そんな息が乱れて……、!! まさか、心臓、痛むんですかっ!?」 「いや、違くてっ……、俺ちょっと部屋に……」 「取り敢えず上がってください! 休んだ方が良いですっ。治まらないようなら救急車呼びましょう!!」 必死な顔の朔夜に腕を引かれそのままリビングへと連れて行かれる。 人の話なんか全然聞かないで、俺をソファーに座らせると「横になっててくださいっ」っつってどっか行っちまいやがった。 いつもはにこにこーって明るい顔の朔夜が、眉間に皺寄せて有無を言わせず行動するのは珍しい。 しかもすんげー勘違いしてるし。 結局プレゼント取りに行くタイミングは完全になくなっちまったんだけど、なんかそれも後でいいかと思っちまった。 俺のことを本気で心配してくれる、朔夜の気持ちが嬉しかったから。 あいつにはさ、まだ学生の時にその話して治ってることも伝えてあるのに、きっと再発したんじゃねーかって思ったんだろうな。 なんか……罪悪感を感じるけど、すっげー嬉しい。 「横になっててって言ったでしょうっ」 戻ってきた朔夜の手にはタオル。これを取りに行ってたのか。 でも誤解は解いておかねーと、マジで救急車呼びそうなくらい不安そうな顔してやがる。 「大丈夫ですか? こういう時、どういう対処すれば良いのかまったく知識がないので……」 「朔夜、」 「とりあえず汗拭きますね、終わったら横になってください」 優しい手つきで顔から首筋までゆっくりタオルを滑らせていく。火照った身体に濡れタオルが気持ち良い。 なんて味わってる場合じゃねぇ! 「朔夜っ」 待っている間に呼吸はすっかり落ち着いたのに、未だ心配そうにしながら汗を拭き取り続ける朔夜の手を掴んで動きを止める。 「どうしました? 何かして欲しいことでも?」 俺の顔を覗き込みながらのそのセリフの破壊力と言ったら……、あーやべぇ。それは本当にやばいって! これだから朔夜の無自覚天然は困るんだよっ。 「心臓はなんともない。ただここまで走ってきたから息が上がってただけだ」 違った意味では大変なことになってる、ドキドキ鳴り響く心臓を必死で押さえ付けて、朔夜にやっと否定の言葉を告げれた。 するとズルズルと力をなくした朔夜が、俺の膝を枕にして項垂れた。 ちょっ、マジで心臓壊れそうなんだけどっ!! 「よ、かったぁ……。私、本当にどうして良いか分からなくって、もし、もし翔くんがって……」 ああ、そんなことまで考えちまってたのか。怖かっただろうな。 俺も昔はしょっちゅう思ってた。痛みが激しくなるたんびに、もしかしたらこのまま……って。 「ごめんな、心配させちまって。心臓はさ、ホント、もう全然平気なんだよ。 朔夜だって俺がどんだけ元気に動いてっか知ってんだろ? でも……ありがとな」 びっくりさせちまった詫びにはなんねーだろうけど、膝に乗った朔夜髪を優しく撫でてやる。 ごめん、ありがと。繰り返しその言葉と共にゆっくりと。 俺、朔夜の誕生日祝いに来たのに、こいつ心配させるなんて何やってんだろ。 そうは思うものの、違うって分かっただけでここまで力が抜けるほど心配されて、嬉しく思っちまう俺もいるんだ。 落ち着いてきたのか、もう一度良かったと告げて微笑む朔夜に好きだっていう気持ちが込み上げる。 本当に、いつの間にこんなに好きになっちまってたんだろうな。 「走ってきたって、何かあったんですか? あれ、そう言えば翔くん、今日はお仕事忙しかったはずじゃ」 「今日、お前の誕生日じゃん? 前の仕事がバラシになったからさ、おめでとって伝えに来たんだけど、俺、部屋にプレゼント置きっぱなしにしてきちまった」 「これからまたお仕事でしょう? 忙しいのにわざわざその為だけに来てくれたってだけで充分ですよ」 いつもとは違う目線。下から見上げてくる朔夜がすげー新鮮で、ついつい見いっちまう。 だから朔夜の目の端がほんの少し濡れてるのに気付いた。 もー、マジでごめん。 朔夜の頭の後ろに手を回し、胸に密着させる。 「せっかくのお前の誕生日だって言うのに、心配かけて悪かったな。 俺の心臓はこんなに元気だし、これからだってそうだ」 「うん、そうだね。いつもの翔くんみたいに心臓の音もすっごくうるさいよ」 「うるさいって、お前なぁ……」 「冗談ですよっ」 「ったく、俺様がせっかく格好良くキメようとしてんのに。 ――――ま、いっか。朔夜、誕生日おめでと。これからもよろしくなっ」 「ありがとうございます。こちらこそっ」 なんか予定とは大分違ったけど、今日中に直接言えて良かった。 明日、改めてプレゼントを持ってくるって誓って、俺は朔夜の部屋を後にして次の仕事に向かう。 なんかとんでもない展開だったけど、あんだけ心配されて、朔夜には悪い気がするけどやっぱり嬉しかった。 それとなんか今日、つくづく思ったんだけど……あいつより身長高くなりてぇ!! 見上げるあいつと見下ろす俺、やっぱこうじゃなきゃな……。 |