ちょっとだけ考えた後、あまりにもすんなりと承諾した朔夜に表面には出さないように一同は動揺する。 いくらステージ上でのスキンシップに慣れた朔夜と言えども少なからず躊躇うと思っていたからだ。 そしてやはり冗談として流されたとしてもおかしくはなかった。 「決まりごとなら」と受けた朔夜だが、きっと用意出来てないプレゼントの変わりになるならば、と思っての快諾なのだろうが、これがもし本当の意味で決まりごとに準じているのならば、今後彼女を自分達だけがいるところ以外では絶対に宿木の下に立たせてはいけない。 そう決意した彼らであった。 「朔夜がくれるならどこでも」 「そうですか、それじゃ」 まずはレンの肩にそっと手を乗せ、少しだけ背伸びをして頬にキスを贈る。 そのお返しとばかりにされた頬とは反対に位置する朔夜の頬にキスを送り返し、にっこりと微笑むレン。 「最高のプレゼントだよ。ありがとう朔夜」 いざしてみると妙に恥ずかしい気がして、薄っすら頬を桃色に染めながら朔夜もはにかむ。 それから正確には宿木の真下にいるわけではない他のメンバーにも同じように。 嬉しそうに屈んで頬を差し出した那月にすれば、ぎゅっと優しく抱きしめられ、額にキスを。 「ありがとうございますサクちゃん。素敵な贈り物です」 へへっと、こちらも少し恥ずかしそうな音也に贈ればレンとは反対側の頬にお返しを。 「もうすっごい嬉しい! ありがとね、朔夜っ」 緊張と恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いている翔の頬にふわりと口づけを落とせば、いくらか躊躇いながらも勢い良くこめかみ付近に口唇を押し付けられる。 「あー、うー……その、ありがとなっ、朔夜」 無表情を装いながらも本当は誰よりも動揺している真斗に贈れば、愛しさに思わず零れた笑みをその口元に湛えて朔夜の手を取りその手の甲に厳かにキスを返す。 「今日という日はきっと忘れられぬ日になる。ありがとう、サク」 最後に、あまり見ることのない優しい微笑を浮かべているトキヤの頬に、正面から斜めに顔を傾けて触れるだけの優しいキスを贈れば、両頬を彼の手で包まれて瞼の上にちゅっと軽い音が響く。 「ありがとうございます、朔夜。君のおかげで心に残るクリスマスになりました」 どうしても拭えない気恥ずかしさを精一杯押し込めて、彼らに向けて微笑みかける。 「こんな素敵なクリスマス、他では絶対に味わえませんでした。みんなといれて、私、すっごい幸せです」 それに彼らも笑みを返しながらも頬に触れた柔らかな感触の余韻に浸るのであった。 「ねぇ、レン」 「なんだい、イッキ」 食事の準備のために明かりを点けた室内。煌々と光る電気の下、あらためてツリーを見学していた朔夜の後方で、音也は小声でレンの名を呼んだ。 「こうやって見るとさ、あの『宿木』ってやつ? なんか天井にいっぱいあるんだけど……」 「たしかに。いつの間にあんなにたくさん用意していたのですか?」 会話を聞きつけた他のメンバーもそれに混ざる。 部屋の電気を点けた時点で、クリスマス気分を盛り上げるBGMを流したからこれくらいの声ならば拾われないだろう。 「確実性が欲しかったからね。何かいけなかったかな?」 「貴様というやつは……と、言いたいところだが今回はよくやったと褒めておこうか」 「レンくんのおかげで僕達、サクちゃんにちゅってしてもらえましたからねぇ」 「でもさ、あれ、朔夜も気付いたら突っ込まれるんじゃね?」 「「「「「……………………………」」」」」 電飾だけなら薄っすらと見えるくらいだし、まだただの飾りだと言い張れるだろうが、こう明るくてはその形もはっきりと同一の物と見て取れるからには言い逃れは出来ないだろう。 「食事を運び終えたら、もう一度電気を消しましょうか……」 「……その方が良さそうだな」 「サクちゃんあの下に来るたびにキスしてくれるんじゃないんですか?」 「「「「「それはない(だろう)(でしょう)」」」」」 一度きりのイベントと思ったからこそ、朔夜だって恥ずかしがりながらもみんなにしてくれたのだろうから。 これが挨拶の用に、いつでもしてもらえるようになるといいと思わずにいられない。 むしろそういう方向で朔夜を慣れさせるのも良いかもしれないな、とふと誰からか浮かんだ案を実行するのはいつになることやら。 「あ、さっちゃんが拗ねてる。そうだよね、さっちゃんもサクちゃんにちゅってして欲しいよね。サクちゃーんっ」 「なんですか、那月くん」 「俺にもクリスマスプレゼント、くれるよな?」 「わ、砂月くん? え、えっと……明るい中だと恥ずかしさ倍増なんですけど……。でも、砂月くんも一緒に用意してくれたんですね、ありがとうございます」 ちゅっ 「っ、………メリークリスマス、朔夜」 「はい、メリークリスマスです、砂月くん」
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