触れる手、交わす言葉、繋ぐ心

□10月  −一難去って、その後は?−
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「六番テーブル、コーヒー二つお願いしまーす!」


やってきました学園祭!

生徒達が作り上げるこのイベントは、体育祭とは違って危機感を感じさせないのがいい。どこかで乱入してくることはあるかもしれないけど、学園長発案の展示物や模擬店がないだけで一安心だ。

あったとしても学園の生徒なら近付きはしないだろうけど、何気に興味を惹かれるものを持ってきたりするから、絶対とは言い切れないところがあの人のすごいところだと思う。怖いもの見たさというか、度胸試しというか……。

そんな中、私達のステージは最後の最後だからと、午前中のうちにクラスを手伝っちゃおうなんて思ってやってきたのが失敗だった。

めちゃくちゃ忙しい!!

喫茶店をすることになってたからレンくんと翔くん、それから無理やり引っ張ってきたトキヤくんとギャルソンとして給仕をしてたら、なんか女の子がいっぱいで、特にレンくんなんかいつもの調子で接待するものだから、女性客の足が絶えない。

学園は普段は部外者立ち入り禁止だから、この機会にアイドルの卵である私達を間近で見れるとあって、たくさん一般の人が来てるみたい。

その中でもレンくんはテレビにも出てるし、すでに固定のファンもいるから、人気は半端ないよね。それからトキヤくんも。HAYATOと瓜二つな(当たり前だけど)彼にも興味津々みたいなんだけど、不機嫌オーラをビンビンに発してるから、遠巻きでみんな近寄ろうとしない。

接客業なのにそんな顔してちゃ駄目じゃん。

翔くんなんか「カワイー!!」って言われるたびに「可愛い言うなっ!!!」って噛み付いてて、その反応がまた女性客に喜ばれたりして、もう笑顔も出ないほど疲れてるよ。

微笑ましいけど私も他人事と笑って見てもいられない。

実は私にもさっきから女の子達の視線が突き刺さってて、レンくんほどのサービスは出来ないけど精一杯応えてるつもり。笑顔、引き攣ってないかな、大丈夫かな。


「お待たせしました。ケーキセットのお客様は?」

「あっ、あたしです」


どうやらここに足を運んでくれた女の子たちの大半は、おはやっほーニュースを見て私達を知ってくれたみたいなんだ。中にはあのファンレターをくれた子もいるらしくって、テレビの影響力ってすごいな、なんて思う。

話しかけてきてくれた子達がそれ以来応援してくれていると聞いて、嬉しくならないはずがない。


「二回目に出たときもバッチリ見てました!」

「ありがとうございます。HAYATOさん、いい表情してたでしょう?」

「とっても可愛かったですっ」


今のはトキヤくんにも聞こえただろうなぁ。なんてちらりと顔を見てみるとムスッとした顔で睨まれた。もう、そんな顔することないのに。

HAYATOがそういう印象を持たれるキャラクターだっていうのは、作り上げたトキヤくんが一番良く知ってるはずなんだから。

調理用に区切ってあるスペースに帰り、クラスの子に頼まれた注文を通す。するとこの模擬店を仕切ってくれてる、クラスメイトの女の子が声をかけてくれた。


「朔夜くん達、午後からステージなんでしょう? そろそろ交代の子も来るから替わっていいよ〜」

「え、でも、まだあんまり手伝えてないですよ?」

「いーからっ! 朔夜くん達いるとお客さんの回転遅くなっちゃうだもん」


あー、はい。特にレンくんがいるとね……。

片手間に女の子を扱うことは絶対しないから、その分接客の時間は長くなる。そうすると滞在時間も延びて……という風に、確かに回転は悪くなるよね。


「わかりました、それじゃ今彼らがやってる接客が終わり次第引き上げます。ごめんね、あんまり手伝えなくて」

「ううん、もともとステージ出る人は免除だったんだから、来てくれただけで嬉しい。それにおかげで大盛況だしねっ」


にっこり笑ってそんなこと言ってくれる。外にもまだお客さん待ってるから本当は一人でも人手が欲しいはずなのに、気を遣ってこう申し出てくれるのはありがたい。やっぱり空いてる時間を使って、他のステージがどんな風なのかも見ておきたいしね。

エプロンを脱いで、ギャルソンは終了。トキヤくんはすぐに来るだろうから、まだ女の子達に掴まってるレンくんと翔くんにこのことを伝えに行く。


「レンくん」

「うん? なんだいアッキー」


五、六人の女の子グループのテーブルに捕まっていた(というより自主的サービスか)レンくんのもとへ行くと、きゃーっと歓声が上がる。うわ、なんだかアイドルになった気分。

せっかく楽しんでいるのに邪魔しちゃうのは申し訳ないけど、音也くん達とも合流しなきゃだしね。

それにしてもレンくん、こういう格好似合いすぎる。本当はされる側なんだろうけど、慣れた姿で給仕しているのは、やっぱり普段から女の子を大切に扱っているがゆえ、かな。


「もう上がっていいそうなので」


お客さんの前でおおっぴらに抜けることを言うのも悪いから、レンくんをちょっとだけテーブルから離して小声で告げると、何故だか周りの視線が集まる。


「??」


それに首を傾げると、苦笑いを浮かべたレンくんが私の頭をポンポンと軽く叩いてから、今まで接客していたテーブルの女の子達を振り向いた。


「残念だけどレディ達、そろそろお別れのようだ」


そう言うとそこのテーブルだけじゃなく、他のテーブル、果ては待っているお客さんまで一斉に「えー!」と残念そうな声を上げる。さすがというかなんというか。

これで大体わかったのか、翔くんとトキヤくんも接客に区切りをつけ始めたよう。


「せっかく来たんだから、オレ達のクラスでゆっくりお茶を楽しんでいって」

「すみません。もっといられればよかったんですが」

「午後の最終ステージで待ってるから、また逢おう。子羊ちゃん達」


パチリとお得意のウインクをすれば、みんな声もなくぶんぶんと首を縦に振ってそれに答える。

やっぱりレンくんはアイドルになる素質というか、必要な要素をすべて持ってる人なんだなって感心しちゃう。その場にいる人の心をすぐに掴んでしまうなんて、そうそう出来ることじゃないもんね。







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