長編設定SS

□恋の pole position を狙え!
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「ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」


授業が終わってすぐ、突然翔が言い出したのをきっかけに、朔夜もレンも同意し、一人渋るトキヤを強引に引き連れ、彼らはゲームセンターへとやって来ていた。

学園に入学してからというもの、日々レッスンに明け暮れなかなか学園敷地外にまで行って遊ぶことは少なく、行ったとしても近場ににある早乙女キングダムやお互いの部屋か。

それでも十分に遊んでいることには変わりないのだが、基本アクティブな翔にはそれでは足りなかったらしい。

ゲームの筐体が並んでいる一角に三人はいて、翔はそこで格闘ゲームに勤しんでいた。

最近音也から新しいのが入ったと聞き、行きたいけれど一人で行くのもつまらないから、というのが今回三人が誘われた理由だったらしい。

トキヤにしてみれば朔夜とレンが行くというなら自分は行かなくても良かったのでは、と考えてみたものの、やはり朔夜と彼らだけにしておくのはなんとなく不愉快な気がしたので、興味はなかったが着いて来たのである。


「久々だなー、昔は音ゲーとかよくやったんですけど」

「オレはレディ達にせがまれて最近も来たな」

「……うるさいだけじゃないですか…」


熱中してる翔の後ろで、自分達は特に何をするでもなく画面を見つめていた。

コンピューター相手に奮闘を続ける翔の眼差しは真剣そのもので、格闘ゲームはやったことのない朔夜など、手元を覗き込んでも、どうやって技を出しているのかさっぱりわからないほど慣れた手つきだ。


「あのー、早乙女学園の方達ですよね?」


不意に声を掛けられる。店内がいろんな音で雑音を放っているので、声を掛けるというよりもはや叫んでいるに等しいが。

振り向くと、数人の女子高生達がいつの間にか後ろに立っていた。どうやらその中の一人に話しかけられたらしい。
彼女達はまるで芸能人でも見るかのように顔を赤くし、声を掛けてきた子以外は恥ずかしそうにこちらをちらちらと見ている。


「やあ。どうしたのかなレディ達」


こういう場面に一番慣れていそうなレンが、この場を買って出る、というよりももはや習性だろう。


「あの、良かったら私達と一緒に遊びませんか?」


難関といわれるアイドル養成学校早乙女学園。その名を知らないものはこの辺りにはいないだろう。

そして今ここにいるのはその中でも特に優秀と言われるSクラスの者で、アイドル志望者ばかりだ。
その容姿は店に入ってきた時から周りの目を惹き、女の子達の視線は釘付けとなっていた。

普段からそういう目に慣れているレンはもちろん気付いていたが、今日は仲間と、というより朔夜と遊びに来ていたので気付かないフリを、トキヤはレンの理由と同様ではあるが、もちろん興味もないので完全に視界からシャットアウトしていた。

そんな中話しかけてくるとは随分と勇気ある行動だ。自他共に認めるフェミニストとしては失礼のないように断りを入れる。


「こんなに素敵な子羊ちゃん達に誘われるなんて光栄だな。
だけど、ごめんよレディ達。今日は友人同士で遊びに来ててこの後も予定があるんだ。
ああ、これがオレ一人ならキミ達の誘いに乗らないなんてこと絶対にしないんだけど……残念だな」


女性の扱いについては徹底的に仕込まれた、と本人にも聞いたことがあるため、レンに任せておけば気分を害することもなくこの場を去って行ってくれるだろう。

朔夜はそう考え、その場をただ申し訳ない表情だけを浮かべて見ていることにした。

自分一人の時も稀にだがこうやって声を掛けられることがあるので、上手く断るにはどうすればいいのか勉強のチャンスでもあったから。(その中にもちろん男から声を掛けられることもあるのだが、今の朔夜にはそこまで思い当たってはいないようだ)

案の定、レンの甘い断りに残念そうな顔をしつつも諦めてくれた。

去り際に彼女達はせめて握手だけでもと言うのに対して(すでにアイドル扱いである)、レンがそれに応えると朔夜もそれに習って微笑みながら彼女達の手を取ってやる。

トキヤは…意識がレンに集中しているのをいいことに一旦姿を眩ましたようだ。

何せ人気アイドルHAYATOと同じ顔をしているのだから、下手に騒がれでもしたら大騒動になる。
似ている、と言われそれを訂正するのも面倒くさい。

朔夜も静かに動いたトキヤに気付きはしたものの、それを感じ取ってあえて引き止めはしなかった。


「だー! なんだこいつ、つえー!!」


一人だけこの遣り取りにまったく気付いていなかった翔が、ガチャガチャと激しく操作しながら唸り声を上げる。

どうやら途中で対戦相手が乱入してきたらしい。
二ラウンド先取で勝敗が決まるのだが、すでに一勝され、二戦目も体力ゲージが半分まで減っていた。


「翔くん、負けちゃいそうですね」

「これは巻き返せそうもないね」


レンの予想通り、健闘しつつも倒すことは出来ず負けてしまった。初めて遊ぶゲームといえど格闘ものは基本的にその操作性にあまり違いはない。

なのでそこそこ自信のあった翔は、ここまで自分をこてんぱんに叩きのめした人物に興味が湧いたらしく、自分が座っていた反対側へと周り込み、その相手を確認しに行った。


「アッキーは、何かやりたいものはないのかい?」

「そうですねぇ、それじゃクレーンゲームでも周ってみます。何かおもしろいのあるかな」


翔の行動を見ているだけではおもしろくないと、レンと朔夜は別行動をとることにし、朔夜の希望したコーナーへと足を向けたところにトキヤが戻ってきて合流した。


「おかえりなさい、トキヤくん」

「わざわざ逃げることもないだろうに、レディ達に失礼だろう」

「興味ありませんので」


そっけなく答えるトキヤを見て、やれやれと朔夜に目配せを送る。それに笑って答え、三人は音の溢れるそこより少し静かなプライズコーナーへと移動した。


「ああ、僕のピヨちゃん……」

「それでは駄目だと何度言ったらわかるんだ、四ノ宮。お前は大雑把過ぎる。
もっと正確な位置を把握し、このアームとかいうものが景品に入る角度を計算してだな………」


そこで聞き覚えのある声が聞こえてきた。まさかと思いながらも確認してみれば、間違うことなど出来そうもない特徴ある二人の姿。

大好きなピヨちゃんのぬいぐるみを取ろうと頑張っている那月と、それを見てアドバイス(と言えるのかどうかは疑問だが)を述べている真斗がいた。


「那月くんと真斗くんだ。わぁ、すごい偶然ですね」


思わぬところで彼らを見かけた朔夜は嬉しくなり、トキヤ達が止める間もなくそちらへ近付いていった。

二人きりではないとは言え、せっかくの朔夜とのデート(心の中では)なのに、これ以上邪魔者が増えるなどとんでもない。
だがすでに時遅しである。向こうはまだ知らないとはいえ朔夜は彼らに気付いてしまったし、今更止めるわけにもいかない。


「どうです、取れましたか?」


わざと気配を覚らせないように近付き話しかけた朔夜に、当然のことながらゲームに集中していた二人は驚いた。

だがその声の主が朔夜だと気付くと一様に表情を和らげ歓迎する。


「サクちゃん! こんなところで逢うなんてこれは運命ですねっ」

「一人で来たのか? なら俺達と一緒に……」

「悪いが先約があるんだよ。それにしても男同士でゲームセンターだなんて虚しいねぇ」


真斗が朔夜を誘おうとした瞬間、レンがすかさずそれを遮って連れは自分達なのだと主張する。

当然のことながら朔夜しか目に入ってなかった真斗は、眉根を寄せて不機嫌を露にする。
レンのからかいに少しばかりムッとしたのだ。

まるで自分達は違う、とでも言いたげであるが本来は違えども周りからすれば同じように「男同士」での来店である。
かといって別にそれが決しておかしくない場所なので、とやかく言われる筋合いはない。そう、別に羨ましい……わけではない。


「僕もやってみていいですか?」


再度挑戦するもやっぱり取れない那月に代わり、朔夜がコインを入れ慎重に距離を測ってクレーンを動かす。
だが持ち上がりはしたもののバランスが悪く、途中で落下してしまった。


「惜しかったですねぇ。でも僕より全然上手です」

「四ノ宮は感覚で動かすから悪いのだ」

「でも僕が動かしちゃったせいで、取れ難くなってしましました…ごめんなさい」


朔夜の言うとおりぬいぐるみの向きが変わったせいで、取り難くはなった。

大好きなピヨちゃんと超大好きな朔夜なら比べるまでもなく那月は朔夜を選ぶ。
こうやって一緒に遊べるだけで気分が良いのだが、しかし責任を感じてしゅんと朔夜は落ち込んでしまう。

慌てて慰めようにもぬいぐるみが取れていないこの状況では、朔夜の機嫌を上向かせることは不可能だった。


「サクちゃんが謝ることなんてないんですよ」

「そうだぞ、もともと遊びなのだからそんなに落ち込む必要もない」

「だけど…」


言葉を重ねれば重ねただけ、朔夜はどんどん落ち込んでしまう。







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