十二月に入ると街はイルミネーションは最高潮を迎える。それから店のショーウィンドウや内装など、至る所に見かけるスノーマンやサンタクロース。 恋人達が浮き足立つこのイベント、クリスマス。 だが恋愛禁止令が布かれているシャイニング事務所所属アイドル、ST☆RISH一同には全く関係ないことである。 もちろんクリスマスに因んだ取材や撮影なんかはもちろんあるが、あくまで仕事であり、イベントとはかけ離れている。 たとえ恋人がいなくても雰囲気だけは味わうことが出来るわけだが(何も恋人だけが楽しむイベントではないのだし)、それさえもままならない。 この時期は仕事の量も一層増えて休みは一切ないのである。アイドルもある意味サービス業なようなものだ。 しかし幸運なことにクリスマス当日は夜からはみんな揃っての生放送を控えているのだが、朝から番組の入り時間までは狙ったように全員のスケジュールが空いていた。恐らく夜の生放送のために空けていたのだとは思われるが、たまたまスケジュールを確認していた音也がそれに気付き(朔夜のスケジュールを見ていたのは言うまでもない)、他のメンバーと話し合って彼女には内緒で準備を進めていた。 これを逃せばイブもクリスマスも仕事で終わってしまう。 『明日マサの部屋でクリスマスパーティーするから来てねっ! んで、時間になったらみんなで一緒に仕事に行こっ』 前日に仕事先で受けたメールでの突然のお誘いに、朔夜が驚いたのも無理はない。 ここのところみんな忙しく、顔も合わせていない状況が続いた。現に朔夜自身もここ数日寮へは帰ってはいなかった。 だからこの半日オフの時間は、みんなゆっくり休むものだと思っていたけれどそれは違っていた。 驚きはしたものの、もちろんこのお誘いを断るなんてするはずもなく、すぐに返信した。 訪れた真斗の部屋の扉が開けられた途端目に飛び込んできた様々な飾り付けに、彼らが自分の知らない間に、ここまで用意をしてくれていたことにまたまたびっくりした。 「す……ごい…!」 「へへ。頑張ったんだよ!」 「不用心かもしれませんけど、数日前から真斗くんの部屋を解放しておいてもらって、みんなで仕事の合間に飾り付けたんです〜。 ピヨちゃん型の飾りは僕が作ったんですよぉ」 「入口のセキュリティは万全なのだから、建物内には関係者しか入れないだろう。 それにこの階は俺達しか住んでないから、他の人間は用がない限り立ち入るまい」 シャイニング早乙女がどういう人物なのかを知っている人間なら、尚更忍び込もうなどとは思わないはずだ。 知らない者だとしても、不用意に敷地内に忍び込めばその恐ろしさを知るだろう。 「さぁ、そんなところに立ってないで。中はもっと素晴らしいよ」 部屋に入ってすぐの光景に見惚れていた朔夜を、レンが手を取って奥へと導く。 「さぁレディ。どうだい、オレ達の力作は?」 「すっっごいです!! 本当に、いつの間にこんなっ……」 玄関は午前中だというのに何故か電気が点いていた。 窓から離れている分自然光が入らないから、その薄暗さを解消するために点けているのかと思ったのだが、その謎は玄関から中に進むにつれ明らかになっていった。 部屋へと繋がる廊下の先は暗くて、でも完全な真っ暗闇ではなくぼんやりとした明るさが転々としていた。 部屋に足を踏み入れると同時にその明るさは数を増し、一瞬目が眩みかけたもののよくよく見てみればそれは無数の電飾で。 雨戸でも閉めて部屋が暗くなるようにしていたのだろう。部屋の主な電気は点けずに電飾だけの明かりが瞬く。 部屋の一角には天井まで届きそうなツリー。 これも綺麗にモールや電飾で飾り付けられていて、部屋の電気なんか点けなくてもその全体像がはっきりとわかる。 「ツリーは俺様が飾り付けたんだぜ!」 手にスイッチを持った翔が得意気に言う。どうやら朔夜が部屋に入った瞬間に電飾を点灯させたのは彼のようだ。 「天辺のお星様は翔ちゃん、届かなかったですけどねぇ〜」 「余計なこと言うんじゃねぇ! つかさ、こんだけデカかったら普通届かねーっつーの」 「星だけじゃなくて、途中からは踏み台使ってましたしね」 「だーからっ! トキヤもんなとこ突っ込んでんじゃねーよっ!!」 二メートルを越えるそれを下から上まで飾り付けるとなれば、たしかに翔の身長では些か足りない(控え目に見ても)。 「料理は一ノ瀬と俺で作ったから安心するといい」 「昨日、仕事が終わってから下拵えを。和食が聖川さん、洋食を私が担当しました」 まかり間違っても那月には一切手出しはさせてない。二人の目がそう告げていた。 もしも那月がそれに加わっていたら夜に控えている生放送は、ST☆RISH(那月とレンは除く)全員が体調不良で出られないなどと言う事態に為りかねなかったろう。 「こんなに素敵なもの……、手伝ってない私まで味あわせて頂けるなんて、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいです……!」 「朔夜に見て欲しくて頑張ったんだから、朔夜が見ないで誰が見るのさ」 「そうそう、お前のその顔が見たくて俺達が勝手にやったんだから、気にすることねーよっ」 「私達からささやかですが朔夜へのクリスマスプレゼントです」 街で見かけるイルミネーションと比べても遜色ない、いや彼らが自分のために飾り付けたというそれはどんなものにも勝る。 忙しい仕事の合間を縫って、これほどの物を用意してくれた。その輝きひとつひとつに彼らの気持ちがこもっている。 それを思うと感動に胸が震える。 「最高のクリスマスプレゼントですっ! ……私、みんなにプレゼント用意出来なかったのにどうやってお返しすればいいのか……」 仕事に忙殺されて彼らにプレゼントを用意するということさえも忘れていた。それはみんなだって同じだったはずなのに、こんなに素敵なものを用意してくれていた。 何も返すものを持っていない自分が情けなくて仕方ない。 気落ちしてしまった朔夜を慰めるようにみんなで周りを取り囲む。 「僕達はサクちゃんとこうして過ごせることが何よりも嬉しい、素敵なプレゼントですよ」 「そうだな。だから笑ってはくれないか? お前の笑顔も俺達には充分クリスマスプレゼントになる」 本当なら二人っきりで過ごしたいものではあるが、それが叶わないことも知っている。どうせ誘ったとしても絶対に邪魔されるに決まっているからだ。 誰かに抜け駆けされるくらいならいっそのことみんなで過ごした方がいい。 「そうそう朔夜、『宿木』って知ってるかい?」 「『宿木』ですか?」 那月や真斗の言葉に朔夜が応え、人工の星々が瞬くこの部屋のどんな明かりよりも輝かしい笑顔を見せてくれたことにホッとしたところで、レンが朔夜に問いかける。 「そう」 すっと肩を抱いて反対の手で天井を指し示す。 見上げてみればそこに電飾で彩られた植物のような物が飾ってある。 「あれが宿木。クリスマスにはね、この下にいる男女はキスをしなければならないっていう決まりごとがあるんだよ」 「わぁ、そんなのもあったんですねぇ。ツリーとかリースとか、飾りってそういうものだけかと思ってました」 へぇ、と関心する朔夜に心が折れそうになるレン。意識して欲しいのはそこではないのだ。 「うん、だから朔夜からのクリスマスプレゼントとしてキスが欲しいな」 「へっ?」 ただこういう飾りもあるのだと知ってもらうために用意したわけじゃない。 こんな時でもないと彼女にそれを迫っても冗談としか受け取ってもらえないだろう。 「へー、これってそういう意味だったんだ。んじゃ俺も朔夜からして欲しいなっ」 レンに便乗した音也もキスを強請ってくる。もちろん他のメンバーもそれを黙って見過ごすことは出来ない。 一人がそれを受けるならもちろん自分もしてもらいたいに決まっている。 「……決まりごとならしないと、ですよねぇ。ほっぺでいいですか?」 |