ピンポーン 来客を告げるチャイムが鳴り響く中、朔夜はすやすやと熟睡していた。 帰ってきたのは時計の針が天辺を越え、三、四回ほど回った頃だっただろうか。 それからゆっくりとお風呂に入って一日の疲れを癒し、ぽかぽかとしたままそのまま髪も乾かさずにベッドへ直行。 入浴中からすでに朔夜を睡魔が襲っていたから、そこから眠りにつくのはあっという間だった。 本来なら翌日の仕事に備え(翌日というより当日なのだが)、入浴を終えた後も台本のチェックやなんかをして朝を迎えることの方が多いのだが、この日は何もせずそのまま睡眠を取ることにした。 疲れすぎて限界だからという理由ではなく、ただ単に明日がオフだからだ。 そしてインターホンの鳴っている現在は八時。 学生時代や前日の仕事終わりが早かった時、そして仕事を控えている日なら確実に起きている時間ではあるが、何の憂慮もないこの日は、朔夜も安心しきっていて多少のことでは目を覚まさない。 基本的には寝起きがいい。 忙しすぎる時はメンバーの誰かが一緒の時だけは楽屋で仮眠を取ることもある朔夜だが(メンバーにとってはある意味拷問に近いものがあるらしい)、出番が近くなって熟睡している彼女を起こそうとした時の小さな物音や、彼らが動くの気配で起きることがある。 目覚ましに設定してる、オーディオ機器の電源が入る音だけで起きることもあるくらいだ。 そんな朔夜だが、この日は全く目覚める気配がない。 しかしそこはタレントばかりが入る社員寮。寝坊した時や不測の事態に備えるために、合鍵を持っている者が存在する。 彼女の場合はST☆RISHメンバーと春歌がそれだ。 通常なら男性に鍵を渡すことなどないのだろうが、ずっと男装して生活してきた朔夜にはその辺の躊躇は特にない。 彼らは自分の本当の性別を知っているのだから、今更見られて困るものはない、とそのくらいの認識しかないのだ。 逆に男性陣の方がそれに戸惑ってしまうくらいで、それでもあえて返そうとしないところが彼ららしい。 == 8:00 am == せっかくの朔夜の誕生日なのになんで俺、仕事なんだろ! 本当ならさ、ケーキとか買ってお祝いしたかったのに。 これが俺だけとかだったら絶対落ち込んでたかもしれないけど、トキヤたちも仕事だって言ってたから内心ホッとした。 俺がいない間にみんなが……なんて、そんなの耐えらんないじゃん? 仕事は朝からだったからその前に顔を見れたら、なんて思って朔夜の部屋を訪ねたんだけど反応なし。 「あれー? 今日休みだよね? 仕事……じゃなかったはずだけど」 朔夜はたいていこの時間には起きてると思ったんだけど……。 二回、三回インターホンを鳴らしてもドアが開かなくって、なんだか心配になってきちゃった。 最近俺たちみんな忙しいし、中で倒れてたりしないよね? うーん、鍵使って入っちゃお。 「朔夜〜?」 玄関開けても物音ひとつしてなくって、もしかして出掛けちゃったりしたのかな? なんて思ったけど、そう言えば昨日って帰ってくるの遅かったんだっけ。 メールが入ってた時間が明け方だったから、 「もしかして、まだ寝てるとか」 朔夜が出掛けていないとして、こうして部屋に上がっても無反応だなんて考えられないもんね。 シャワーだったり……は、しないよな。水音しないし。 もしそうなら、時間が許す限り待ってみよっと。 造りは俺の部屋とかと一緒だし寝室って上だよね。さすがにそこまでは入ったことないからさ。 ノックをしてみるも反応なし。ここまで静かだと、やっぱり倒れてるんじゃないかって心臓がドクドク痛んできた。 違う違う、ただ寝てるだけだって! 嫌な考えを追い払うために、ふるふるっと頭を振ってからゆっくりドアを開けてみた。 「良かった、やっぱり寝てるだけ。でも……珍しいな……」 入り口からでも分かる、薄く盛り上がった布団を見て力が抜けちゃったよ。 なるべく物音を立てないようにベッドまで移動すれば、カーテンから漏れる日差しをものともせず、すやすやと眠り続ける朔夜がいた。 窓の方向いちゃってるけど、眩しさとか感じてないくらいほんとぐっすり。 「俺とは大違いに寝相いいよなぁ」 思わずじっくり観察しちゃったけど、こんなところ他のメンバーに見られたら袋叩きに遭いそう。 でもこんな朔夜そうそう見れないから、もったいなくって目が離せないや。 「……んっ」 「朔夜?」 「…………すぅ……」 寝返りをうって、こっちに顔を向けた彼女の名を呼んでみたけど起きる気配が全然ない。 「疲れてるんだねー。……可愛い」 ここまで無防備な寝顔は本当になかなか見れない。 普段はさ、綺麗だなって思うことの方が多いんだけど、眠ってる朔夜は意外にあどけなくって可愛い。すっごく。 髪の毛とかピンピン跳ねちゃってるんだよ。 いつまでも見てたいし、本当は顔を見て直接言いたかったんだけど。 プレゼントはここにおいておけば気付くかな? 中にメッセージカード入れたし、誰からか分かんないってことにはなんないだろうし。 「Happy Birthday 朔夜……」 最後にもう一度寝顔を見て、起こさないように小さな声でそう言ったらさ……、ふわって笑ってくれてっ。 もう、チョーかわいいんだけどっ。何これっ、俺、仕事行きたくない! ここで朔夜が起きるまで待ってたいって思ったんだけど、これって普通だよね? ちゅっ 感情が抑えられなくて、その額にキスをしちゃった。 俺からのもう一個のプレゼントってことで、受け取ってよね朔夜。 可愛い君が悪いんだ。 |