長編設定SS

□嵐の前のHigh Tension
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作曲コースの生徒とは違い、アイドルコースの生徒は基本的に自クラスで授業を受けることは少ない。
それは演技指導やダンスレッスンなど身体を動かすことが多いためでもある。


「翔くん、次どこでしたっけ?」

「たしか第三じゃなかったっけな」

「あー、そんな気がしてきました。あそこは遠いから今から移動しないと間に合いませんね」

「なんだかご機嫌だね、アッキー」


この後の演技の授業のため朔夜を含む四人は、前の授業が終わると同時に移動を開始しようとしていた。

朔夜の言うとおり、次に使う教室は自分達のクラスからはそこそこ離れており、なおかつ着替えもしないといけないのでこうしてすぐに移動しなければ間に合わないのだ。
演技レッスンは台詞合わせだけでなく、もちろん身体を使っての表現になるので、制服のままでは動きにくい上に汗を掻いた時にあとあと辛い。

ただ、着替えは必須ではないのでそのまま制服で授業を受ける生徒もいる。


「何かいいことでもありましたか?」


今日は朝から朔夜の調子がよく見える、と三人は思っていた。いつもよりテンションが高くよく笑う。
それが周りの生徒をも魅了してたりするのは本人の意識するところではない。


「何にもないですけど、どうしてですか?」

「いや、明らかにテンション違ぇだろー。なんつーの? こうフワフワしてるっつーか」


トキヤのように冷静沈着というわけではないが、朔夜は落ち着いていて周りを和ます雰囲気を持っている。
それがなんだか今日は、笑えば花が飛びそうだし、歩き方も今にもスキップでもし始めそうな、そんな浮かれた感じがしていた。

だから三人は何かいいことでもあったのでは、と思ったのだがどうやら違うらしい。むしろ、本人に自覚がない。


「フワフワ? あー、しいて言えば身体がいつもより軽い感じがしますね。すごくいい感じです!」

「ああ、その感じ俺わかる! そういう時は演技も歌もノッてくるから楽しいよなっ」

「ですですっ」


受け答えひとつにしても翔の言うように気分がノッているからなのか、いつもより軽い調子で、にこにこ笑顔が絶えない。

入学してから今までこんな朔夜を見たことがないから少し戸惑ってしまうが、見ているこちらまで幸せな気分になるような表情、という意味では普段の朔夜と変わりなかった。


「なんだか怪しいな。もしかしてアッキー、好きなレディでも出来たんじゃないかい?」

「恋愛は禁止ですよ〜」

「知ってるさ。でも片想いなら許されてるだろう? だから、人を好きになる幸せでも噛み締めてるんじゃないかと思ってね」

「うーん、それはないですねっ」


その言葉にホッとしてしまった三人は内心首を傾げる。何故、自分は朔夜に好きな人がいないと聞いて安堵しているのかと。
それも深く考える前に、朔夜がタタタっと走り出したことに意識を持っていかれたため、すぐに思考の闇に消えていった。


「朔夜、廊下を走るのは……」

「僕、先に行きますね〜」


トキヤが言い終わる前に手を振って行ってしまい、残された三人は呆然とそれを見送るしかなかった。


「なぁ、やっぱり変じゃねぇ? 朔夜」

「何か隠し事でもあるのかもね」

「そういう不自然さはまるで感じませんでしたけれど。少し変ではありますが、別にいつも通り……」


言いかけて止まる。トキヤの脳裏を何かが違和感として駆け抜けた。


「トキヤ?」

「イッチー、何か気付いたのかい?」

「いえ、なんでもありません」


気付いたとも言えない極小さな違和感。それをなんと表していいのか、そしてそれが一体なんなのかトキヤ自身は説明することが出来ないため、レンや翔に問われても答えることが出来ない。


(なんだかわかりませんが気になりますね。少し注意して見てみますか)







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