「レンっ」 呼ばれた名前に思わず振り向いてしまう。たとえそれが自分じゃないとわかっていても。 「同じ名前ですね、可愛いなぁ」 サクとレンの視線の先には、母と幼い子供。 休日、たまたま休みが重なった2人は、ショッピングモールへと出掛けていた。世間一般の休みと重なったためにどこもカップルや家族連れでいっぱいだ。 ちょっとした変装だけをして歩いてる2人は、それでも視線を集めている。堂々と闊歩しているため、『アイドル』だとは気付かれてないようだが、隠しきれないオーラや独特の雰囲気に、行き違う人々は思わず目を奪われているようだ。 そこですれ違った母子。どこにでもいるような、極々一般的な親子だったのだが、幼い頃に母親を亡くしたレンは、眩しそうに目を細め、少しだけ羨望の視線でそれを見送る。 「レンくん?」 それに気付いたサクが遠慮がちに呼びかけた。 「ああ、ごめん」 なんともばつの悪いところを見られてしまった。 レンは苦笑を浮かべてそれに答えた。 「オレはアイドル『円城寺蓮華』しか知らないからね。母親ってのはなんだか遠い存在なんだ」 普段から家族の話はするような人じゃない。ましてや生まれてすぐに亡くした母親のことなど特にだ。 話したくとも思い出のひとつもない。あるとすれば母親の不義理を疑われ出来た子だと思われていた(彼自身もそう思っていた)苦い思い出のみ。 そんなレンをきょとりと見ながらサクは首を傾げる。 「でもお母さんからの愛情は頂いてますよね」 「えっ?」 先程も述べたように産まれて間もなく亡くしてしまったから、彼自身、母親と接した記憶など皆無だ。たとえ逝去するまでにたくさんの愛情を注がれていたとしても、赤ん坊の頃のことなど覚えているはずがない。本人でさえ受け取った覚えがないものを、当時を知るはずもないサクはそれをもらったと言う。 「生憎とオレは赤ん坊の時の記憶なんて持っちゃいな……」 「たしかに触れ合い、大切に育てられること。それも愛情かもしれません。けれど人の記憶は曖昧で、どんなに忘れたくないようなことでもいつかは色褪せ、消えてしまうことがあります。まあ、愛された記憶というのは早々なくならないかもしれませんけどね」 でも……、とサクは続ける。 「それよりももっと明確なもの。レンくんはちゃーんともらってますよ」 彼女が何を言いたいのか。理解出来ないレンは珍しく眉間に皺を寄せる。 彼女には母親を亡くし、父親からは必要とされずに育った過去を話しているはず。その話の中で彼女はどこに蓮華からの愛を感じ取ったというのか。 「わかりませんか? レンくん」 「ああ。全然わからないね。オレを産んでくれた、そこには愛情があったからなのかもしれないけど、それだとサクの言う『もらった』という定義はおかしいだろう」 「はい」 ならば一体いつ、ずっと欲していたそれを受けたというのだろうか。 「答えは……名前、ですよ」 「名前?」 「名前というのはこの世に産まれて、最初に親が子に捧げるプレゼントってよく言うでしょう? そこに字は違うけど同じ『れん』という音を入れた。それって、愛してないとしないと思いませんか?」 「!」 「たとえレンくんが記憶を無くしても、あなたを知っている人がいる限りその名は絶対に消えたり無くなったりしない。いえ、たとえ記憶を無くしたとしてもあなたがレンくんだということは一生変わらない。名付けられてから死ぬまで、ずっと手の中に握り締めておける最高の贈り物ですよ」 名前なんて意味のないものだと思っていた。ただ人の個体を表す記号。持っていたとしてもそのくらいの認識。 だけどたしかにそこには、名付けてくれた人の愛情が詰まっている……のかもしれない。 どんな想いをもってこの名が授けられたのか。今となっては語られることはない。それを知るであろう人物は2人共、もうこの世にいないのだから。 けれど……、とレンは天を仰ぐ。 「そう……だといいね」 「そうですよ。だって、とても良く似合ってますもん、レンくんに」 ふわりと名前を呼びながら微笑むその顔は、自分の母親ももしかしたらそうやって呼んでくれていたかもしれない、なんて思うほど慈愛に満ちていて。 「ねぇ、サク」 「なんですか?」 「……もっと、呼んでくれないか。オレの名前を」 愛されているが故の同じ音。そう考えれば自分の名前が特別なものになったような気がする。 けれどそれ以上に。 (キミがそう考えてくれて、そして名を呼んでくれる。それだけでもう、オレにとってはトクベツだよ。なんて言ったら親不孝だと言われてしまうかな?) レンくんハピバ!ってことで。ありがちなお話をあぷしてみました。 自分の子供に同じ音を入れるって、愛してないと出来ないと思うんです。 ちょっと考察すると悲しくなってしまうのですが、長男次男は家に必要な人物だから、 誠一郎さんみたいに名前に漢数字が入ってるんじゃないかな?と。 んでレンくんは三男だし、彼を出産することにより蓮華さんの命が危ぶまれる。 しかも自分の子供じゃないかもしれないなんて思っていた父親は レンくんの命名には一切関わってない気がするのです。 「あら、だったら私がつけちゃうんだから」なーんて、蓮華さんは嬉々としてつけたんじゃないかな。 生まれてきてくれてありがとう。あなたが今、そのことを「良かった」って思えていて そういう気持ちを素直に出しているのを見ると、なんだかとても嬉しいのです。 ……文章おかしいな(笑)。とにかく!大好きですっ、あなたと出会えて良かった!! |