今年も残すところ今日を入れてあと三日。 やけに寒い日が続いたと思えば夜中から雪が降りだし、朝には地面を全て覆ってしまうほどには降り積もった。 学園も数日前から冬休みに入り、年末年始ともなれば帰省する学生も少なくないようで寮内は閑散としていた。 朔夜を始めとするユニットメンバーは夏休み同様帰る者がおらず(春歌だけは年始を家族と過ごすために、昨日から帰省している)、ほぼ貸しきりに近い状態となっている寮で冬休みを満喫していた。 そんな中企画された真斗の誕生日パーティー。談話室を使って盛大に飾り付けをし、朝から朔夜とトキヤが手分けをして料理に励んでいた。 飾り付けを翔と那月に任せ、真斗の足止めを音也とレンが担当した。 適当に口実を作って料理が完成次第、どちらかの携帯に連絡を入れる手筈になっている。 「ねぇ翔ちゃん。飾り付け終わったら僕もサクちゃん達、手伝ってきますね!」 「いややや、ダメだ! 行くなっ」 「どうしてですかぁ? お料理の準備、大変でしょうし、少しでも人数多い方が早く終りますよぉ?」 那月は善意から申し出ているが、それはみんなにとっては厄災にしかならない。 「(お前が行った方が大変なことになるに決まってるっつーの!)頼むから行かないでくれ。(…背に腹は変えらんねー!)お、俺を……一人にしないでく…れ……」 「翔ちゃん!! ああ、僕がいないと寂しいんですねっ! わかりました、僕はどこにも行きません! ずっと翔ちゃんの傍にいますっ」 「イ、イテェエエエ―――――ッ!! 絞まってる、絞まってるって那月!!! く、クルシ……」 などという翔の捨て身の作戦など誰も知ることなく、着々と準備は進められていった。 (すまねー、聖川。俺、お前のこと祝ってやれねーかも) 談話室や各部屋に付いてるキッチンはそんなに大きいものではなく、一度に複数の料理を作るのには向いていない。 なので、朔夜とトキヤは学園の設備を借りていた。 「どうせ作るなら真斗くんの好きなものがいいですよねー」 「ええ。ですがそれだと音也や翔には物足りないでしょうから、和洋中取り混ぜた方が良いでしょう」 「なるほどー」 食べ盛りの男の子達が一体どのようなものを好むのか。 普段あまり食べない朔夜には見当がつかなかったので、トキヤに聞きながら料理に取り掛かる。 トキヤとて音也が好むようなものは普段食べないのだが、今日ばかりはカロリーなど気にして作っている場合ではない。 いや、もちろん自分用にそれらも作る気はあるが後回しだ。 (こうやって誰かと共に誰かのために食事を作ることになるなんて、昔の私は想像もしなかったでしょうね) 馴れ合うなんて馬鹿馬鹿しい。そんなことをしている暇があればレッスンに時間を使った方が有意義だ。 そんな思いを打ち破ってくれたのが朔夜だった。 「トキヤくん、これはこんな感じでいいですか?薄味の方が食べる時に調整きくし」 煮物の味付けにかかっていた朔夜が小皿を差し出して味見を頼む。 「……私は丁度良いと思いますよ。しかし食べないのに料理の腕はそれなり、というのもおかしな話ですね」 「作るのは好きなんですよ。食事を作る担当でしたし。それに料理って作ってるだけでお腹一杯になりませんか?」 養い親の少しでも助けになれれば、と食事の支度は全て請け負ってきたからある程度のものは作れる。 けれどもともと食の細い(食べる時は異様に食べる)朔夜は料理の時に漂う匂いで満腹感を感じるという。 「偏食ほど健康に悪いものはないんですが、君の場合はそれで成り立っていますしね。 しかしもう少し体重を増やさないと体力が持ちませんよ」 「冬は少し増えますよ〜。それに、トキヤくんがそう言うから少しは改善してるんです。休みでも二食はなるべく食べるようにしたりとか」 とは言っても長年染み付いている習慣というのはそうそう変わるわけもなく、『お腹が空いていればなるべく食べるようにしている』だけなのでたいした変わりではない。 「スパゲッティにサンドイッチに炊き込みご飯のおにぎり。主食はこれでいいですね」 「ええ。おかずもこれくらいで十分かと」 話しながらもお互い手を休めずに作り続けていたため、テーブルの上には相当な品数の料理が並んでいた。 これを二人で運ぶには少々時間がかかりそうだ。 「もう飾り付けも終わっているでしょうから、翔くん達に手伝ってもらいましょうかね」 「そうですね」 トキヤが同意すると同時に携帯を取りだし朔夜は翔へと連絡を入れる。 彼らに運ぶのを任せて調理器具の後片付けに取りかかることにしようと、一人心に決めた朔夜だった。 一方その頃レン達は…。 「で。結局お前は何をしにきたのだ、一十木。用事がないなら部屋に戻ったらどうだ」 真斗を引き留める役になっているはずの音也は、レンのソファーに陣取りテレビを見ていた。 「えっ!? 用事ならあるあるっ」 「どう見ても、ただテレビを見ているようにしか見えんがな。それならここでなくとも出来るだろう」 いつの間にか本来の目的を忘れ、すっかり寛いでいた音也だった。 (引き留めなくても、マサ、ずーっと机に向かって精神統一の一環? 書道とかしてるから安心しちゃったんだよねぇ。しかもレンも特になにするわけじゃなくって雑誌読んでるし。 この部屋はこれで普通なのかなぁ。俺だったら絶対トキヤに話しかけちゃう。んで、怒られるんだけどね……) 内心、苦笑を漏らしていると電話の音が鳴り響いた。 それにいち早く反応したのはレンで、脇に置いていた携帯を操作してじっと見つめる。 電話がかかってきたのではなく、メールだったらしい。 「イッキ、時間だ」 ベッドヘッドにもたれかかっていた身体を起こし、立ち上がりながら音也に呼び掛ける。 |