そういえば。ここに入ってから七海さんが一言も口を開いてないな……なんて思って様子を窺うと、 「七海さん?」 「ひぇっ!? は、はいっ、ななななんでしょうかっ」 ――――テンパってた。 それもそうかぁ。だって七海さんはHAYATOのことすごく大好きで、いつかHAYATOに自分の曲を歌って欲しくて、作曲家を目指したんだもんね。 「こうなるのが目に見えたから、七海には最初、席外してもらってたんだよね」 ああ、やっぱりそうだったんだ。憧れの人物を目の前にして、冷静でいられるはずないもんね。6月のあの時だって、かなり舞い上がってたし。 「おやおや。子羊ちゃんには、まだちょっと頭の整理が必要かな?」 「ええええええっと、はっ、はは、HAYATO様が一ノ瀬さんで一ノ瀬さんがHAYATO様で、でも一ノ瀬さんは一ノ瀬さんでっ……一ノ瀬さんが、わわわた、わたしの曲を」 本人を目の前にするまでは実感が沸かなかったのかもしれないけど、この慌てようはすごい。身体全部を使ってわたわたとし、顔なんて言わず、服から覗いている肌全部が真っ赤で頭が沸騰寸前って感じ。倒れちゃわないかなぁ……。 「落ち着け七海。お前の目の前にいるのは一ノ瀬であってHAYATOではない」 真斗くんのその言葉に瞬間、ハッとして動きを止め、それから何度もぺこぺことトキヤくんに向かって「すみません、すみませんっ」と頭を下げ始める。ああ、そんなことしたら余計にクラクラしちゃうよっ。 七海さんはHAYATOの大ファンなんだから、混乱してもおかしくないし、普通はこういう反応が当たり前だと思うんだよね。悪気があるわけじゃないし、彼女もトキヤくんがトキヤくんなんだってこと、ちゃんとわかってるのは言葉からも伝わってくるもん。 「謝る必要はありません。逆にお礼を言わなければなりませんね。ずっと……HAYATOを応援してくださって、ありがとうございます」 「いいいえっ! わたしもHAYATO様に救われましたからっ、お礼なんて!!!」 「それから……あなたの夢を、叶えて差し上げることができなくてすみません」 少し前にトキヤくんが言っていたことがある。七海さんのような作曲家の曲なら、HAYATOとして歌っても少しは苦しみから逃れられたのかもしれないと。 売れるための音楽ではなく、HAYATOを想い、HAYATOのためだけに書かれた曲ならば。そう言って弱々しい笑みを浮かべたトキヤくんを今でも覚えてる。 でも今は、これからは。 「っ! たしかに……HAYATO様に歌って欲しくて作曲家を目指しましたし、この学園にも入りました。けど……みなさんに出会って、みなさんの歌を聞いて……ユニットを組ませて頂いた時から、わたしの目標は変わりました。 わたしの今の目標は、わたしの曲でみなさんと一緒にトップアイドルを目指すことですから!」 私がただ単にアイドルを目指すという夢から、『みんなと一緒に』アイドルになると決めたように、彼女もまた同じ想いで私たちと共に歩んでる。一人で見ていた夢を今度は八人で。すでに視線は新しい道の先を見てる。 「そんじゃっ、朔夜も言ってたけど、まずは学園祭のステージ! これを成功させなきゃトップアイドルなんてなれねーなっ!」 「翔ちゃんの言うとおりですね。でも曲も歌も、とぉーっても素敵ですから、僕たちのステージはきっと大成功します」 「ああ。しかしまだまだ詰めようはあるからな。そうと決まれば早速練習でもするか」 「オレはもう完璧だけどね。ま、このオレの足を引っ張らないように頑張ってくれよ?」 「何を言ってるんですか、レン。あなたはもう少し基礎体力をつけた方がいいですよ。ブレスまで息が続かない時もあるでしょう」 すべてが片付いて、壊れることなく前のまま……なんて思っていたけど、そうじゃなかったみたい。 雰囲気が、表情が、前よりずっとずっと良くなって、みんなが更にひとつになったような気がするから。 お互いを想い、支えあい、時には叱咤激励して。本音をぶつけ合えばより絆が深まる。みんなの顔は希望と自信に満ち溢れ、そして前より一層穏やかな雰囲気を纏っていた。 「でもさ、七海の夢も叶えてあげればいいじゃん」 一人何かを考えていた音也くんが、爆弾を投下するまでは。 「だって、いずれはHAYATOがトキヤだったってことみんな知るんでしょ? それでもし受け入れてもらえるなら、HAYATOをやったっていいんじゃないの?」 「何を言い出すんですか、あなたはまったく……」 「あ、僕もそれは賛成しますっ。だって、トキヤくんのHAYATO、僕は好きですから」 「なっ、朔夜まで!?」 「トキヤくんは、もうHAYATOを演じたくないですか? みんながトキヤくんだということを認識しても、やっぱりHAYATOのことは嫌いですか?」 「それは……。しかし、業界はそう甘い考えが通るところではありません。契約などの問題もありますし……」 「よぉーっし! んじゃ俺、シャイニング早乙女んとこ行って来るわ! こんな面白いことそのまんまにしておけねーっつの!」 「ちょ!? 待ちなさいっ、翔!!!」 「イッチーも往生際が悪いねぇ。まだデビューも決まったわけじゃないこの状況でするには気の早い話だと思うけど、それでも最終的に優勝するのはオレたちなのは決まっているわけだし、別に問題はないか」 「問題大ありです!!」 「あの方のことだ。きっと先方にも話を通して即決するかもしれんな……。気の毒だとは思うが、諦めろ」 「わぁ、じゃあ僕もHAYATOくんと歌える時が来るかもしれないんですねぇ! 僕、あれ大好きです!! 『おはにゃっ、おはにゃっ、らぶらぶ〜どりいむ〜♪』」 「止めてください、四ノ宮さんっ!!!」 「………………………………」 「なんですか…………そんなキラキラした目で見ないでいただけますか、七海さん」 アニメのようなシリアスも考えたのですが、やっぱりうちではこう!の方がらしいかな、と(笑) ゲームだと音也なんかすんなり受け入れてますしね。 そんな感じであっさり受け入れ完了です(ぇ) 一応、さっちゃんも(うちでは)生き残りましたし、HAYATO様ももしかしたら? という線を残しておきました。 朔夜ちゃんの件に関しての音也くんたちの反応は、入れるとまたまた長くなりそうなので機会があれば小話としてSSの方でも書かせて頂こうと思います。 やっと次回から時間軸を元に戻せます。そして書きたかったネタをっ。 |