教室を出た後、真斗くんの携帯に電話を掛けると、グラウンドのステージを見学しているって言われた。 彼らのクラスはステージ希望者も多く、結局展示にしたみたいだったから、今日はずっと自由行動出来ることになってたんだよね。 携帯から漏れ聞こえる音や声だけでも、お客さんも多くって盛り上がっていることが窺い知れた。 「どこか展示物とか見に行きます?」 「どうせ見るなら彼らと同じようにステージでしょうね。クラス展示物は私達が日々どのようなことを行っているか、といった一般の方々向けが多いでしょう」 「オレ達には新鮮味の欠片もないってね。他の模擬店に行ってゆっくりするっていうのもいいと思うけどな」 「……ゆっくり出来るのか?」 翔くんががそれを疑問に思うのも無理はない。クラスを離れたけれどレンくん、トキヤくんそして翔くんは普通に人目を惹くから。学園の生徒達も最初の頃はすごい騒いでたけど、この時期になると落ち着いてきたよね。あ、レンくんは別。こうやって歩いてる今も、やっぱり外部から来た人からすれば気になるらしく、ちらちらと視線が送られてくる。 「そろそろお昼ですし、模擬店に入るかどうかは別としても何か買いに行きますか。お腹空いてきたし」 「めっずらし。朔夜の口から腹減ったとか」 「学園長が僕達がやってる模擬店とは別に、外から屋台呼んでるじゃないですか。正門からの通りにずらーっと! なんかああいうのってとても食欲そそられます」 実は屋台が出るって聞いて朝から楽しみにしてたんだよね。たこ焼き大好きっ。 「購入して食堂ですかね。、教室のような閉鎖空間よりはゆっくり出来るでしょう。人が多いのには違いありませんがね。 ステージを見るにしても、食べ終わってからでも時間は十分ありますし」 「屋台の食べ物はイッチーは絶対食べないだろうけどね」 私達はクラスの手伝いがあったから別行動の音也くん達とは、もともとお昼頃に食堂で合流しようと話していたんだ。 座るところがないならどこかへ移動するも良いし、学園の敷地内すべてを使って出店やステージを行っているわけじゃないから、一般の来場者が入ってこない場所に行けば落ち着くことも可能だと思う。学園関係者は特に立ち入り禁止ってのはなかったはず。 まだまだ来場する人もいるから正門の通りは人通りが多い。 「たこ焼きたこ焼き〜」 目的は決まっているけど屋台は見ているだけで楽しい。 周りをきょろきょろ見回してると、レンくんがくつくつと笑いを漏らす。どうせ子供っぽいとか思われてるんだろなぁ。 でもいくつになってもお祭りって楽しいものでしょ? 学園祭っていうお祭り騒ぎに屋台、これで興奮しないわけがない。 「レンくんと翔くんは何か食べますか〜? それとも食堂? あ、クレープもあるっ」 甘いものはそこまでたくさん食べられないけど、クレープってなんだか無性に食べたくなる時があるんだよね。 食べ物の屋台だけじゃなくて金魚すくいとかまであったりして、まるで本当のお祭りみたいだ。 「ガキみてーにはしゃいでんな、朔夜のやつ」 「可愛いじゃないか。ああやって少しずつ本当の朔夜を見せてくれて、オレは嬉しいけどね」 「たまにですが敬語も取れてきてますしね。もっとくだけても良いと思いますが」 「敬語がデフォルトのイッチーがそれを言ってもね?」 一人でふらふらと屋台を見てたから、ちょっと後ろで翔くん達がそんな会話を交わしてたのは耳に届かなかった。もし聞いてたとしたら、翔くんだって屋台見てうずうずしてるでしょって突っ込みたかったけどね。 「アッキー! クレープは何が食べたいんだい?」 呼び込みや人の会話でざわざわとしている通りに、レンくんの少しだけ大きく呼びかける声が聞こえる。もう随分と一緒にいるから、どんな人込みの中にいても彼らの声は聞き分ける自信があるな。それぞれにみんな特徴ある声をしてるし。 振り返ってみると思ってたより彼らと距離があいてて、どれだけ自分が浮かれてるかを気付かされる。それを誤魔化すみたいにちょっと早足で彼らのもとに戻ると、くすりと笑って迎えられた。 「クレープがどうかしましたか?」 「アッキーは何が好きなのかなと思ってね」 「んー、食べる時はポテトサラダとかチーズとか甘くないのものの方が多いかもしれませんね。でもクレープって言ったら甘いものでしょう? だから甘いのも捨てがたくっていっつも迷ってますけど」 「了解」 「えっ?」 それだけを言うと、レンくんはたぶんさっき見たクレープの屋台(というかワゴンだったけど)の方に歩いて行っちゃった。華麗な身のこなしで人を避けていく様もそれだけで絵になる。 けど彼が一人になると、周りにいた女の子達がそれに気付いて一緒に動き出した。これはしばらく戻って来れないパターン、かな。 「あれ、翔くんもいなかったんだ。……どうしましょう?」 「食堂に行くことは決まってますし、知らないところでもありません。私達がここを動いても支障はないでしょう。見当たらなければ(朔夜に)電話でも掛けてくるに違いないですから」 「そっか、そうですよね。それじゃ僕も買ってきますね」 いくら涼しい季節とはいえ、これだけ人がいるとその熱気に中てられて若干辛い。 トキヤくんだって人の多いところは苦手なんだから用事は早く済ませるに限ると、彼をあまり待たせないように急ぎ足で目的の場所に行こうと思ったんだけど、後ろからその腕を掴まれてしまった。 「トキヤくん? 何か欲しいものでもありましたか?」 「一人で行くことはないでしょう。どうせ私は買うものはありませんし」 「すぐ戻ってくるつもりだったんですけど、それじゃあ一緒に」 そう言うとふわりと表情を緩める。 最近のトキヤくんはこうして優しい顔を良くするようになったと思う。心に少し余裕が出てきたってことかな。常に張り詰めた感じがなくなって、前より一層魅力が増したと思うのは私だけじゃないというのは、すれ違う女の子の表情からもわかる。 人を避けながら目的のたこ焼き屋さんまで移動して無事に購入。一応翔くんたちも食べるかなと思って二舟買っておきました。 翔くんもいつも良く食べるなと思うけど、意外とレンくんの方が食べるんだよね。 「んー、いい匂いっ」 「たしかに食欲はそそられますよね」 これは私以上に珍しいかも。 だから手に持ってたビニール袋から(二舟買うと入れてくれた)たこ焼きを取り出して蓋を開け、その中のひとつに楊枝を刺してトキヤくんの前に出してみた。 「何ですか?」 「冷める前に食べます? 出来たてですからきっと美味しいですよー」 「………」 固まってしまったトキヤくんを見てやっぱりだめかと心で呟く。いや、わかってたけどね。 自分の体型とかきちんと管理して、食事制限やトレーニングなんかをしてるからいっつもすごいなって思うんだ。そこまでストイックなれるのって、やっぱりアイドルっていう職業、それから歌を歌うってことが大好きだから出来ることだと思うし。 無理に食べさせたいわけじゃないから手を引っ込めようとしたんだけど、動かす前に手首を掴まれて、楊枝の先のたこ焼きをパクリと食べるトキヤくん。 「熱く、ないですか?」 「…………、ん……それなりに。でも、久しぶりに食べた気がします。美味しかったです、ごちそうさま」 「僕も久しぶりなんですよね、一個食べちゃおっと」 たこ焼きとかあったかいものは、アツアツのうちに食べるのがやっぱり良いよね。 ホクホクと湯気の出ているそれをさっきと同じように突き刺して、勢い良く口に入れると同じくらいにトキヤくんが息を呑むのが聞こえて、何か言ったんだけどそれを聞き返すことも出来なかった。 「っ、君は本当に……。無自覚なのが怖いですね」 「ほへ? っ〜〜〜〜〜!! はふっ、んっ………ト、キヤくん…………。よくこんな熱いものさらっと食べましたねっ?」 それなりとかのレベルじゃない。中がとろーっとしてるから余計に熱いのに、あんな涼しい顔して食べるなんてトキヤくんてすごすぎる! 出来上がったばかりのものをもらったんだけど、トキヤくんの反応からそこまで熱くないんだと思ってたら大間違い。ちょっとだけ口の中火傷した気がするけど、でもやっぱり美味しいな。 「ここにレンがいなくて良かったです」 「?」 「オレがどうしたって?」 何故レンくんがここにいなくて良かったのかわからなくて首を傾げる。それと同時に前方に現れたレンくんの肩越しに、名残惜しそうな女の子の集団が見えた。 私の視線の先に気付いたレンくんが、そっちを向いて「またね」と手を振ると、きゃあと黄色い声が上がる。本当にモテるよね、レンくんって。 「アッキーはどっちがいい?」 「わぁ、クレープ! もらってもいいんですか?」 「もちろん」 中身は告げずに目の前に差し出される二つのクレープ。とりあえずたこ焼きは蓋をしてビニール袋にしまい直す。 外見からは味が判別出来ないようにしたのか、裏面を向けてくるから勘で選ぶしかないよね。 「それじゃこっちで」 「はい、どうぞ。と言ってもどっちもアッキー用に買ってきたんだけどね」 「そんなに食べれませんよ、たぶん」 受け取ったクレープは筒型に包まれてるタイプじゃないから、こうやって正面から見てみても中身がわからない。レンくんが選んだものだから激辛とかだったらどうしようと一瞬浮かんだけど、そういえば買いに行く前に何が好きか聞かれたんだっけと思い直す。 中身を想像すると食べたくなってくるんだけど、食堂でみんなで食べようって言ってるのに、辿り着くまでに買ったものなくなっちゃったら駄目だよね、うん。 でもそんな考え彼らにはお見通しだったみたい。 「食べないんですか?」 「でも、お昼はみんなで、」 「食べたいって思う時に食べるのが一番美味しいと思うよ?」 そこまで言われちゃうとますます食べたくなっちゃう。 お腹が空いてる時に食べないと、その後は食べなくてもいいかな? なんて思うことはしょっちゅうだから、今食べた方が美味しいはず。 せっかくレンくんが買って来てくれたものだし、食べないっていう選択肢はないんだけどね。 「それじゃ……イタダキマス」 「召し上がれ」 一緒に食べてくれてればいいんだけど、二人に見られながら一人で食べるのはなんだか気恥ずかしい。 でもさっきのたこ焼きと一緒で、クレープの生地の甘くどこか優しい匂いはとても食欲をそそられるから、遠慮なく食べることにした。 「んっ、おいしー! なんだろこれ、チーズケーキですか?生クリームも入ってるけど全然甘ったるくないし、ブルーベリーの酸味がちょうどいい感じで食べやすいっ」 「選んだのはデザートクレープだったか。さすがボスだよね、材料もいいもの使ってるみたいだったよ。もしかしたらどこかからパティシエでも呼んだのかもしれない」 「あの人はまたそんなところにお金をかけてるんですか。日向さんも大変でしょうね」 それなのに値段は一般的な価格だというんだから嬉しいよね。あ、だから日向先生が頭を抱えるのか。 「アッキー、一口もらってもいいかい?」 「もちろんですよ、レンくんが買ってきてくれたものなんだし」 はい、と差し出すと頬にかかる両サイドの髪を片手で後ろへ掻きあげて一口。 その瞬間、トキヤくんの溜息となんだか多数の視線を感じたけど、トキヤくんはいつものこととして、視線の意味がわからない。 「ん、なかなかイケるね。これならオレでも食べられそうだ」 「ですよねっ。……うん、おいしっ。レンくん、まだ食べます?」 「いや、もう十分だよ―――それに朔夜が食べてるのを見てた方が楽しいしね」 「? そうですか?」 クレープは美味しくってそれだけでご機嫌になる。 喉の調子も絶好調だし午後からのステージを考えると、音也くんじゃないけど早く歌いたいなって思う。 みんなと歌う歌を、初めて大勢の人に聞いてもらえる。こうやってリラックスした気持ちのまま臨めば、いつもの私たちの力を十二分に出せるに違いないよね。 (イッチーだけに美味しい思いはさせられない、ってね) (……見てたんですか) (それはもうバッチリと) SSに回しても良かったようなお話なんですけど、こちらに。なんとなくトキヤとレンにいちゃつかせたくなった。翔くん空気。ごめんよぅ。 こうやって関係ない話入れるから長くなるんですよね、すみません; ちなみにたこ焼きは中まで火がしっかり入ってるのもとろっとしてるのも大好きでs 明石焼きとかも……すいません、余談過ぎます(爆) |