「なぁ、アッキー」 「何ですか、神宮寺くん」 なんだか今日はやたらと神宮寺くんが私に構ってくる。初めて会った時からそうだったけど、さりげないボディタッチも多い。 いつもならそれには違和感なんて感じないけど、今日は何かがおかしい。 「そろそろその苗字呼びと敬語、直してもらいたいんだけどな」 パチリとウインクひとつ。 そんな様は限りなく絵になるし、きっと彼のとりまきにしてあげたら黄色い歓声があがるんだろう。 だけと対象は私一人で、それに私はあくまで男(のふりしてるだけだけど)だから! そっと頬に手を添えられ優しく撫でられるそれは、よく彼が言う「子羊ちゃん」達にしてあげる動作で。 「ね、お願いだよ」 不意に顔を近付けられたと思ったら耳元で甘い声。 ぞくりと身体が震えた。 「っ、神宮寺くん!?」 慌てて身体を離して耳を押さえる。み、耳に息の感触がっ!! くすぐったかったのかなんなのか、いつまでも残るそれを消そうと押さえたままぐりぐりと擦った。 「どうしたんだい、アッキー? そんなに頬を染めちゃって」 女の子なら蕩けてしまいそうな微笑を浮かべて、私が開けた距離を縮めてくる。 次に何をされるのかまったく予想がつかない。というより、神宮寺くんが何をしたいのかわからない! 妙な雰囲気を醸し出す神宮寺くんに私はじりじりと後ずさりをするが、追いかけるように優雅な足取りで彼も歩み寄ってくる。 「ど、どうしたんですか神宮寺くんっ」 「ん? 何がだい?」 逃げ一方の私はついには壁際に追いやられる。と同時に両サイドに置かれる彼の手。…逃げ場を奪われた!! 「さぁ、キミの口から聞かせてくれないか。オレの名前を…」 そう言うとゆっくりと顔を近付けてくる。 名前を呼ぶことを要求しているのは理解したが、この状況が理解出来ない。 そのことで混乱していた頭は、ただ一言名前で呼べばこの状況を打開出来るかもしれないなんて考えなどこれっぽっちも浮かばず、 またさっきのように耳元で囁かれたらたまったもんじゃないと、私は両手で耳を隠すのを優先した。 神宮寺くんが…、くすりと笑った。 ちゅっ 「!!!????」 耳を覆い隠した手の甲に温かく、柔らかな感覚。 それが何かを理解した瞬間、一気に頭に血が上った。 「な、なななななっなにごとですかっ!!?」 慌てふためく私にニコリと笑みを返し、神宮寺くんは室内を振り返った。 「さて、こんなもんで満足かい? 子羊ちゃん達」 「はい! 素晴らしい演技でした!!」 「きゃー、もうサイッコー! さすがレンねっ、すんごいドキドキしちゃった!!」 え、何がですか? ってか私はまだいろんな意味でドキドキ中なんですけどっ。 いや、待て待て私。今女の子が気になる言葉を… 「えん…ぎ……?」 その時の私はきっと間の抜けた顔をしていただろう。 あまりにも衝撃的な出来事。そして思いもよらない彼女達の言葉。 「そ。最近世間ではこういうのが流行ってるんだって? レディ達が話しているのをたまたま聞いたんだけど、オレは男というものは全てのレディを愛するための存在だと思うから、何がそんなに彼女達を惹きつけるのか理解出来なくてね。 そんな彼女達を理解するために、ファンサービスも兼ねて演じてみたんだよ」 「想像以上にハマってたわ! そういうのって実際に見たらきっと引いちゃうと思ってたんだけど、レンと秋くんならアリ!!」 「ほんとっ。秋くんの初々しさがまたいい味出してたしっ」 ―――思考が追いつかない。 ちょっと整理してみよう。 『最近流行ってる』―――何が? 『こういうの』―――どーいうのっ!?? だめだ、脳内パニックで情報処理が追いつかない。 「ごめんねアッキー。何も言わずに巻き込んじゃったことは素直に詫びるよ」 「へ? え、いや。えっと……状況が把握できません…」 「要するに、オレがアッキーに迫ってるっていう設定の演技をレディ達に見せてあげたんだよ。 だけどつい調子にのっちゃってからかいすぎた、怖かっただろ? ごめんよ」 眉を寄せて私を見つめる彼は本気で反省していて、放心している私を落ち着かせるようにゆっくりと頭を撫でてくれた。 「怒ったかい?」 その様はひどく寂しげで、それは今まで見たことのない表情だったものだからそっちの方に気をとられた私は、やっと平常心を取り戻すことが出来、神宮寺くんの行動の理由を理解した。 「女性を理解するための演技」とは、なんとも彼らしい。 けれど男が男に迫るのを見て喜ぶ彼女達のことは、神宮寺くんと同じく理解出来なかったけど。 「怒ってませんよ。ただ、びっくりしただけです。でもそうですね…、もし今度こういうことで彼女達を喜ばせようと思うのなら、事前に教えてください。僕もそれなりに演技してみせますから」 にこりと微笑んで言う私に「二度目を演じるようなことがあれば協力してもらうよ」と、片目を瞑ってみせた。 うん、これが普段の神宮寺くん。さっきまでの妙な色気のあるものじゃなく爽やかなウインクを見て思う。 もしかして私の秘密がバレたのかも、なんて思ったりもしたのだが見当違いだったようでほっと胸を撫で下ろした。 だいぶ神宮寺くんの対応に慣れたと思ったけど、やっぱりまだまだ勉強が必要なようだ。 「そろそろ神宮寺くんを名前で呼ぼうと思ったんですけど」 「本当かいアッキー?」 「でも、まだ当分呼ばないことに決めました」 「え」 なんだかちょっと悔しいから、これぐらい良いよね? (実は、ちょっと本気になりかけた。なんて知ったらキミはオレをどう思う?) 見た目BL、中身はNL。 腐女子な生徒達にサービス精神旺盛のレン。 長編でまだ誰ともいちゃいちゃ出来てないのでこんなの書いてみました…。 テンパりすぎて朔夜ちゃんの脳内思考「素」が出てますw 彼女はそういう知識は持ってないのでなんのことやらあんまり理解してない。ある意味天然(記念物)。 |