「そういう点で言えば、ミュージカルなんかも良さそうですね。演技も出来て歌えるし、踊りもあったり」 「俺、演技は自信ねぇな……」 「おチビちゃんは特にラブシーンが苦手だよね。愛のセリフになる度に顔、真っ赤にしちゃってさ」 「うううううるせぇ! 大体だな、まだ好きなやつにコクってもねぇのに、恥ずかしくてあんなの言えるかっ!!」 おお、翔くんの大胆発言。って好きな子いたのかぁ。やっぱり校則気にして告白出来なかったりするんだろうか。 「ええーっ!? 翔って好きな子いたのっ?」 うんうん、やっぱり突っ込むところはそこだよね。 「!! やっ、違うそういう意味で言ったんじゃねーよっ」 「そっかそっか、翔に好きな子がねー」 「だからっ! 違うっつってんだろうが!!」 「いいっていいって、隠さなくってもさー」 ムキになればなるほど、本当に違う場合でもそう聞こえちゃうんだよねぇ。そしてからかう方もそれが面白くって更に……って、これは翔くんとレンくんのいつものパターンだよ。 ラブシーンはたしかに難しいし、好きな人とかいないと想像出来なかったりする。でも演技って不思議で、その役になりきればなりきるほど、自然と『愛しい』って気持ちが湧きあがってくるんだよね。 それにしても音也くん以外のみんなは気にならないのかな? 笑ったり呆れたりしてるだけで特に突っ込みなしだ。 「とにかーく! 七海のことも考えるとさ、新しく曲作ったりするより、今あるものを完っ璧に仕上げた方が完成度も高いんじゃね?」 「わたしのことなら大丈夫ですっ。BGMというのはまだ挑戦したことないですけどおもしろそうですし、それに学園祭まではまだ期間がありますから」 「たしかにハルちゃんならすぐに曲を作ってしまいそうですけど、それで無理されても困りますしねぇ」 演技をするとして、それだと何をやるかまず演目を決めないとだし、それから私達の人数に合わせて脚本とかも変えないといけないだろうから、練習に入るまでにもそれなりの時間がかかる。 構成や演出なんかも自分達で全部作らないといけないから、七海さんに音楽のことは任せっぱなしになってしまう。もちろん私達が何も言わなくても七海さんはいつだって良い曲を作ってくれるけど、歌とBGMの作り方ってまったく違うと思うから、彼女が助言が欲しい時に私達が忙しいと、一人で頑張り過ぎちゃうような気もする。 そう考えるとユニットは、やっぱり歌を聞いてもらうのが一番良い。トキヤくんじゃないけど、どうせなら完璧な歌と格好良いステージングでみんなを圧倒したい。 なんだかんだで曲数はそこそこあるし、期間もあるんだからそれが十分可能なはず。 翔くんの言葉や七海さんの態度でみんな同じように思ったみたいで、どうやら普通に歌を歌うことになりそう。 「翔くんの意見も一理あると思いますし、七海さんも心配だから歌で良いですかね?ダンスとかもやるなら今から練習すればちょうどいいと思いますし」 「やったー! やっぱ初めてのステージは歌が良かったんだよねっ」 「わたし、大丈夫なのになぁ」 七海さんの大丈夫は信用出来ないのはみんな知ってる。曲を作るのにしょっちゅう徹夜してたりするんだから。 それにしても本当に嬉しそう。 音也くんのキラキラは、ステージに上がって観客のみんなが喜んだり楽しんだりすると、ますます大きくなるだろうな。 演者はまず自分が楽しまないと、見てる方も楽しんでもらえないものだしね。 「はい、それじゃあ決まりで! 何曲くらい歌いますか? 今あるのは全員の曲が三曲と……」 「AクラスのとSクラスユニット曲、それから作りかけですがみなさんをイメージして作ったのもありますので、もし気に入って頂けたらこちらも仕上げます」 みんなが一斉に七海さんの方を向く。だってソロ用の曲を作ってたなんて全然知らなかった。 彼女は私達といると音が尽きないとよく口にするけど、それは偽りなく本当のことなのだとあらためて思い知らされる。ついこの間新しいユニットの曲が完成したばかりだというのに、それらと平行して七人分もの曲も同時に作っていたというのだから……脱帽だ。 「課題の時のアッキーの曲も使えるんじゃないか? もう少し手を加えればきっともっと良い曲になるよ」 「それを言うなら那月くんや真斗くんも作ってますよね?弾き語りで歌っていたあの曲、僕はすごく好きだなぁ。那月くんも、楽譜見せてもらいましたけど、あれはすごかったです」 他にも音也くんなんかはギターで何か作ってたし、レンくんもサックスを取り入れた曲が作りたいとか言って相談受けたもの。翔くんはあれだ、日向先生の昔のドラマの歌を自分流にアレンジしてたり。トキヤくんにしたってあの音楽センス、七海さんへの的確な指摘といい、絶対自分で曲作ったことあるよね。 彼が作ったものじゃないけどHAYATOのあの歌、私は好きなんだけど、あれを歌うのはさすがにマズイよなぁ。 ともかく、曲を作っていたのは私一人だけじゃないんだから、わざわざ私のを使わなくてもいいと思うんだ。 「あまり曲数が多くてもあれだからな。今回はソロよりも全員、もしくは数人で歌うものが良いだろう。その方がユニットとしての力を知ってもらえる」 「うーん、じゃあ全部で六曲?」 「それ、明らかに僕の入ってますよね……」 「俺は朔夜の曲好きだからさんせー。 でもさ、あれってデュエットだよな? 誰が歌うんだ?」 「……もともとはユニットソングだったんです。それをレンくんと練習してる時に、二人で歌えるようにちょこっと直したので」 「そうだったんだぁ、じゃあやっぱり朔夜のも入れちゃお! それからさ、こっちのユニットソング、今回は朔夜にも入って欲しいな」 なんだかかるーく決定されてるよね。 これは七海さんにも手伝ってもらって、もう少し練り直した方が良いかなぁ。大勢の前で聞いてもらうなら、もっと良いものにしておきたいし。歌詞だってみんなで作リ直した方が良いかもしれない。 「Aクラスのは、僕が入ることでバランス崩れませんか?」 「その辺は心配いらんだろう。サクは呼吸を合わすのが上手いからな。一十木が走っても合わせられるに違いない」 「気分が乗ってくると、どうしてもリズムが先走っちゃうんだよねー」 走ること前提で話されるのもどうかと思うけど、でもその気持ちもわかるな。そうだとしてもユニットは他の人と歌うものだから、やっぱり合わせないと駄目だよー、音也くん。 「サクちゃんの声は、僕達と相性バッチリですから全然大丈夫ですよぉ」 だとすると私はAクラスの曲も練習しないと駄目だな。私達のとは違う、爽やかな疾走感があるからこの曲も好きなんだよね。彼らの雰囲気にも合ってるし。Sクラスのは重厚感があるって言うか、ちょっと大人びた感じ、かな。 「どちらにしても、ステージを引き当てないと出来ないけどね」 「希望者多数だと抽選ですもんね。これって一グループで一人しか抽選に参加できないんでしたっけ?」 「一グループ三名までいけるみたいですね。ただ、一人で申し込んでいる人と確立が変わらないように調整はされるようです」 そうだよね、そうしないと人数多い方が得だもんね。 「第一希望は、やっぱり一番席も多い講堂だろ?」 「もし雨が降った場合でも心配いらないですもんねっ」 「グラウンドや中庭にも屋根つきの特設会場が設置されるようだが、客席にはそれはないようだ。なら選ぶのはやはり、屋内であり且つ音響設備がしっかりしている講堂だろうな」 ということで第一希望・講堂、第二希望・グラウンド、第三希望・中庭で提出することにした。 みんなでじゃんけんをして抽選に挑むのは音也くん、那月くん、レンくんに。なんだかみんな運が良さそうだから安心して任せられる気がする。 最悪場所はどこだっていいからステージを引き当ててくださいねっ! 10月編に突入です。学園祭本番に行く前の序章です。またの名を「翔ちゃんのうっかりポロリ第二弾」。 音也と春歌ちゃん以外はみんな知ってるので苦笑いですよっ。 かるーいノリで最後までいけるといいなぁ。 |