「一緒に買い物に行きませんか?」 空が良く晴れた気持ちのいい日。今日は仕事は何もない、久々のオフだ。 最近は雑誌の取材や歌番組、小規模ライブなどで何かと忙しかった。 それはもちろんST☆RISHの他のメンバーも一緒で、個人にくる仕事の依頼の差はあれど、同じように忙しい日が続きプライベートな時間を共に過ごすことも減っていた。 学園を卒業して七人でデビューを果たしてからもう結構経つけど、私達は相変わらずだ。 普通なら仕事もプライベートも一緒だと嫌になってくるのかもしれないけど、学園時代もそれは同じようなものだったから今更嫌になんてなることはない。 ああ、でも七人じゃないや、もう一人。私達の専属作曲家、春歌ちゃんを忘れちゃいけない。 彼女がいなければ私達が七人で活動することなんてなかっただろうし、私が息を抜いて話せる唯一の女の子の友達なんだから。 で、まぁ天気がいいし気分もいいので、久々に曲でも作ろうかなんて結局オフでも頭から音楽から離れられないんだな、と思ったところで玄関のチャイムが鳴った。 開けて出てみればそこにいたのはトキヤくん。彼もかなり仕事が入ってて、ライブの時以外は姿を見かけてない気がする。 なんだか久々に顔を見れて嬉しくなった。 「久しぶりだね、トキヤくん。どうかしました?」 その問いの答えが冒頭の言葉。どうやら彼もオフだったらしく、本屋巡りをしに行かないかと誘いに来てくれたんだそうな。 そういえば欲しかった本も買いに行けてなかったなと思いだし、二つ返事で誘いに乗った。 出掛ける準備などまったくしてないからとりあえず中に入って待っててもらう。そして着替えに行こうとして不意に思った。 「トキヤくん」 「なんですか?」 「私、変装した方がいいんですかね?」 デビューしてから一人で外に出掛ける時は、ウィッグをつけ林檎さんにもらった可愛らしい服を着て女の子として街を歩くようにしてる。 人気が出るのはありがたいことだけど、気軽に外に行けなくなってしまうのが難点。だからこその変装というか、この場合はなんだろ、素? 基本的に普段の格好も男の子っぽいだぼっとした服を着てるからやっぱり変装になるのかな。 でも今日はトキヤくんも一緒で、彼もすごい人気者なわけで。 彼自身もちょっとした変装というか、帽子を被ったりして人目をごまかしはするんだろうけど、もしバレた時に隣に女の子がいたらスキャンダルにもなりかねない。 だからこそトキヤくんに確認したんだけど。 「素のままでいいと思いますよ」 え、素ってどっち? 男か女かで言えば性別は女。男の格好か女の格好かで言えば男の格好。うーん、なんだか頭が混乱してきた。 頭上にハテナをいっぱい飛ばして考え込んでいると、トキヤくんが近付いてきてサラリと髪を撫でた。 「何を悩んでるんです? 君の"素"は女性でしょう。だからそういう格好をしてきてください」 「でも、トキヤくん。バレた時に困りませんか?」 少し上にある瞳をのぞいてそう尋ねると、ふっと目を細めて彼は言った。 「大丈夫です。私がそんなヘマをするとでも? それにもしバレたとしても……」 ゆっくりと顔を寄せてきて、髪を撫でつつ耳元で甘く囁いてきた。 「君は私の彼女だってちゃーんと説明してあげますよ」 「っ!!!?」 言っておくが、私達はそんな関係では断じてない。だからからかってるんだってわかってるけれど、そんな声で言われたらいくら私でも顔が赤くなる。 特に最近のトキヤくんはすごく柔らかい表情をするようになった。もとから美人ではあったけど、そのせいでますますかっこよく、綺麗になったんだ。 それになんだか男の色気っていうんだろうか、そんなものまで発揮し始めてるから普通の女の子ならすぐにオチると思う。 あれ、でもテレビとかファンの前ではいつも通りのトキやくんだっけ? 「冗談ですよ。バレたらウィッグを取って顔を見せればいいだけです。朔夜だとわかれば周りは騒ぐかもしれませんが、スキャンダルにはならないでしょう?」 私がそうやって思考をぐるぐるさせてたら、くすりと笑って対処法を述べる。 そんなとこはさすが冷静沈着なトキヤくんって関心させられるけど、問題はそこじゃなく。 「もう、トキヤくん! 今みたいなの絶対女の子には言っちゃダメですよっ。みんな勘違いしてコロッとオチちゃいますからね」 本人はからかってるつもりだろうけど心臓に悪い。 レンくんのファンなら、レンくんはああいう人だからキャーキャー言うだけで済むかもしれないけど、トキヤくんファンは真面目な子が多いから勘違いしちゃったら大変そうだ。 「(朔夜なら勘違いしてくれていいんですけどね)」 「何か言いました?」 「いいえ? 大丈夫ですよ、今みたいなことは朔夜にしか言いませんから」 え、それって……。 からかう対象は私だけで十分ってことですかっ。それはそれでファンの子も安心というか納得がいかないというか。 「さぁ、早く支度をしてください。日が暮れてしまいますよ?」 「あ、はいっ」 背中を押された私は、慣れたとはいえ未だに時間のかかる変装でトキヤくんをあまり待たせないようにと思い、駆け足でベッドルームへ飛び込んだ。 Love me ベイベー (天然さも、たまには憎くなりますね。いい加減気付いて欲しいです。ですが……そこがまた可愛いんですけどね) 1000hit記念SS、長編未来設定微パラレル?で書かせて頂きました。 |