長編設定SS

□独禁法! Don't kiss for...
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「みんな、今日はありがとね〜!!! 楽しかったよっ!」

「また、どこかでお逢いしましょう」

「お前ら、サイッコーだったぜ!」

「本当はみなさんをぎゅ〜ってしたいくらいだけど、それは出来ないからサクちゃん、はいっ、ぎゅ〜」


アンコールが終わり、最後の最後。彼らは抑えきれない興奮を心のままにファン達に向けて叫ぶ。

今宵はST☆RISHの全国ツアーの最終日で、鳴り止まない拍手とアンコールの声に応え最後の曲を歌い終えたのだが、それでも彼らを望む声が鎮まることはない。
これでしばらくは大きなライブは開催されないため、名残惜しい気持ちを感じるのは彼らとしても同じだった。

メンバーの名前を呼ぶ声が広い会場内に響き渡り、一旦は舞台袖に引っ込んだのだが、三度ステージへと戻りファンの歓声に言葉を返したり、手を振ったりしている。

最近では朔夜と絡むとその歓声が一段と高くなることを受けて、事務所側からも公認でステージ上でベタベタ出来ることとなり(朔夜の知らないところで)、那月のようにぎゅっと抱きついてきたり(これはデフォルトだ)、額や頬にキスをしたりという接触が多くなった。

そんなことなど何も知らない朔夜は、ファンの子達が怒るのではないか、何か勘繰られるのではないかとヒヤヒヤものなのだが、ファンからの反応はかなり良い。


「皆の声に常に応えれるよう、精進せねばな。次に逢うまでにはこの聖川真斗、更なる進化を遂げることを約束しよう」

「オレの可愛い子羊ちゃん達にしばらく逢えないのは残念だけど、今度はテレビの中からオレの愛を届けるよ」

「みなさん、本当にありがとうございます! 次にまた逢える日を楽しみにしてますね?」


いつまでもここにいたいがそういうわけにもいかない。
ステージの中央に集まって最後に全員でファンの子達に向けて手を振りお辞儀をする。

直後顔を見合わせた六人が、示し合わせたように丁度真ん中にいた朔夜を両サイドから担ぎ上げると、会場内にキャーッという悲鳴が今までにない大きさで響いた。そしてそのまま彼らはステージを去っていったのだった。










「ちょっとみんなっ、何ですかこれっ!」

「あはは、びっくりした?」

「二回目袖に入った時にさ、ラストはこうしようって決めてたんだよ」

「僕は聞いてませんよっ」


そのままの状態で挨拶をしながらスタッフがいる通路を抜け、楽屋の前まで来たところでやっと降ろされた朔夜がみんなに喰ってかかる。

実際に怒っているわけではないからそれぞれの反応も軽いものだ。


「最後だったし、どうせならレディ達に喜んで欲しいじゃないか」

「あれで喜ぶんですか? 僕、荷物扱いだったじゃないですか」

「今もここまで声が聞こえているだろう。それが何よりの証拠ではないか」

「こういうものはその場のノリですよ」


事務所から恋愛禁止令を出されている彼らにとって、人前で朔夜と触れ合える機会を逃すはずがない。
その想いを口に出すことが出来ないなら少しでも彼女の近くに。六人の共通の想いだ。

実際に口に出してはみたものの、本人にはそうとは受け取ってもらえてない、というのが本当のところなのだが。
朔夜の鈍さがあるからこそ、事務所からステージ上での過剰接触を許され、胸に抱いている想いも見逃してもらっているとも言える。

一方朔夜にしてみれば、なんだか急にステージ上で構われ始めたため初めは驚きを隠せなかったのだが、それも数をこなしていくうちにすっかりと慣れてしまった。

今ではなんだか那月が六人いるような気がしなくもなくなっている。それほどまでにスキンシップが増えた。


「みなさん、今日もすっごくカッコよかったです!!」


楽屋前で待ち構えていた春歌にそれぞれ言葉は違うが、彼女の曲も最高だった、と賛辞の声を投げかける。
彼女がいなければ彼らはこうして歌うことが出来なかったのだ。

卒業して随分経つが未だに彼女以上に自分達を理解し、自分達に合う最高の曲を作り上げることの出来る作曲家はいないと思っている。
これからもきっとそうだろう。

春歌を交え部屋に入り、それぞれメイクを落としたり衣装を着替えたりしていると、コンコンっと軽いノックが聞こえカチャリとドアが開いた。


「お前ら、相変わらずだな」

「日向さん!」

「はぁ〜いっ! アタシもいるわよぉ〜」


八人の恩師である現役アイドル、日向龍也と月宮林檎が楽屋を訪れてきてくれた。

まだ駆け出しの頃は心配してよく顔を出してくれていたのだが、ST☆RISHの人気が軌道に乗ると同時に、彼らも負けてはいられないと仕事に励んでいたため、ここ最近では事務所や仕事場でたまに見かける程度になっていた。


「わぁ、林檎せんせぇも見に来てくれてたんですかぁ? 嬉しいです!」

「ふふ、なっちゃんったらまだ先生なのね。アタシ達は今はライバルよっ、ラ・イ・バ・ル☆」

「はい、でもせんせぇは僕にとってはいつまでもせんせぇですから」

「いやぁ〜ん、もう可愛いわねっ。ぎゅ〜してあげちゃうっ」


そこだけ何故か学生気分、女子高生なノリでほんわかムードを醸し出す。
林檎からしてみれば自分が教えた生徒達が立派になっても、まだ自分を慕ってくれているというのは嬉しくて仕方ない。


「リューヤさんも、忙しいのに来てくれたんだね。どうだった、オレ達のステージは?

もうすぐ追い越してしまいそうだと思わないかい」

「ばーか、100年早ぇーんだよっ! 俺を抜きたきゃ事務所の雑務も一緒にこなしてみろ」

「そいつはゴメンだね」


龍也は最近歌手としての活動を再開したため、今まで以上に忙しい生活を送っていた。

事務の細かい経理や取締役としての仕事に学園の教師、俳優業に歌手業と、どれもこれも片手間でこなせるものではないが、どれも充実したものとなっている(できれば雑務は優秀な事務員がいればありがたいと思っている)。

それもこれもこの目の前にいる元教え子達に触発されたから、とは口が裂けても言えないが、彼らの成長を見るにつれ、自分ももう一度歌ってみたいと思ったのだ。


「それより今日は最後なんだし、打ち上げあるんだろ? それにも参加させてもらおうと思ってな」

「久々だし、みんなとゆ〜っくり話したいと思ってスケジュール調整してきちゃった」


龍也と林檎はこの日の為に前倒しに仕事を終わらせ、今日を思う存分楽しむために明日もオフにしているのだ。
彼らと語り合うことを楽しみにしていたのは事実だが、久々に休みがとれてハメを外したいというのが本音なのかもしれない。

そうだとしても自分達のライブを見に来てくれ、その上打ち上げまで参加してくれる元教師達にST☆RISHメンバーと春歌は喜びを隠せない。

そのため自分達がここにいては着替えもままならないだろうと、打ち上げ会場となっている店に先に行っていると告げて、龍也と林檎は楽屋を後にした。










「トキヤが音頭取ってよ〜」

「何故私が……」


かなり広めの店を貸し切ったはずなのだが、スタッフを始め、各方面でお世話になったり親しくなった人達も結構な数が参加してくれたため、いささか手狭になってしまった神宮寺系列のイタリアンレストランで打ち上げは始まった。

乾杯の音頭を誰が取るのかという話で、音也がトキヤの名を挙げ、周りからやれやれと囃し立てられれば、ここでゴネて先延ばししすぎても場がしらけるだけだと、渋々ながらもトキヤがグラスを手に参加者の中央に進み出る。


「今日まで一緒にライブのために働いてくださったスタッフのみなさん、それから、色々と支えてくださった関係者ならびに先輩方。
皆様の協力があって今回のライブ、無事に終えることができました。心から感謝いたします。
今後もまたお世話になると思いますが、今回のライブは大成功という形で本日で終了となります。
本当にみなさん、お疲れ様でした。
そしてこれからもよろしくお願いします。それでは、乾杯!」

「「「かんぱーいっ!」」」


一口だけ口をつけてから、トキヤはすぐさま自分の席に戻る。しかしすでにその場は人が入り乱れ、席などあってない状態。
イスは用意されていたはずだが、ほぼ立食パーティのような形になっている。


「トキヤくん、こっちこっち」


呼ばれて振り向くと朔夜と翔が隣り合って座っており、周りから話しかけながらも食事を取っていた。
そこに空いているイスを見つけたので、トキヤも移動する。


「さすがに騒がしいですね」

「しょうがないですよ、打ち上げですし。みなさん楽しそうだから見てて嬉しいです」

「っつかさ、俺もだけど主役だろ、お前。何他人事みたいに語ってんだよ」


未だ興奮が冷めやらない朔夜は、いつにもまして機嫌がいい。

今回の全国ツアーライブは今までで最多ヶ所回ったのだが、そのどれもが大きなトラブルもなく終えることが出来たので、後味さえも最高に気持ちが良かった。

やはりみんな歌が一番好きなので、ライブともなると気合いの入り方も違うのだ。
こうやってたくさんの人が支えてくれたからこそ、成し遂げれたんだと実感出来るこの雰囲気が、何より朔夜を嬉しくさせているのかもしれない。


「あ、翔くんこれは?」

「お、いるいる! ライブ中からホント腹減っててさー」

「満腹感を得ると、同時に満足感も得てしまいますからね」


長い時は三時間、ステージ上で歌って踊るのだ。
エネルギーの消耗も半端ではないのだが、腹一杯で臨むと動きが悪くなる可能性もあるので、一同はライブ前の食事は最低限だけ摂るようにしている。

その中でも元気の良さにエネルギーが消耗されているのではないかという翔は、ライブが終わると凄い量を摂取する。
朔夜などはそれを見ているだけで満腹感を得られるほどだ。







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