「おーい、朔夜っ。食堂行こうぜー!」 「あ、はい。すぐ行きます」 午前の授業が一段落した昼休み。朔夜は翔に誘われて食堂に向かうこととなった。 学園内の食堂メニューは非常に豊富で、栄養面、カロリー面、アイドルを目指す者達にとって体型を維持するために必要になるそれらを考慮したメニューが置かれている。 もちろん、所謂ジャンクフードと呼ばれるものやダイエット食もある。 「お二人は今日はどうします?」 クラスメイトのトキヤは忙しいらしく、しょっちゅう遅刻や早退、欠席することがある。午前だけ授業を受ける、なんてこともざらにあるので朔夜は移動前に確認を取った。 また、何もも用事がなかったとしても、食堂のような大人数の集まるうるさい環境を好まないトキヤは、誘っても来ない時があり、そんな時はテイクアウトして一緒に中庭で食べることもあるのだ。 「そうですね、今日は予定もないですしご一緒させていただきましょう」 一方レンはといえば休み時間の度に女生徒に囲まれており、お昼休みともなればその女の子達を引き連れて時に食堂、時に屋上と場所を変え彼女達と過ごすことも多い。 大財閥の御曹司ということで一見その舌も高級志向だと思われがちなレンだが、一般的な家庭料理もおいしいと言って食べる。 なので食堂での昼食にも抵抗はないようだ。 「オレも、今日はレディ達との予定はないからそっちに行くよ」 こうして四人は混雑しているであろう食堂へと向かった。 今日は何故だかいつもより人が少ない。広大な食堂に随分と空席が目立つ。 その中でも奥の一角に四人掛けの席が空いてるのを見つけ、翔が席を取りにいく。 このように人が少ないのは稀ではあるが、そういう場合はトキヤを慮りなるべく人込みから離れた静かな場所に座るのが、ここで食事をする時の四人の暗黙の了解になっていた。 トキヤとレンに「お先にどうぞ」と告げ、朔夜も席に向かう。 「ん? お前先に受け取ってこなかったのかよ」 「ええ、翔くん一人でここにいるのは退屈でしょう? なので先にトキヤくんとレンくんに行ってもらっちゃいました」 座席がこんな状態ならカウンターに並んでる生徒も当然いつもより少ない。料理を受け取るのもさほど時間がかからないだろう。 本当なら四人のうち一人だけ席に残り、あとの三人で四人分を注文し受け取った方が時間の節約にもなるのだが、今日ならそんなに時間差なく食事にありつけると踏んで、朔夜は翔と共に二人の帰りを待つことにした。 「お待たせしました」 「おチビちゃんとアッキーも行っておいで」 案の定、少しの間会話を楽しんでいるとトキヤとレンは食事を持って席に来た。 彼らの言葉に「おう!」と答えて翔はカウンターへと早歩きで向かって行く。二人が運んできた料理の匂いに食欲を刺激されたのだろう。 朔夜はそれを見てくすりと笑い、「冷めちゃうので先に食べててくださいね」と二人に声をかけその場を移動した。 やはりいつものような混雑はなく、朔夜がカウンターに着いた時にはすでに翔の注文が済んでおりあとは受け取るだけ。 普段は食事に頓着しない朔夜も、食堂に来るとどれもが美味しそうに見えてついつい悩んでしまう。 かと言ってあまり時間をかけては三人を待たせてしまうので、無難に味が想像出来そうなものを注文する。 (極稀にとんでもない代物がメニューに並んでたりするので、なるべく冒険をしない方が身の為だ) 「っにしても、相変わらずお前の食事ってわかんねーわ」 翔が机に置いた朔夜のメニューを見て首を傾げる。 それというのも朔夜の食べる量が毎回違うからだ。ある時は二人前をぺろりと食べ、またある時はおにぎり一個で十分だと言う。 「食う時はがっつり食うくせに、食わねー時はそんなんで足りんのか!? ってくらいしか食べないもんな」 「少ない時なんかは、オレが知ってるどの子羊ちゃん達よりも食べてないよね」 「食事は身体作りの基本でしょうに。君はバランスが悪すぎます」 「はあ」 口々に言う彼らに朔夜はただそう答えるしかなかった。 食べたい時は食べ、食べたくない時は少しだけ、と朔夜からしてみれば本能に従って食べているにすぎないのだ。 それを変だとは認識している。やめた方がいい、直した方がいいとよく言われもしたが、もうずっとこれなので今更だ。 「しっかも、食べるのも遅いよなー」 「それは良く噛んでるということでしょう? 消化の助けになりますから良いことだと思います」 「でも異様に早い時も稀だけどあるよね? まったくアッキーは不思議なやつだよ」 いつの間にか自分の食に関する話題になっており、朔夜は苦笑いを浮かべるしかなかった。 「一体どういう食生活をしているのか興味がありますね。その食事でどうやってその体型を維持しているんだか…」 「ああそれは、イッチーは気になるだろうね。なんてったってカロリー計算して食事してるくらいだからな」 「レン、余計なことは言わなくていいです」 「でもさ、こいつの場合参考にならねーんじゃね?」 体質は人それぞれだから朔夜の場合はこれが身体に合っているのだろう。だが一般的に考えて、同じ食事法をしたとしても逆に肉がつきそうだ。 トキヤは「ただの純粋な興味です」ともちろん参考にする気もない。 「んー、そうですね。朝はコーヒーのみですかね。気が向いたりよっぽどお腹が空いていたら食べますけど。 お昼は授業がある時は翔くんが誘ってくれますから何かしら食べてます。休みの日は食べないことが多いですけど、これもまちまちですね。 夜だけはしっかり食べますよ。まぁ、炭水化物を取らないことはありますが。 あ、外食すると普段より良く食べます。残すの悪いしもったいないって思っちゃうので無理してでも食べちゃうんですよね」 「……なんですかその食生活は」 聞いたトキヤは唖然とする。 食事とは……その時の気分で摂るものだったろうか。 「翔くんはよく食べますよね、見てて気持ちいいくらいに。僕、食べると疲れるからあんまり食べないのかもしれません」 「疲れる? おもしろいことを言うね」 「はい。美味しいものを食べるのは嫌いじゃありませんしむしろ大好きなんですけど、食べてるうちに疲れちゃうんです」 言われてみれば、朔夜は少量の時は見たことないが一般的な量を食べている時はやたらと溜息をついていた。 それが疲れからくるものだとは、想像だにしなかったが。 「味に飽きてくるってのもあるんでしょうけど。食べてると適度な運動をした時のように身体がだるく感じるんです」 「もしかして、食べるとすぐ身体が熱くなったりしますか?」 トキヤの問いかけに朔夜は「ええ」と頷く。 「新陳代謝がいいんでしょうかね。なんか摂ったそばからエネルギー変換されてるみたいな感じになりますよ」 カロリーなど気にしなくても体型を維持してる朔夜の秘密がなんとなく理解出来たトキヤだった。 「かーーっ! つか、そんなんでちゃんとバランスよく栄養とってる俺様より背が高いっつーのがむかつく!!」 「おチビちゃんはあれだよね、食べた栄養全部その元気の良さに使っちゃってるんじゃないのかい」 「んなことあってたまるかっ!!」 いつものようにからかうレンとそれにむきになる翔。 いつでも全力の翔を見ているとありえはしないとわかっていつつも、レンの言ってることもあながち間違いではないのではと思ってしまう。 「お二人はかなり背が高いですよね。成長期っていつ頃でした?」 「あっ、それ俺も気になる!!!」 ふと疑問に思ったことを問うてみると、いち早くそれに翔が反応し興味津々の顔つきで二人を見た。 翔にとって切実な問題である背丈。長身な二人の話す内容の何処かに、背を伸ばすヒントがあるかもしれないと思えたのかもしれない。 「オレは中学の時だったかな。この頃急激に伸び始めてね。あまりの関節の痛さに夜寝れないこともしょっちゅうだったし、 朝、ベッドから起き上がれないこともあったな。骨がミシミシいうのが自分でわかるんだよ」 「私も中学生ぐらいでしたかね。レンほど酷くはありませんが多少の痛みはあったと思います」 それを聞いた直後に「ちゅう…がく……」とか細い声で呟き、がっくりと肩を落とした翔をどうやって慰めようか思案したあげく、「翔くんは翔くんだから大丈夫です!」と意味不明な言葉で元気付けようとしている朔夜がいた。 終わる! 三人ともお知り合いになったのでSS書いてみたけど、なんかオチがないです。意味も不明。 時間枠としては、朔夜ちゃんが躊躇いもなく彼らの名前を呼べるくらい仲良くなった頃。(いつだ…) 彼女の食生活は咲太の生活を基にしています。規則正しい食事が出来ません。 レンの成長痛に関しては身内の実体験。本当に起き上がれないらしいですよ…。 |